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  Fake It編


年が明けて最初に見る夢を初夢。
今宵、眠る時に見る夢とは?

ちょっとええかと言われて神妙な顔をしている吾朗さん。そっと向かい合うようにダイニングチェアに腰かける。真剣な眼差し。きっと何か大事なことを言うのだろう。動揺を見せないようにいいですよとだけ声を掛けるが、吾朗さんは黙ったまま。よっぽどの事なのだろう。話せるようになるまで待つしかない。そう心に決めて静かに吾朗さんが話し出すのを待つ。静まり返った部屋で聞こえる音は時計の針の音だけ。いつになるのかと思い始めていると口火を切った吾朗さん。

「女になろうと思てな。」

「えっ…。」

突然の発言に言葉を失った。

女になる。
オンナニナル。
女、女、女…。

「はぁ?」

驚きの後には理解できない声が出た。すると吾朗さんはちょっと待っとれと言って部屋を後にする。私の頭の中はパニック状態。突拍子もないことを言いだすことは今までもあったが、今回の発言は全く意図が読めない。一体何を考えているのか…。

「これが女になるってことですか?」

「せや!」

さっきと違いテンションの高い吾朗さん。いや、この場合はゴロ美と呼んだ方がいいのだろうか。見覚えのあるその恰好の吾朗さんが目の前に。

「今までも何回かゴロ美になってますよね。それとどう違うんですか?」

「今までは見た目だけやったやろ。この際、身も心も女にしたろと思てな。」

「えぇっ!!」

さすがにその発言は見過ごせなかった。身も心ということは本当の意味での女の子になろうとしているということだろう。

「本気なんですか?」

「当たり前やろ。よう考えて出した結果や。これが新しいゴロちゃんの形や。」

嬉しそうに目の前で踊る吾朗さん、いやゴロ美。私はどうしていいか分からず頭を抱えてしまう。自分の旦那さんがいきなりカミングアウトしたら誰でもそうなるだろうという正しい反応だ。

「私とはこれからも夫婦関係を続ける感じですか?」

「そりゃそうやろ。女になったとしてもそれは変わらん。」

「でも、男の人を好きになったりもするんですよね?」

「それもあるやろなぁ。」

「…………。」

一気に与えられた情報量の多さに頭が痛くなってくる。考えたくない現実に目を背けたくなって机に突っ伏していると吾朗さんの声が耳に聞こえる。

「ゴロ美としてこれからも末永く宜しくやで、椿。」

こんな結婚生活、嫌だ!!

叫ぶように言い放つと途端に視界は真っ白に。静かに目を開けるとそこには少し驚いた顔の吾朗さんが。

「どないしたんや、椿?」

「あれ…夢?」

「ヒヒヒ…。それは災難な初夢やったのぅ。」

吾朗さんに夢の内容を話すと思いっきり笑われてしまう。笑い話ではあるが、あの本気の空気を思い出すと今でも頭が痛くなってしまう。

「笑いごとじゃないですよ。真剣に夢の中の私は悩んでたんですから!」

「まぁその心配はないやろ。ゴロ美はあくまで楽しみでやっとるだけやからな。」

「ほんとですか?」

「そう思うんやったら試してみるか?」

「昨日もしましたよね。」

「あれは年末最後のやり残しや。今日からは新年明けましての姫始めや。」

「いいですよ。じゃあ、姫始めしましょう。」

言うか否かのタイミングで落ちてくる口づけ。いつもと同じで優しく暖かい。不安だった気持ちは一気に溶けて無くなりもう何も考えられなくなる。そう、いつだってそうなのだ。この人の温もりに包まれていると嫌なことが忘れられる。今年みた初夢の嫌なものも全て溶かして最高の現実に変えてくれるのだから。


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