「…ナツハ」
「…すみません、取り乱しました」
「…テンゾウ、手当を」
「っはい!」


慌ててやってきたテンゾウに血まみれになった右手の手当てをしてもらっていると、三代目様は「…すまぬ」と申し訳なさそうにガラスの向こうのカカシを見据えた。


「…いったい、何があったんですか」
「…お主の隊が任務に出立して一刻ほど経った頃、急を要する暗部の増援要請があった。その際手すきがテンゾウの隊三名しかおらず、やむなくカカシに頼みその任に加わってもろうた」
「…」
「その任は追い忍部隊からの要請。そして…」
「…三代目様、そこからは私が、」
「……うむ」


手当てを終えたテンゾウは、至極言いにくそうに視線を俯かせている。
だいたい察したとはいえ、私の一番大切な人をこんなにしたやつをこのまま黙ってのさばらせておくわけにはいかないから、ここでテンゾウにしっかり聞かなきゃ。

私がじっと見つめると、テンゾウは重そうに口を開いた。


「…カカシ先輩と僕たちが任地に着いた時には、先出部隊は既に壊滅状態でした。その血の海に、たった一人立っていた男がいたんです」
「…」
「…凄まじいほどの殺気を振りまき、僕たちを横目に見る男は、木ノ葉の抜け忍…雨露シグレでした」
「!?」


シグレ…。あいつ、まだ生きてたの…。


「…かつての僕の先輩で、何度もあの人のおかげで死線をくぐりぬけてきました。あの人の、得意としている忍術もご存知ですよね?」
「……劇薬を混ぜた、雨だよね」
「…えぇ。過去に何度も助けられたことがありあの人に牙を向けることを恐れた僕を、カカシ先輩が身を挺して助けてくださいました…。それで、先輩は…っ」
「…もういいよテンゾウ。話してくれてありがとう」


そういうことだ、と言いたげに視線を伏せる三代目と、カカシをこんな目に遭わせてしまった負い目で唇をかみしめるテンゾウ。

まさか、あいつがまだ生きていたなんてね…。
雨露シグレは、私と同期で暗部入りした男。同期なだけにわりと仲も良くて、何度も任務に行って私こそあいつに何度も救われた。木ノ葉では珍しい水遁の使い手で、その術の多様さには三代目も、部隊長であるカカシも一目置いていた。

そんなあいつがおかしくなったのは、二年ほど前。
暗部っていう殺伐としたなかにいれば、可笑しくなるものが出てきても不思議じゃなくて。シグレもその一人だった。日に日に背後に影を灯すことの多くなってきたシグレを、私はそれでも支え続けた。大切な同期だから、大切な仲間だから。


それでもあいつは、木ノ葉を抜けた。


「…三代目様。シグレは私に任せていただけないでしょうか」
「…よせ、ナツハ。今の彼奴は木ノ葉にいた頃の彼奴ではない」
「ご安心ください。あいつは私の同期です。同期の不始末は同期がつけるのがこの世界のルールでしょう」
「……ナツハ」
「あいつが木ノ葉にいたころと変わっているように、私だって同じじゃない。あの頃よりも、強くなろうと日々思っています。シグレを闇から連れ戻せなかったから、だからこそ私は今もこうして木ノ葉で生きています」
「…」
「三代目様。この始末はどうか、私につけさせていただけないでしょうか」
「!」
「ナツハさん、」


片膝をついて、里長に許しを請うた。
シグレを止められなかったのは私の不注意。そして、シグレを支え切れなかったのもまた、私の力不足。

だったらせめて、あいつの最後の瞬間は、私は迎えさせてやらないと。
追い忍としてではなく、忍としてではなく…大切な、同期として。


「……かまわん。ナツハ、行ってこい」
「三代目様!」
「ただし、ひとつだけ条件がある」
「…なんでしょうか」


自分に食って掛かろうとするテンゾウを、三代目が制した。
そして私を真っすぐ見据えたその瞳は、今もまだ、決して衰えてはいない。


「必ず生きて戻るのじゃ。カカシのことはワシに任せろ」
「…っ、よろしくお願いいたします」




何かの理由で飛ばなければならない



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