行ってみたい所があるんだよね。
何かの会話の流れで隣にいた趙さんはふいにそう言った。すぐに私はどこですかと聞き返すが、一人で行きにくい所なんだよぉと返ってきた。

「一人で行きにくい所?」

「そう。だからさぁ、椿ちゃんに付いてきて欲しいんだよね。」

「私ですか?」

気づかれないようにさっとサバイバーの店内を見渡すが、珍しくお客さんは私と趙さんだけだった。そう、私でなくともさっちゃんやえりちゃんに頼めばいいのではないかと考えたからだ。

「椿ちゃんに頼みたかったんだけど、駄目?」

「いや、そういう訳じゃ。」

「じゃあ、決まりね。」

そう言って趙さんは来週の日曜日のお昼空けといてねと話を進めた。その後すぐにいつものメンバーが店に現れ、その話はそこで終わりになった。一体どこに連れていかれるのかという疑問はその後の酒の量によって見事に脳内の片隅に追いやられ、気づけば明日がその日になっていた。
明日宜しくねとメッセージアプリに書かれた内容を見てそういえば明日は趙さんとの約束だったことを思い出す。すぐにわかりましたと送ると待ち合わせの場所は浜北公園の前ねと書かれていた。

一体どこに連れていかれるのだろうか?

あの日感じた疑問をまた感じていると、メッセージアプリに新着のサインが。趙さんからなのかなと思っていると、さっちゃんからだった。そしてそこに書かれた内容を見て驚愕する。

【明日、趙とのデートなんでしょ?頑張ってね。】

で、デート!!

どういう流れでそうなったのか。私の位置づけでは付き添いの感覚だったのだが、さっちゃんの認識は違っていたようだ。いや、それよりもなぜさっちゃんがこの事を知っているかだ。返信する手を止めてさっちゃんに電話を。すぐに電話は繋がり騒がしい声が周りから聞こえる。どうやら今サバイバーにいるようだ。

「えっ?趙からはデートに行くって聞いたんだけど。」

「いや、私は付いてきて欲しいって言われんだけど。」

すると、さっちゃんは少し黙っている。さっちゃんの話をまとめると、趙さんから嬉しそうに明日私とデートをするという旨を聞いたらしい。デートといえば、恋人同士が行くものという認識の私。趙さんの考えるデートの認識と私の考えるデートの認識。もしかしたら違うのかもしれない。

「椿、今何してるの?」

「えっ。今は部屋でゆっくり休日を楽しんでるけど。」

「わかった。すぐに行くから待ってて。」

「えっ!どういうこと?」

その返答は返ってくることなく通話はそこで切れていた。そしてすぐにさっちゃんは自宅にやってきた。

「明日はどんな格好で行くつもり?」

「えっ…。」

少し戸惑いながらも、ラックに掛けてあるニットとデニムを指す。この季節に丁度いい過ごしやすい恰好だ。指を指しながら説明すると溜息を零すさっちゃん。

「こんなことだろうと思って色々持ってきたから。」

いつもよりも大荷物で部屋に来たなぁと思っていたが、まさかそこにたくさんの服があるとは思っていなかった。さっちゃんはベッドに何点か並べああでもないこうでもないと思案している。
そしてまた思う。明日はデートじゃなくて付き添いだよねと。自問自答しているが、目の前のさっちゃんの様子をみるとそうではない気が段々としてきた。

「うん。これだったら椿に合うかも。」

「あ、可愛い。」

「これだと趙も喜ぶわ。」

「えっ…。」

さっちゃんは返すのはいつでもいいからと言いながら使わなかった服を紙袋に詰めている。ここで聞いておかなければこのままでではさっちゃんが帰ってしまう。恐る恐る聞いてみると、さっちゃんは驚いた顔をしている。

「デートじゃないの?」

「いや、ただの付き添いのつもりなんだけど。」

「あいつ…。」

そう言いながらさっちゃんは溜息を吐いている。私は訳が分からず困惑するさっちゃんをただ見つめるだけ。要は勘違いだったということなんだろう。

「…とにかく、明日はこれ着てちゃんと髪をセットして化粧もちゃんとしていくこと。」

「うん。わかった。」

腑に落ちない感じはしたが、さっちゃんの気遣いを無駄にしてはいけない。貸してもらった服をハンガーに掛けて見やすい場所に。

明日はデートなのだろうか。

またこの疑問を考えながら答えはでることもなく眠りついた。


01



|

top

×
- ナノ -