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▼ 見ているだけで砂糖菓子

運ばれてきたスイーツを各々頬張る。少年少女達は美味しそうにそれを口に運んでいる。
「いただきます」
その光景を少し見守ってから、ありさはフォークを手に取った。ありさが頼んだ梓手作りだというショートケーキケーキは、生クリームがツヤツヤと輝いており、一番上に君臨する苺は一面の白に美しい紅一点としてまた違った輝きを放っている。フォークを刺すと柔らかく焼かれたスポンジが優しい感触として伝わった。そっと暴いた白い生クリームの内側は3層の優しいクリーム色のスポンジの間に白と朱のコントラストを描いていた。美しい光景は食欲をそそり、口の中の唾液が溢れそうである。
(いつぶりでしょう。最近仕事仕事でケーキなんて食べれてませんから。嬉しいです)
満面の笑みでありさはそれを口に運んだ。その笑顔は仕事中に貼り付ける完璧さではなく、彼女の幼い顔立ちによく似合った可愛らしさを感じさせる。
一口頬張ると、それは口の中で柔らかな甘味となって広がった。ふわふわのスポンジは生クリームと共にとろけるようであるし、その中に混じった苺の酸味が甘味をぎゅっと引き締めている。
後味が悪くなるような甘さは微塵も感じず、上品な味のショートケーキはいくらでも食べられるような錯覚に陥らせる。これは美味しい。
たまらず続けて一口、二口とフォーク進めてしまう。

「美味しいですか?」
「はい!とっても!」
「それは良かったです。そんなに美味しそうに食べてもらったら梓さんも喜びますよ。伝えておきますね」
「私そんなに美味しそうに食べてましたか?…ちょっと恥ずかしいですね」
「恥ずかしいなんて。楽しそうに食べて頂けるとこちらまで楽しくなりますから。ありがとうございます」
「そんな風に言われてしまうと、また食べにきたくなっちゃいますよ?」
「喜んで。いつでもお待ちしてますよ」

仕事終わりの疲れているときに食べる甘いものは格別だ。特別嬉しそうなありさに、安室も楽しそうな瞳を向ける。
カウンターに下がった彼はシルバー磨きを始めたようだ。その横顔に先程の影の差した様子は微塵も感じられない。何が原因で表情を崩したのかはわからないけれど、もう調子は戻ったようだ。
心配ではあるが、今の降谷に尋ねることはできないので目の前のケーキに再び集中することにする。
(コナンくんの視線も気になりますもんね)
彼はほんの一瞬だけ崩された彼の仮面に気づいたのだろうか。崩されたといっても微かにしかわからない程度のものだ。普通の人は気にも留めない。しかし、今隣にいる少年に普通が通用するとは思えないので、ありさは気づいていない人の振りに徹した。下手に勘ぐられては困る。

「美味しいですか?コナンくん」
「うん。美味しいよ」
「レモンパイはお好きなんですか?」
「えへへ。実はね。ありささんはショートケーキ好きなの?」
「甘いものはなんでも好きですよ!もともと食べることが好きなので、好き嫌いも特にありません」
好き嫌いの言葉に少年達の目が変わった。
「ええー!あゆみ苦手なものいっぱいあるよー!」
「うな重は好きだけどな!」
「元太くんのそれはいつもでしょう」
「ねえねえ、安室のお兄さんは嫌いなものとかあるの?」
「うーん。僕も好き嫌いは特にないかなあ?あんまり好き嫌いしてたら大きくなれませんよ?」

突然投げかけられた質問にも、彼はなんの戸惑いも見せなかった。やはり、安室透であることに徹しているらしい。ここでは愛想のいいお兄さんで通っているようだ。
うん。大体の把握はできた。
あまり長く居座ってボロを出しても困るし、これを食べたら退散しよう。そう考えながらありさはほんのりと湯気の立つ紅茶を一口含んだ。

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