任務が終わってふらりと慰霊碑に足を向ければそこには先客がいて、思わず身を隠してその悲しげな背中を見つめてる俺がいた。

俺と同じ上忍の、チハル。
こいつが上忍に昇格してから割と仲良くしてきてるから、もう七、八年ぐらいの付き合いか。飾らず、誰にでも分け隔てなく接するこいつは、男女問わず皆から慕われている。

そして俺は、密かにこいつを想っているわけで。



「…カカシ、いるんでしょ。出てくれば」
「…はは。バレてたか」



なるべく気配を消してたってのに、後ろの木の枝にいた俺を見つけるのはさすが感知能力の優れたチハルってところか。バレたんなら仕方ない、とひょいっと枝から降りて隣に立つ。



「カカシは、オビトさんに?」
「あぁ。そういうお前は?」
「…カイ」
「…そうか」



俺は親友に、チハルは恋人に。
それぞれ想いを抱えてここを訪れる。俺のように過去を戒める者、自分の過ちを悔いる者。様々だ。



「…ダメだよね。もう亡くなって五年も経つっていうのに。気づいたらここにいて、話しかけてるんだよ」
「…」
「ここに来れば、カイに会える気がするんだ。…私の自己満足でしかないのにね」
「…気持ちはわかるよ。何年経ったって、忘れられるものじゃない」



チハルがおそらく無意識で触っているんだろう指には、きらりと光る指輪があって。
そんな光景を目にした俺の胸はぎゅっと締め付けられた。

チハルとカイは、婚約していた。
いつだったか、俺がチハルへの想いに気付いた直後にカイから「俺、チハルと結婚することになった」って報告を受けて、どうにか張り付けた笑顔でおめでとう、って言ったっけ。少ししてチハルからも今まで見たことないような幸せそうな笑顔で「カイと結婚するんだ」って言われたんだ。

それから一ヵ月もしないうちに、カイは殉職した。
後から綱手様に聞かされた話では、チハルと一緒に行ったツーマンセルで予想外の襲撃に遭い、カイは敵の攻撃を被りそうになったチハルを庇って亡くなったらしい。



「…今でも夢を見るんだ。カイが亡くなったときの」
「…」
「私があそこでちゃんとしてれば、カイは死なずにすんだかもしれないのに。カイみたいに優しくて、仲間を真っすぐに想える人じゃなくて、なんで私が生きてるんだろうっていつも思う」
「…」
「カイがいなくなって、私は生きる意味を失くした。カイが私の全てだった」
「…」
「でも、なんでかな。本当に悲しいのに、泣けないんだ」



苦しそうな表情で、石碑に刻まれたカイの名前を撫でながら、「なんでだろうね」と言うチハル。

泣きたいのに、泣けない。
それが一番苦しいってことは俺も知ってる。心は泣きたいって叫んでるのに、どこかでその自分にストップをかける自分がいるというのか。“忍は涙を見せぬべし”そんな掟がしみ込んでしまっているのか。

俺は、泣けば自分を守ってくれたその行為が間違いだったと伝えているような気がする。誰かを守るということは、種類がどうあれその人が大切だということで。その命を懸けた行為を冒涜するような、そんな気持ちがする。

だけど、それはすべてに当てはまるわけじゃない。
きっとカイは、泣けるならチハルに泣いてほしいと思っているはずだ。それは自分のために泣いてくれとかそういうものではなく、チハルの心を少しでも軽くするために。

そう、すべてはチハルのために。


慰霊碑の前にしゃがみ込んで、ずっとカイの名前をなぞり続けるチハルの頭をぽん、と撫でる。

カイ。これからはお前に変わって俺が、チハルを守っていくよ。だから、安心してくれ。



「無理して泣くことはないよ。いつかきっと、自然と涙は流れてくる」
「…っ」
「何年経ったっていい。でももし泣きたくなったときは、俺を呼んでよ」
「…カカシ」
「カイのぶんも、俺がおまえを支えるよ」





これが、今の俺に言える精一杯。






fin


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