06





カカシが生きていてひとまず安心はしたものの、予想通り同じ部屋に主犯と見られる男もいた。手足を縄で縛られ横たわるカカシの体には、綱手様の予想通り火遁・天牢の術式が刻まれている。そしてその他にも傷があった。

痛かっただろう、苦しかっただろう、心細かっただろう。縋るような視線を向けてくるカカシのそばに跪いた。


「…遅くなってごめん」
「いいや、平気だよ。来てくれてありがとう」
「それと、これが終わったら、言いたいことがあるんだけど」
「!……わかった」


はめられた縄をクナイで切りながらそう言うと、カカシの背中がぴくりと震え、深呼吸をした後頷かれた。カカシに手を貸し立ち上がって、揃って男を睨みつける。もちろん殺気も忘れずに。


「……はっ。甘やかされた木ノ葉の犬がいくら集ったところで、所詮は犬。俺たちの計画に支障はない」
「…」
「貴様らは火遁・天牢の恐ろしさをわかってはいない。ここら一帯は風の国に近い故に雨も降らん。池もなければ海などもってのほか。それでも貴様らはこの俺に勝てるとほざくか」
「そんなことは問題外だ」
「……なに?」
「カカシ、もうちょっとだけ辛抱してね」
「! あぁ」
「なにをこそこそと……っ、!?」


「水遁・大瀑布」
動ける限界までチャクラを練り、全てを水遁に変える。飛び出した水の勢いで男の向こうにあった壁は崩れ、押し出されびしょ濡れになった男は体勢を崩しながらもこちらを睨みつける。


「……貴様は水遁使いだったか、それは誤算だった。しかしこんなことでこの俺が……っ」
「雷切!!」
「ぐあぁっ、!」


チチチと、聞き慣れた雷の囀る声が響いた。
チャクラの交じった私の水遁に動きを封じられ、カカシの雷切で感電した男は、黒焦げになってばたりと倒れる。

任務完了。そう呟いた。
しかし、突然隣のカカシが苦しみながらぱたりと倒れ何事かと思った。夢だと思いたかった。蹲り唸るカカシに慌てて近づき仰向けにすると、消えたはずの火遁・天牢の術式があった。嘲笑うかのように赤く光るそれに私は慄くことしかできなかった。


「なん、で…」


術者は倒したはず。今そこに倒れている男のはず。なんでまだ消えてないの。なんでまだカカシは苦しんでるの。なんで、なんで、なんで。

一気に混乱してきた頭を掻き毟り抱える私の腕が掴まれた。


「……落ち着いて、マリナ」
「カカ、シ…」
「俺は大丈夫。大丈夫だから、マリナ、深呼吸して」


上がった息をそのままに、カカシは脂汗を浮かべながら笑いかけた。そして落ち着けるように私の腕を優しく叩いてくれた。複雑に絡まりあった私の頭の中は、カカシのそんな少しの行動であっという間に平静に戻る。


「……ごめん、ありがと」
「あぁ」
「でも、なんで消えないんだろう…」
「さっき奴とマリナが話していた時、引っかかるところがあった」
「…引っかかるところ?」


そう眉を寄せる私の言葉に頷いて、カカシは起き上がる。それを支えながら続きを促すと、項垂れたカカシは左目を片手で覆った。後悔する時の、カカシの、無意識のくせ。


「"俺たちの計画に支障はない"。奴はそう言った」
「……俺たちって、まさか!」
「きっとこいつは主犯じゃない」
「っ、」


倒した気でいた。終わった気でいた。カカシを助けたつもりでいた。

しかし蓋を開けてみれば敵は複数犯。そして、カカシに火遁・天牢をかけた術者は未だ息を潜めている。この男が気を失っている今、その手がかりは皆無。

情けない。
上忍のくせにカカシを囚われている焦りから冷静さを欠き、その可能性を見落としていた。忍は裏の裏を読め。そう教わったはずなのに。

ぐっと唇を噛み拳を握った。
未だカカシが術中にある以上、迂闊には動けない。今まで以上に慎重に、相手の動きを気取らなければならない。考えろ、考えるんだ。自分が敵ならこんなときはどう動くか。どこに身を潜めるか。考えろ。考えろ。考えろ。


「!!」
「落ち着けって言ったでしょ」


俯いて思考に耽ける私の額を、カカシの細長く節くれだった指が弾いた。ぱっと視線を向けると、カカシは呆れたように、けれどどこか誇らしそうに私を見つめる。


「焦っても仕方ない。一緒に策を練ろう」
「…うん!」



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