いつもと違う街並み。クリスマスといえば、家族や恋人の為のものであったと思っていた。けれど、今年は違う。私には大切な人ができたからだ。

キューキュー。

甲高い声で鳴く声の主。思わずその可愛さにため息が漏れる。

か、可愛すぎる。

まさにここは可愛いのパラダイス。キューキューと鳴きながら穴から手を出すカワウソにチーズを差し出すと自分の手に持っていき、丁寧に食べている。またくれるのかとすぐに食べ終わった手は目の前に差し出される。恐る恐る触れるとふにゃりとして柔らかい。

「楽しそうだな、夏。」

「えっ!だって可愛いでしょ、カワウソ。」

私がカワウソと楽しそうにしているのを横目で見ている峯。相変わらず今日もかっこいい。そんなかっこいい人が私の大切な人だ。今日はクリスマスということで、私が以前から行きたかったカワウソと触れ合えるカフェに。予約がなかなか取れなかったと話すと峯はすぐに予約を取ってくれていた。変わらず、perfectなところは健在だ。

「俺には、夏の方が可愛く見えるけどな。」

「えっ…。」

想定以上に大きい峯の声が店内に広がる。かっこいい男がかっこいい事を言う。当たり前のことだけれど、それはなかなかの威力だ。店内は女性客が多いこともあり、峯の言葉に目をハートにさせる女の人がちらほらと。

やっぱり、峯って狡い。

「もういいのか?」

「うん…。」

居たたまれなくなった私はカフェを後に。まだ時間はあったけれど、十分カワウソの可愛さは堪能できた。それに、今は峯のさっきの言葉で楽しめる余力は残っていない。不思議そうな顔で峯は私を見ている。私は黙ったまま、まださっきの言葉の恥ずかしさを引きずっている。
ほんと、こういうことがさらりと言えるのが峯なんだろうなぁ。
差し出された手を取り、街の中に。まだ時間はあるが、そろそろ買い出しをして、部屋に戻る方がいいかもしれない。このまま外にいたら、また恥ずかしさで身が持たないだろう。

「ちょっと早いけど、お惣菜とか買って帰る?」

「あぁ、そうだな。」

当初は峯からどこかディナーを予約しておくといわれたけれど、ゆっくり2人で過ごしたいという私の提案を汲んで、峯の部屋でオードブルなどを買って過ごすことに。いいご飯も勿論楽しいけれど、堅苦しいのは性に合わない。いつでもできることだし、今年は初めて2人で過ごすクリスマス。そして、まだ付き合ってまもない。時間は限られている中で精いっぱい一緒にいられる術を考えて、今年はこれが一番良いと思った。

休みが終われば、大阪に戻らないといけない。
これが遠距離恋愛の辛さ。会いたいときにすぐに会えるわけではない。わかっていたことだけれど、遠距離スタートというのはやはりハードルが高い。
でも、これが私の選んだ道。

「夏、どうかしたのか?」

「ううん、楽しいなぁって思って。」

私が急に峯の手をぎゅっと強く握ったことで、何かあったのかと顔を覗き込んでくる。私はそれを笑顔で返す。峯から与えられるこの手の温もり、今の時間を大切にしなければとそう自分に言い聞かせて。

◆◇◆

「いい感じになったね。」

「盛り付けるだけでも、結構豪華になるもんだな。」

「うん。」

デパ地下で買ったお惣菜をお皿に移してダイニングに運ぶ。私が来ることをわかっていたのか、チカチカと光るクリスマスツリーが飾られている。一人で峯が飾っている様を想像すると思わず笑ってしまいそうになるが、私の為にしてくれたと思うと心がぽっと暖かくなる。

「夏、メリークリスマス。」

「メリークリスマス!」

シャンパンで乾杯。かちんとグラスが当たる音がして、ようやくクリスマスをしてるなぁという実感に浸る。そして、クリスマスと言えば…。

「峯、忘れないうちに渡しておくね。」

立ち上がって、ボストンバックの底に忍ばせていたプレゼントを峯の前に。開けていいかと言われて勿論と答えて、峯は包みを開けていく。

「ありがとう、夏。」

峯は私が選んだボールペンを手に取り、紙にさらさらと試し書きを。何をあげたらいいかすごく悩んだけれど、身に着けるものや普段使えるものがいいと思って、ボールペンに。シックなデザインで綺麗なカラーのボールペン。峯に合いそうだと思ったこのデザインにした。うん、やっぱり似合ってる。

「じゃあ、俺からもいいか?」

「うん…。」

すでに峯が手にしている包装を見て、少し緊張してしまう。知っているブランドのロゴ。しかし、自分で買ったことはない。そう、高級店だからだ。私が選んだボールペンも老舗の高級ブランドで買ったものだけれど、その比ではない気がする。

「あ、開けてもいいかな…。」

緊張しながら、包みを開ける。そこにはパールとダイヤが並んだネックレスが入っていた。

た、高い。

シンプルなつくりだけど、絶対高いのは並んでいる宝石の数でわかる。

「さすがにこんなに高いのは…。」

「夏に似合うと思って、俺が選んだ。値段は関係ない。」

「でも…。」

綺麗にケースに入った状態でそのネックレスをぼんやりと眺めていると、峯はすっと立ち上がり、私の傍に。ちょっといいかと言われて頷く。ケースは峯の手に渡り、峯は私の後ろに。首にすっと掛けられるネックレス。きらきらと光るパールとダイヤが視界に入る。

「やっぱり、俺の見立ては間違ってなかったな。」

「こんなに高いのつけたことないよ、私…。」

「本当に夏に似合ってる。これならスーツでつけても大丈夫そうだな。」

「えっ…。」

「いい虫除けになりそうだな。」

「虫除けって…。」

そんな事をしなくても、私の心はもう峯にとらわれているのに。背後にいる峯は私の首筋にそっと息を吹きかける。私は思わず、驚いて肩を揺らす。峯は喉の奥の方でクツクツと笑っている。

「夏、いいか?」

「えっ…。でも…。」

まだテーブルには手を付けていないオードブルの数々が視界に。私の返答に構わず、峯は私の首筋に舌を這わせている。こうなったら無理なのは、私もそうだ。ぞくぞくと駆け上がってくる欲の熱。

「夏、俺にとっての最高のプレゼントはこれだ。」

峯は私の方に向き直り、口づけをひとつ、ふたつと落としていく。触れるだけ触れると舌がゆっくり中に。その頃にはもう覆いかぶされた状態になっていて、お互いその気になっている。

「峯、好き。」

「俺もだ。」

あとはひとつになって溶けていくだけ。初めてのクリスマスはただただ甘くて蕩けるような時間になった。








「もう25日になっちゃったね。」

「夏がなかなか離してくれなかったからな。」

「それは峯もでしょ。」

結局、熱はなかなか冷めることなく疲れ果てるまで、甘い時間を楽しんだ私と峯。寒くなった体を温めるために今はベッドに包まっている。結局、まだオードブルもケーキも手をつけていない。峯は私の首にかかったネックレスで手遊びをしている。

幸せだなぁ。

そっと目を閉じて、その温もりに顔を埋める。峯は私の髪を撫でる。なんて贅沢な時間なんだろうと。

「夏…。」

「ん?どうした、峯?」

「その言い方は変わらないんだな。」

「言い方?」

そういわれて、峯は下の名前で呼んでくれないんだなとぽつり。そういえば、峯は私のことをずっと夏と呼んでいた気がする。細かいことだが、こういうことを峯も気にするんだなぁと意外さに驚く。

「呼んで欲しいの?」

「当たり前だろ。」

ほら、呼んでみろと言われて俯いた顔は峯の両腕に包まれて向かい合う形に。峯の真剣な眼差しが私をじっと捕えている。細かいことだとさっきは思っていたけれど、こう改まって呼ばなければいけないと思うと妙に意識してしまう。

「夏…。」

縋るような眼で私を見る。そんな目で見られると駄目だ。ものすごく愛おしさがこみ上げてくる。

「…義孝。」

緊張していたせいか、上ずった声で呼んでしまう。その緊張した様に峯は笑う。なんだか悔しくて顔を背けようとするが、固定されていた顔はそっと峯の方に向けられる。耳元でそっと嬉しいもんだなと言われて落ちる口づけ。
もう言葉は要らない。
そっと目配せをして、2人で欲の海の中へ深く落ちていく。



甘々



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