昼ぐらいから、体調が悪いとは思ってた。
頭も痛いしふらふらするし、だけど任務は待ってくれないわけで。ラッキーなことに里内だった任務をどうにかこうにかやってたら、同じ任務についてたカカシ先輩が、「あとはやっとくからもう帰って寝ろ」って言ってくれて、声を出すのもしんどかった私は黙って頷いてそろそろと家に帰って、今に至るわけだ。


「…しんど」


どうにか引っ張り出した羽毛布団にくるまりながら、そう独り言ちた。
くそう、しんどいって口に出さないでおこうと思ってたのに。自分に負けた。一応熱もあるとはいえ、ただの風邪。寝てれば治る。

とはいえ、こういうとき一人暮らしってのは厄介だ。
動くに動けない今熱烈に誰かに看病してほしい。…いや、その誰かは決まってるんだけど。あの人以外嫌なんだけど。


「おーおー、ほんとにくたばってやがった」
「オビト、せんぱい…」


乙女の一人住まいに容赦なく無遠慮にずかずか入り込んでくるのはオビト先輩。まあこの人がこんな風に入ってくるのはいつものことだ。今更気にしたところでもう直しようがない。っていうか、

…来てくれた。来てほしかった、あの人が。


「さっきカカシのやつにお前がしんどそうだったって聞いてよォ。どんな感じだ?」
「……しんどい」
「はは、だろうな。っし、ちょいと熱はかんぞ」
「…ん」


外の匂いをまとったオビト先輩の右手がおでこに乗る。
ほんのりと冷たいそれがとても心地良い。


「んー…ま、熱自体はそんなに高くねぇみたいだな。とりあえず薬飲んで寝りゃどうにかなんだろ」
「…ん」
「…とはいえ、俺看病とかしたことねぇんだけど……何すりゃいいの?」
「……はぁ」


いい年こいてるくせにこの人は…。
どうにかこうにか寝返りを打って、指示を出す。タオルと氷水、水と薬に、冷蔵庫に入ってるゼリーを持ってこいと言うと「よっしゃわかった!」って寝室を出てく先輩は子供みたいで可愛い。

部屋の外で先輩がばたばたしてる音を聞いてたら、しんどいのに笑っちゃう。
なんて愛しいんだろあの人は。したこともない看病をするためにきっと飛んできてくれたんだろう。だって自慢の上忍ベストは泥だらけだったし。きっとカカシ先輩に負けないように今日も修行してたんだろうなあ。なのに、カカシ先輩に聞いてすぐこっちに来てくれたんだろう。本人はきっとそんな風に見せてないつもりなんだろうけど、長年の付き合いがある私には丸わかり。不器用で、でもそんな風に真っすぐで優しいあの人だから、大好きなんだけど。


「…なに笑ってんだよ」
「…ごめん、先輩」


そんな声に扉の方を向けば、私が指示したものが全部のったお盆を手にぶすくれてる先輩にまた笑った。「笑う元気はあんのかよ」「先輩のせいだよ」そんな軽口を叩き合いながら、ベッドのそばに腰を下ろした先輩を眺める。


「とりあえず、言われたもん全部持ってきたけど」
「…ありがと。あとは自分でやれるから、」
「バカ。こんなときくらい素直に甘えりゃいーんだよ」
「…ん」


ゼリー食べた後薬飲んで、氷水で絞ったタオルをおでこにのせてほしいです。
そう言えば「任せろ!」と白い歯を出して笑った先輩に熱とは別に熱くなった。


「ん」
「…ん?」
「ん?じゃねーだろ!ここはアーンってやつだろーが!」
「…あぁ」


ベッドの上で上半身を起こして、ちょっとだけ顔が赤くなった先輩が差し出してくれるスプーンをぱくっと口に含んだ。
…そういえば今日まだ何も食べてないんだった。だからなのか、いつも食べてるゼリーなのにものすごく美味しく感じる。きっと先輩が食べさせてくれてるのがいつもより美味しい理由の大半なんだろうけど。


「まだ食える?」
「…ん」


全部ゼリーを食べさせてくれた後、薬も飲ませてくれて、私の言いつけ通り、寝かせた後におでこに冷えたタオルものせてくれた。


「…ありがと、先輩」
「ん」
「…もうあとは寝るだけだから、帰ってもらっていいよ」
「…くたばってやがる病人放って帰れるわけねーだろ」
「…え?」
「だから!寝るまでいてやるっつってんの!分かれバカ!!」
「……ありがと」


照れ隠しにぶっきらぼうな言い方をしながらも、ずっと手を握っててくれる先輩。
疲れてるだろうに申し訳ないと思いつつ、その先輩の手の温かさと伝わってくる優しさに、どんどん瞼が落ちて来る。


「…早く良くなれよ、チハル」
「…ん」


先輩の優しい声と手の感触を頭に感じたまま、溢れてくる幸せを感じながら眠りに落ちた。





fin.


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