あぁ、またこれか。
この前の時よりもこの映像に驚くことはなかった。そして思う。この前と視点が同じ。やはり、これは私が見ている光景なのだろう。

「椿ちゃん、これ。」

「ありがとう。」

そう言って私と思われる人物はその手から何かを受け取っている。手を見るとそこにはべっこう飴が。そして仲良く何かを話しながらべっこう飴を舐めている。何とかしてその顔を拝もうと思うが、靄がかかっているかのように見えない。けれど、とても楽しそうに話しているのを見ると仲は良いのだろう。

一体、この子は誰なんだろう。

そう思いながら、場面は変わる。私の手をしっかり握って案内してくれた場所はドアの前。その子は指を立ててしーっと黙るように言ってからドアを静かに開ける。そこには色々なものが雑多に置かれていた。物置きといった方がいいのだろうか。大きな壺や置物などがあって足元に気を付けておかなければ危ない。

「これ、綺麗だよ。」

「ほんとだ。」

黄色い液体が入った瓶を窓から入る日に翳すととても綺麗だった。この瓶…。おそらく私の記憶が間違えでなければ、香水瓶だったような。

「あっ…。」

ふとした瞬間にその香水瓶は床に叩きつけられて粉々に。辺りに香りが立ち込める。夢の中なので香りはわからないが、どんな香りなんだろう。そんな事を思いながらも、夢の中の2人は気まずそうにしている。

「どうしよう…。」

「大丈夫だよ。怒られる時は一緒だから。」

「うん…。」

再び私の手を取って歩きだす。この後、どうなるのだろう。そんな事を思っていると、耳に響く声。

「…さん、椿…さん…椿さん!」

ガバっと身体を起こすと血相を変えた葵ちゃんが部屋にいた。

◆◇◆

「どうしたの?こんな朝早くから。」

「大変なんです。」

「大変?」

「コミジュルにデモ隊がきてるんですよ。」

「デモ隊?」

全く話が分からないという顔をすると、葵ちゃんは説明してくれた。昨日の抗争を発端として異人三の均衡が崩れ始めているということ。そして、異人三の均衡はもともと偽札を作ることで保たれていたということ。そして、その最大の秘密が外に漏れたことで、今、ブリーチジャパンの集団がコミジュルの中に入り込もうとしているということ。

「じゃあ、異人三はもともと組んでたってことなの?」

「上の人達はそうでしょうね。でも、下々の人達はそれを知らなかった。だからこそ、混乱が起きてるんですよ。」

「そっか…。」

…というか葵ちゃんはどこでこの情報を知ったのだろう。さすがにただの情報通では通らないと思っていると、葵ちゃんが電話を取っていた。その間、私はまだぼんやりしている頭を起こすことに徹していた。

「はい。わかりました。気をつけて下さい。」

そう言って葵ちゃんは電話を切った。ただならぬ様子で声を掛けたいが、どうしていいか悩んでしまう。

「椿さん、今の電話はハンさんからでした。」

「うん。」

「大丈夫だとは思うけれど、このお店にも危害が加えられることがあるかもしれないから用心した方が良いと言ってました。」

「えっ…。」

全く訳が分からない。私のお店は普通のお店で危険が及ぶことはない。なぜそんな事を言われるのかと思いあぐねていると葵ちゃんはハンさんと趙さんと関わっているからですよと言われた。

「じゃあ、暫くお店は休みにしよう。」

「そうですね…。」

葵ちゃんはまだ何か言いたそうな顔で黙ってしまった。私よりもこの今の事情を理解しているから今後起こりうることも考えているのだろう。

ちょっと、お茶でも淹れた方がいいかな。

黙って立ち上がり、お湯を沸かして茶葉をティーポットに。そっと、葵ちゃんの方を見るが、まだ黙ったまま。こんな風に考え込む姿を見るのは恐らく初めてだった。

「ちょっと、お茶でも飲んで落ち着いたら?」

「…はい。」

美味しいですねと言いながら一口紅茶を飲んでソーサーに置いた。そして私の名前を呼んで一呼吸置いている。

「私、コミジュルに行ってきます。」

「えっ…。」

「ハンさんの力になりたいんです。」

「葵ちゃん…。」

今までみたことのないくらい美しい顔で言われて私は戸惑ってしまった。ハンさんのことが好きなのとかそんな野暮なことを聞けないくらいに。

「…私も一緒に行こうか?」

「いいんですか?」

「力になれるかは分からないけれど、近くまで見に行ってみよう。」

「わかりました。」

さっと出掛ける用意をして外に。そこにはいつもの異人町の朝の光景が広がっていた。しかし、なぜか違和感があった。ピリピリとした緊張感のような空気が辺りに立ち込めていた。

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