この前の一件を経て思ったことはひとつ。私はどうやら流されやすい人間なのかもしれないということに気づいた。今まではおひとり様上等と生きてきた訳だが、どうやらそうでもなかったのかもしれない。自分の中で新たに生まれようとしている感情についていけず、頭を抱える始末。

いかん、このままだと真島さんのペースで普通に結婚生活が進んでしまう。

どうにかして以前の生活を取り戻さねばと考えるが答えは出ない。私は以前と変わらず素っ気ない態度で接しているが、真島さんも一向に態度を変える感じは今のところ見えない。どうするべきか。
悩んでも答えがでない時は人に相談したり調べたりするのが最善だ。とりあえず私は調べてみるという策に出てみる。ネットで調べて簡単に答えはでないのは百も承知だが、このままではいけない。その気持ちだけでひたすら検索をしていく。そして…。

あぁ、この手があったか。

相手にわざと嫌われるのはどうかと書かれたページを食い入るように読み進めていく。そうか…。現状の方法だと私は真島さんに対して可もなく不可もなくという感じで接していたが、それより更に進んで素っ気ない態度や相手が嫌う行動を取れば変わるかもしれない。

よし、やるしかない。

今までの自分の行動を振り返りながら私は真島さんに嫌われる行動をこの1週間取ってみようと考えた。

相手に嫌われる方法その@
接触する機会を減らす

前回の接触は未遂とはいえ、自分が招いたことだ。お酒を飲んでさえいなければ大丈夫と自分に言い聞かせ、この1週間はあえて連絡せずに夜遅くに家に帰ることに。勿論、その間、私は携帯には連絡が山のように。以前は遅くなるときは一報を入れていたのだから、心配するのも無理もないだろう。鳴りやまない携帯の電源を切り、お一人様を満喫させてもらおう。

時間を潰すにはここが一番だわ、やっぱり。
久しぶりにきた温泉施設。ここでゆっくり温泉に入ってサウナで汗を流して帰る頃には日付が変わっているだろう。いい汗を流し、1日の疲れを取る。そして帰ったら眠るだけ。なんと贅沢な時間の過ごした方なんだと思いながらそっと目を細めて湯舟に浸かる。

やっぱり、お風呂上りはこれこれ。

受付で買ったコーヒー牛乳を飲みながら帰る支度を。女湯と書かれた出口を出るとなぜか背筋がひんやりとするのを感じた。気のせいだよね?

「椿、なに一人でええことしとんねん!」

「げっ…。」

温泉施設の浴衣を着てロビーに寛ぐ真島さん。入口にここは刺青の人は入れないと聞いてきたので安心していたが、やはり無理だったのだろうか。驚いて固まっている私の前に真島さんはヒヒヒと笑いながら近づいてくる。

「カタギの人に迷惑掛からんように貸し切りにしてあるで。」

「…まじか。」

この前の映画館の一件を忘れたのか、私!脳内で自分に説教をしながら零れる溜息。そんな私と違い、真島さんはしっかりととのったから明日からもまた頑張れるでぇ、ゴロちゃんと私の手を引いて迎えの車に向かおうとしている。

うん、この方法は無理だな。

一筋縄でいかないことはわかっていたので、私は次なる方法を試すことにした。

相手に嫌われる方法そのA
呼びかけにはすぐ応じない

「おーい?おらんのか、椿?」

「………。」

聞こえているが、私の耳はイヤホンがついているから聞こえないフリ。帰ってきていることはわかっているが、いつもなら返答がすぐ返ってくるのでおかしいと思ったのだろう。部屋の中をバタバタ歩き回る音が聞こえる。

「帰ってきとったんやったら返事くらいせんかい。」

「………。」

真島さんの方を振り向くことなく音楽に集中。部屋にくることがわかっていたので音量を更にあげて聞こえていないですよ状態を続ける。そう、これは忍耐だ。相手の声が多少なりとも聞こえていたとしても気づかない、反応しない。そう、全ては嫌われる為に。

「ゴロちゃんを無視するとはええ度胸やな。返事がないんやったら好きなようにさせてもらうで。」

「ちょっと!」

いつの間にか耳に着けられたイヤホンは取り外され耳元で囁く声。さすがにまずいと声を上げるが時すでに遅い。真島さんはイヒヒと笑いながら聞こえとるんは初めからわかっとったでと笑っている。

絶対に嫌われてやる。

寧ろ、これで完全に火がついた状態になった。相手が本気ならこっちも本気だ。こうなったらとことん嫌われる為に色々やっていこうと心に決めたのであった。
そして私はまだ気づいていない。本当に人に嫌われたらどうなるかということを。そう、この後、身をもって知るのだ。痛みを伴った代償と共に。




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