「ちょ、チハル!大事件!!」
「え?」


いつも通りのんびりと待機所で紅茶を飲みながら今日の夕飯は何にしようかなと考えていると、慌ただしく開かれた扉の向こうで私にそう叫ぶ親友の姿があった。

彼女は普段は冷静沈着で歳不相応なほど落ち着いてるのに、なぜか今日は年齢よりもずいぶんと若い反応をするなぁなんて再度紅茶を啜りながら横目で見た。


「で、大事件って?」
「あんたなんでそんな腑抜けた顔してんの!一大事なんだってば、あんたの!」
「だからなんのこと?」


どすどすと私の隣に腰を下ろし目を見開いてる彼女は、私が手に持つコップを机に置いて私の肩をガシッと掴んだ。


「あんた、カカシさんと付き合ってるんだよね!?」
「まぁ、そうだね」
「それは間違いなく事実なんだよね!?」
「だと思うけど」
「さっき私、聞いちゃったんだけど!」
「うん」
「カカシさん、結婚してるらしいの!」
「…………は?」


彼女の口から飛び出した言葉の羅列に、今度は私が目を見開く番だった。


「なんか、又聞きだから本人の口から聞いたわけじゃないんだけど、」
「…」
「嫁さんが毎日美味い飯作ってくれるから太ったって、でれでれした顔で惚気けてたらしいの!テンゾウさんが言ってたから間違いない!」
「…」
「あんたカカシさんが結婚してるって知ってて付き合ってんの?だったらやめな、良くないよそういうの。私、それに関しては賛成できない」
「…ちょっと待って、」
「あんたのことが大切だからはっきり言うけど、カカシさんが奥さんと別れる気がなくてあんたともずるずる関係を続ける気なら、私はあの人を軽蔑する」
「待ってって、」
「奥さんがいて他に女作ってるなんてろくな男じゃないって。ねぇ、本当やめときな、」
「待って!ねぇ!」
「?」


私のあまりの剣幕に、彼女はようやく開き切った口を閉じた。正確にはぽかんと口を開けたまま首をかしげてるんだけど、この際それはどうでもいい。


「落ち着いて聞いてね、カカシが、嫁さんが毎日ご飯を作ってくれるって言ってたんだよね?」
「…そう、聞いたけど」
「……それ、私だわ」
「…………は?」


言ってる意味がわかりませんと太字の油性ペンで書いたような顔をする彼女は徐々に言葉の意味を理解したのか、カッと目を見開き元々掴んでた私の肩をより強く握った。


「ちょ、え、結婚したの!?聞いてないんだけど!私あんたの親友だよね!?」
「そうだよ親友だよ、ね、だから落ち着いて」
「落ち着けるわけないでしょ!親友が結婚したの教えてくれなかったんだよ!?そりゃ腹も立つでしょ!」
「だから!結婚してないの!私も!カカシも!!」
「はぁ!?」


掴まれた肩をそのままに私も掴み返して、彼女の目を見て改めて言った。


「だから、私は結婚してないし、カカシもしてない。そこまではいい?」
「むむ」
「でもカカシに毎日ご飯を作ってるのは私、半同棲はしてる。あいつほっといたら兵糧丸で済ませるから、私がご飯作ってるの。おわかり?」
「むむむ」
「なんでカカシが私のことを嫁って言ったのかはわかんないけど、そういうこと。私もカカシも不倫は断じてしてないし、極めて真っ当なお付き合いをしてるのでご安心ください」
「……了解した」


噛み砕きに噛み砕いた私の説明を飲み込んだ彼女は、そう言って眉を寄せた。



* * *



「って言うことがあったんだけど」
「そりゃあ大変だったね」
「……他人事だと思って」


その日の夕飯。いつも通りカカシと食卓を囲みながら今日あった話をすると、ほくほくと幸せそうにおかずのアジの塩焼きに箸を伸ばしながら棒読み極まりない返事をよこした。

あ、これ聞いてないなこいつ。


「そこで質問なんですが」
「んー?」
「何を持って私のことを嫁って仰ったんでしょうか」
「そうなればいいと思ったからじゃない?」
「…………は?」


本日二度目の溜めに溜めた一言が再出した。
事も無げにさらっととんでもないことを言い出したカカシは、そう言うことがさも当たり前かのようにアジを口に運び頬を緩ませた。


「……ちょっと、意味が分かりかねるんですが」
「え、わかんない?」
「はい、全く」


私がそう言うとカカシは名残惜しそうに見つめていたアジから私へと視線を移した。


「よく言うでしょ、男を落とすならまず胃袋を掴めって」
「まぁ、よく聞くね」
「うん、だから、そういうこと」
「ん?」
「だからね、毎日食っても飽きない飯を作ってくれるチハルと家族になりたいなぁなんて思ってるわけですよ」
「……はぁ!?」
「ねぇ、飯に集中していい?」


思わず立ち上がった私に白けた視線を向けながら、カカシは副菜のネギぬたに箸を伸ばした。

え、ちょ、今のって、プロポーズ、だよね?そうだよね? こんなお茶漬け感覚でサラッとした感じで流しちゃっていいわけ? プロポーズよりご飯の方が大事なの?え??

混乱する頭を落ち着けようとひとまず座り直してお茶を飲む私に、「あ、そうだ」とカカシはおもむろにあるものを取り出した。


「これ、近いうちでいいから書いといて。で、それはそういうことね。よろしく」
「あ、はい。よろしく」


そう言って渡された紙と小箱を受け取りカカシを見ると、幸せそうにご飯を食べながら、けれど耳だけは真っ赤で、あまりの可愛さに笑いながら私もおかずに箸を伸ばした。





そして泣きながら喜ぶ親友に抱きしめられつられ泣きするのは、もう少しあとのお話。
fin.


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