Fake It編
暑い夏の夜が過ぎて、ひんやりとした風が吹くようになると秋の気配はすぐそこに。肌で季節を感じることもあるが、味覚で味わう季節もある。
「ほぉ、今日も豪華やのぅ。」
「ちょっと奮発してみました!」
初物を食べると長生きができるという云われと香りに惹かれて買った松茸。折角買ったのだから色々と試してみたいということで松茸ご飯や土瓶蒸しや焼き物にした今日の豪華な夕食。吾朗さんは嬉しそうに香りを楽しみながら一口一口噛みしめている。
「秋って感じがするのぅ。」
「ほんとそうですね。」
松茸ご飯を口に運びながら笑顔が溢れるいつもよりも楽しい夕餉になった。たまにはこんな風に贅沢をするのもいいなぁと思って片付けをしていると吾朗さんが傍に。洗い物の手を止めて吾朗さんを見るとイヒヒと笑っている。
「椿、デザートはないんか?」
「足りなかったですか?」
「いや、ちゃうちゃう。」
吾朗さんは嬉しそうに私のお尻を人撫で。思わず睨むが、それも吾朗さんにとっては興奮材料になるのだろう。
「探しとったデザートはここにあったのぅ。」
「これは私のお尻ですけど!」
「ええ桃があるからやろ。」
「桃じゃないです!」
そんな問答をやり取りしている内に吾朗さんは私の手を引き、口づけをひとつ。
「椿、デザートもろてええか?」
「もう…。」
吾朗さんの首に自分の腕を巻き付けて合意の意味を込めて口づけを。吾朗さんにかかれば秋の味覚はなんでもいいのかもしれない。今度はきっちり秋の果物も買っておかないと。そんな事を思いながら吐息を漏らした秋の夜。
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