【今週の土曜日暇やったら映画でも行かへんか?】

そう言われた数日前のことだった。すぐに返信したい気持ちをぐっと抑えて考える。

これってデートだよね?

私と真島さんの関係は友達というのがしっくりくるのだろうか。よく分からないが、神室町に仕事で行く際に出会えばご飯に行く。最初は見た目に圧倒されていたが、話すと気さくで女性に対して優しいというギャップにどんどん惹かれていった。
かと言ってすぐに想いを告げる訳でもなくただただ膨らんでいく恋心はいつも持て余しては膨らんで行き先を失くしていた。
正直なことを言うと怖かった。気持ちを告げて今の関係を失う事に。きっと、真島さんのことだから想いを告げたらギクシャクするのを避けて会わないという選択を取るだろうと考えたからだ。

【行きます。】

それだけを返信した。もともとデートですかと聞こうと思ったが、それも止めた。ただ真島さんの時間が空いていたから私を気まぐれに誘っただけ。そう結論づけた。でも、嬉しい事には変わりない。クローゼットを見渡して当日何を着ようかと悩んでしまうくらいなのだから。
うん、デートでいいじゃん。
自分がデートだと思えばそれでいい。そう納得させて当日の日が近づくにつれてそわそわした気持ちになっていくのを感じていた。

一睡もできなかった。
遠足前の子供かと思わずツッコミたくなる自分の有り様を見て溜息を零す。眠い目を擦りながら冷たい水で顔を洗う。すぐに服を着替えて隈が消えるようにメイクを施す。時間までは余裕があったけれど、家にいても落ち着かなかった。約束の場所である神室町まで向かう事に。

変じゃないよね?

頑張り過ぎないようにした今日の恰好。カーディガンとスカートにパンプス。歩くかもしれないから低めのヒールにして。本当はうんと高いヒールにしたかったけれど、足が痛くなっても困る。真島さんの横にいる女性は大人っぽい人が合うのかな。そんな事を思ったけれど、自分には合わない。無理して背伸びするよりは無難な方が良い。

ショーウィンドウに映る自分の姿を見て大丈夫と言い聞かせる。そんな事を思っている内に約束の時間まであと少しの時間になっていた。

「エライ早よ来てるやないか!」

「家にいてもやることがなかったんで。」

「そうか。ほんなら行こか?」

私の手を自然に取って歩き出す真島さん。途端にドキッとする心臓。真島さんにとっては大したことはないのだろう。でも、私にとってはドキドキする事案。そして思う。やっぱりデートだと。

「真島さんは見たいの決まってるんですか?」

「ワシか?せやのぅ、希望がないんやったらこれや!」

Zombie!とおどろおどろしい血文字で書かれたポスターを指す真島さん。アクションとかを薦めてくると思ったけれど、まさかのスプラッターものとは。

「じゃあ、それで。」

普段全くみないジャンルだしグロ系は苦手だけど、好きな人の好きなもの。食わず嫌いかもしれない。見てみれば良かったと思うかもしれないと自分に言い聞かせて中へ入っていく。
暗くなってすぐに映画は始まった。ストーリー性のあるものではないかと思っていたが、見てみると意外と練られていて面白いかも。グロいのはグロいのだが、見慣れてくると普通に見入っている自分がいた。

子供みたい。
時折横からは真島さんのおっしゃ!やったらええぞ!と声が。あまりに大きいので周りの迷惑にならないかヒヤヒヤしていたが、周りも映画に夢中で気づいていない様子。あっという間に映画は終わり気づけば場内は明るくなっていた。

「椿、腹は減っとらんか?」

「そうですね。ちょっと空いたかもしれないです。」

「ほな、あそこに行こか?」

目の前に見えるハンバーガーショップを指す真島さん。意外な場所を指すので驚いていると意外とこう見えても好きなんやと言っている。

「真島さん、口にケチャップ付いてますよ。」

「おぉ、そうか?ほな、取ってくれや。」

「えっ!私が?」

真島さんはぐっと顔を前にして待機している。私はドキドキしながらも紙ナプキンでその部分を拭う。真島さんは差して気にも留めずおおきにと言ってまたハンバーガーに齧り付いている。

私ばっかり。

ドキドキさせられて振り回されてしまっているもどかしい気持ちが溜息に変わる。ほんとにこの人はいっつもこうだ。だから私の気持ちなんか気づいていないのだろう。

「なんや?」

「いえ、何でもないです。」

「何でもないことないやろ。ワシ、なんか変なことでも言うたか?」

「全然言ってないですよ。」

本音はそっと心の中に。でも、真島さんは納得しない様子の顔。こんな空気にするつもりじゃなかったのにいつの間にか空気は険悪に。折角の初めてのデートなのに。気づけばお互い無言になっていた。

「昨日は楽しみで寝られんかったちゅうのになんてザマや。」

「えっ…。」

真島さんがぽつりと吐いた言葉に思わず顔を上げる。真島さんも私と一緒の気持ちだったってこと?

期待してもいいのかな?

飲み干してすでに氷しかないジュースのコップをぎゅっと握って考える。今、私が伝えないとその気持ちは永遠になくなってしまう。きっと、次のデートはないだろう。自惚れでも勘違いでもいいなら…。

「…私も昨日は楽しみで眠れなかったです。」

「はぁ?」

真島さんが大きな口をあけてぽかんとしている。あぁ、言ってしまった。でも、もういいか。それならば最後まで言ってしまおう。

「真島さんから誘いを受けた時すごく嬉しかったです。私、真島さんのことがずっと好きだったから。」

「椿…。」

真島さんは私の名前を呼んでコップを握っていた私の手を取る。さっきまではふざけた顔をしていたのに真剣な眼差しで吸い込まれるように私はその顔をじっと見つめる。

「もっと早よ言わんかいな!余計な気ぃ回して損したわ。」

「だって…。」

「ワシはなぁ、疾っくの疾うに椿に惚れとったわ。」

「真島さん…。」

その言葉に思わず頬が熱くなる。ずっとお互い探り探りだったということなのだろう。でも、結果は良かった。遠回りしたけれど、無事にゴールに辿り着いたのだから。

「ほな、次はどこに行こか?」

「じゃあ、次は…。」

まだデートは始まったばかり。でも、朝とは違う。晴れて恋人同士になれた気持ちで迎える今からの時間。
ようやく初デートの時間が始まる。




初めてのデート



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