よくあるドラマや映画にでてくる再会シーンというのは感動的なものが多い。そう、それはすべてフィクションの世界だからだ。じゃあ、現実は?そう、甘くない。どこかしょっぱさを秘めた苦さをもっているのが現実での再会になるのだろう。

「そこのお嬢さん、これ落とされましたぞ。」

「あっ、すみません。」

まさにそれはドラマのワンシーンのようだった。急いでいたせいかうっかり落としたパスケース。目の前の人が拾って呼び止めてくれていたようだ。パスケースを受け取り、顔を上げる。ここがドラマだとかっこいい男の人が微笑んでいたりするのだが、ここは現実。顔をあげて少しあっ…と思ってしまった。俗にいうオタクと言われる感じの風貌の男性が私の手にパスケースを丁重に置いてくれている。

まぁ、現実はそんなに甘くないか。
そんな事を思いながら、お礼を言って立ち去ろうとしていた時だった。その男性は驚くべき言葉を発した。

「もしかすると、椿氏じゃないですか?」

「えっ…。」

思わず呼ばれた私の名前。そして再度、まじまじとその声の主である顔を見る。あれ、どこかで会ったような。いや、そんな筈は…。

「九十九ですぞ!覚えてないですか?」

「えぇ!!」

まさかの再会は突然やってきたのであった。

◆◇◆

これだったかな?あっ、あった!
その日の夜、帰宅したあと取り出したのは小さい頃の写真が入ったアルバム。何枚か捲っていくとすぐに目的のページは見つかった。九十九誠一と私が笑顔で並ぶ写真。そう、私と九十九は幼馴染だった。小さい頃に近所に住んでいたことから昔はよく遊んだものだ。その時の彼はというと、眼鏡は掛けていたが、今とは違う雰囲気だった。まぁ、当時からオタク気質である子供なんてそういないと思うが。父の転勤の都合で小学校の途中で横浜に転校するまで九十九とは親交があった。
そして別れの日。

「椿ちゃん、また会える?」

「世界はひとつだからきっとまた会えるよ。」

「じゃあ、約束!」

「うん。」

今思うとなんて可愛らしいやり取りをしてものだと思う。まさに幼さ故の行動だ。そんな子供時代の約束は時が経って忘れられて今に至った訳だ。

横浜九十九課。
別れ際に九十九から渡された名刺。異人町で探偵業をしていると言われた。何か困ったことがあれば何でも言ってくだされと言っていた。いや、探偵に頼ることなんて普通に生きていたらなかなかないと思うけど。心の中でそう思いながらも、名刺を受け取らないのは失礼かと思って受け取ってきた。

思い出は綺麗なままで残しておくのがいいんだろうなぁ。
大人になってしまうと物事がつい打算的になってしまう。ソファーに寝転がりながら、九十九の名刺を眺めながらそんな事をふと。もう会うことはきっとないだろう。そんな事を思いながら、そっと目を閉じた。

しかし、すぐに2回目はやってくることに。

いつものように帰宅をし、鍵を開けようと思った時に異変を感じた。今まで鍵をかけ忘れたことはなかったのに、今日は鍵が開いている。いや、まさかね…。恐る恐るドアを開けると広がる光景。朝にみた綺麗な部屋ではなくあちこち物が錯乱した状態。その光景はまさに自分の部屋とは思えない状態だった。

空き巣だよね…。

突然のことに動揺して頭がパニックに。とりあえず警察に電話しなくちゃいけないのに、震えてボタンが押せない。落ち着け、私。そう思いながらも怖いという気持ちが全然鎮まらない。持っていた鞄がどさりと床に落ちる。そして目に入ったもの。

『何か困ったことがあったら何でも言って下され。』

名刺と共にその言葉がふいに蘇る。どうしていいかわからなかった私は縋るようにその番号に電話を掛けた。すぐに電話は繋がって九十九は驚きながらも穏やかな口調ですぐに行くから待っててくだされと言って電話を切った。私は茫然としながら部屋の隅で固まっていた。

「椿氏、無事ですか?」

「九十九…。」

不安な気持ちが一気に解消されて思わず涙が零れる。私に駆け寄って九十九は警察に電話し始めている。すぐに警察の人はきて、九十九は知り合いなのか親し気に話をしている。落ち着きを取り戻した私は職場に電話をして、事情を説明。災難だったねと心配されて2、3日は休みを取っていいよと言われてその言葉に甘えることに。部屋の状態もひどいことになっているので片付けるのにも時間が必要だったからだ。

「じゃあ、何か新しいことがわかりましたら、連絡します。」

「はい。ありがとうございました。」

諸々の手続きが終わって警察の人が帰ったのは深夜。いつもだったら寝ている時間だが、興奮しているせいか全く眠くない。指紋の採取なども終わっているので、そのまま部屋で過ごしてもらっても構わないと言われたが、悩んでしまう。他人が入ってあちこち触った部屋で眠るのはどうしても抵抗があった。この時間から空いているホテルはあるのだろうか。次から次へと考えることが増えて嫌な気持ちがこみ上げてくる。

「椿氏、これからどうされるのですか?」

「とりあえず、今日はホテルに泊まろうかな。片付けは明日落ち着いてからしようかな。」

「そうですか…。」

九十九は何か考え込んでいる様子。そういえば、まだお礼を言っていなかったことに今更気づいて申し訳ない気持ちでいっぱいになる。自分のことで頭が一杯でそれどころではなかった。

「九十九、あの、今日は…。」

「良かったら、僕の部屋で一晩過ごしますか?」

「えっ…。」

お礼を言おうと思ったが、まさかの九十九からの申し出に驚く私。ありがたい話だけれど、これ以上迷惑を掛けてしまうのはさすがに…。困った顔で返答に困っていると九十九は優しく笑う。

「椿氏は私にとって大事な幼馴染ですからな。」

「九十九…。」

そういわれてしまうと甘えてしまうのが私だ。必要なものを買いそろえて九十九の家に向かうことに。そしてその時に大事なことに気づく。私、男性の部屋に行くのがハジメテということに。いや、そもそも異性と付き合ったことが今までなかったんだが!という大事なことに。

いや、まぁ、九十九だしね。

「そこまで広い部屋じゃないですが、さぁさぁ、どうぞ。」

「お邪魔します。」

こうして私は男性の家に入るというハジメテの経験をしたのであった。



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