「ぱぱーっ!」
「うおっ」


今日は一ヶ月ぶりの非番。
いつもよりゆっくりとだらだらしていると、ベッドに寝転ぶ僕のお腹の上に飛び乗ってきたのは三才になる息子のヨウ。僕譲りのくりくりの猫目をへにゃりと曲げて僕の胸に頬をすり寄せる姿を形容すれば、ただの天使。なんて愛らしいんだろう。


「ぱぱ!」
「なんだい?」
「おたんじょうび、おめでとう!」
「!…ありがとう、ヨウ」


にっこりと笑って、僕の誕生日を祝ってくれる天使に思い切り抱きついた。
ああ、そういえば今日は誕生日だったっけ。つい数年前まではなんでもないただの一日だったのに、この子に祝ってもらえるだけでなんて幸せなんだろう。幸せすぎて死んじゃいそうだ。


「ヤマト」
「!…チハルさん」
「お誕生日、おめでとう」
「…ありがとう」


すっかり大きくなったお腹を抱えて微笑むのは、僕に家族というものをくれた奥さん。
彼女のお腹の中でヨウの弟か妹になる命がすくすくと育っていて、それを見てるだけでも僕は幸せになれる。

なんて良いんだろう、家族って。


「ぱぱ!きょうはね、くるみがいーっぱいなんだよ!」
「そうなのかい?楽しみだなぁ」
「うん!だからね、あとでね、いっしょにおかいものいこうね!」
「うん、行こうね」


ひょいっとヨウを抱き上げて身振り手振りを添えて話してくれるその姿に頬を緩めていると、「朝ご飯にするから、顔洗ってきて」と先にリビングに向かったチハルさんを追った。


「いただきます!」
「いただきます」
「召し上がれ」


チハルさんの作ってくれるご飯はいつも温かい。
熱々だとかもそうだけど、それ以上に愛情とかそういうものがこもっていて温かいから大好きだ。そういえば、彼女と結婚してからはあんまり外食もしなくなったなぁ。たまには家族で外食って言うのも悪くないかもしれない。チハルさんの負担も減るしね。


「まま、おいちい!」
「そう、よかった」
「いつも美味しいよ、ありがとうチハルさん」
「こちらこそ。いつも頑張って働いてくれてありがとう」


お腹も大きくて動くだけでもつらいだろうに、弱音も吐かずに毎日忙しい僕に変わってヨウの世話と家のことをやってくれる彼女には何度感謝を言っても足りない。なのに彼女はそんなことをおくびにも出さず、いつも僕に感謝を言ってくれる。今日みたいに頑張って働いてくれてありがとう、とか、たまにヨウの面倒を見れば、せっかくのお休みにありがとう、ってこっちが居た堪れなくなるくらい。

だからこの二人と、もうすぐ生まれてくる子を…僕の家族を、何が何でも守りたい。そう思うから僕は頑張れる。


「ごちそーさまでした!」
「お粗末様でした。ね、ヤマト今日は何食べたい?」
「え?」
「だってせっかくの誕生日でしょ?どうせならヤマトの食べたいものを作ろうと思ってさ」
「…んー、そうだなぁ」


脂っこいもの以外特に好き嫌いがない僕にとってチハルさんが作るご飯はなんだって好きだ。基本的に並ぶ和食も、時たま並ぶ洋食や中華も。彼女が作るものはなんだって食べたいもんだからこういう質問をされると困るんだよなぁ。


「ヨウ」
「なぁにー?」
「ヨウは今日の夜ご飯、何が食べたい?」
「ヨウくんはねぇ、おにく!」
「はは、そうか。じゃあチハルさん、僕もお肉が食べたい」
「…それじゃあヨウのリクエストじゃん」
「ヨウが食べたいものを僕も食べたいんだから、これは僕からのリクエストだよ」


「ね、お願い」と、大好きなお肉が食べられるかもしれない期待に胸を膨らませるヨウと一緒に見つめれば、「…その目はずるいよ」ってため息をついて笑ったチハルさん。


「じゃあ、今日の夜ご飯はお肉にしよう。脂身抜きで」
「やったー!」
「あとはクルミ料理も作ります!今日はパパのお誕生日だからね」
「楽しみだなぁ」






fin.


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