昨日の勢いは何処に。

ひと言言わせてもらっていいですか?

この会社、大丈夫か!!

◆◇◆

無事に7時に事務所に到着した私。まだ何をしていいかの指示がないまま、とりあえずデスク周りなどを綺麗にした後特にやることもなくなり、現場の方に向かってみる。まだ骨組みばかりの目の前の建物。神室町ヒルズ建設予定地と書かれている。一体どんな建物になるのだろうか。

「高城さん、早いですね。」

「おはようございます。」

昨日の面接をしてもらった西田さんが資材を運んでいる。手伝わなくてもいいんですかと声をかけると親父から高城さんには危険なことはさせないようにと釘を指されているのでと言われる。

親父…。社長のことなのかと思いながらもやはり西田さんもその筋の人なのかと思う。8時が始業時間と聞いていたけれどちらほらと現場には人が集まりだして挨拶などをしているとやはりどの人もいかつい感じの人ばかり。

本当に私はここでやっていけるのか。

不安な気持ちを抱えつつ西田さんからまずは朝礼からなんでと言われる。意外ときっちりしているんだなぁと思いながら他の社員さんの列の一番後ろに並ぶ。

「諸君!おはよう!」

思わず耳がキーンとなるような大きな声で社長が登場。

「「おはようございます!」」

社員さん達が挨拶するのを見て、慌てて私も挨拶を。社長は嬉しそうに今日は声が大きいのぅ…と言いながら業務連絡を。そして西田さんが私の許に駆け寄り、紙切れをひとつ。

なにこれ。

歌詞のようなものが書かれている。

真島建設、社歌。

社歌?

なんだこれと思っているとラジカセから響く軽快な音。周りをみると腕を振りながら歌う社員さん達。驚いていると西田さんが、ちゃんと歌わないと減給なんですよと言われて慌てて歌詞カードを見ながら私も歌う。

なんだこれ。

今日はとびっきりの快晴なのに私の中では早くも暗雲が立ち込めている。

この会社、大丈夫か。

そして思う。社長の名前って真島吾朗っていうんだ。
会社の歌だとしてもこんなにも自分の名前を入れる人なんているんだと驚きつつもそういえば自分の父も家に自分の銅像を作っていたことを思い出す。

うん、偉い人の考えは到底理解できない。

そんな事を思っている内に社歌の時間が無事に終わる。

「ほんなら、最後に新しい社員の紹介や。」

高城チャン!早よこんかい!と言われて思わず足がすくむ。そして一斉にこちらを向く視線。

気まずい空気を感じながら社長のいる壇上へ向かう。下で挨拶をしようとすると、社長が早よ、こっちに上がってこんかいとメガホン越に言われて渋々壇上へ。

「今日からこちらでお世話になる高城椿です。宜しくお願い致します。」

お辞儀をして顔をあげるとまた先ほどの差すような視線。

怖い…。

そして今更ながらに思うこと。
女性社員はここにはいないのか。
不安な気持ちが更に増してくる。

「なんや、もっとおもろい事言えんのかいな。女体盛チャン。」

「その言い方!セクハラですよ!」

思わずカチンときた私が衝動的に言ってしまった一言。
…まずい。
思わず赤くなる顔。

するとどっと笑いが起きる。

「社長!その子は社長の女ですか?」

「ちゃうわ!」

「じゃあ、彼氏はいるの?」
「どこに住んでるの?」
「何歳?」
「スリーサイズは?」

矢継ぎ早に飛び交う質問。私は恥ずかしくなって俯いたまま。このまま私、ここでやっていけるのだろうか。ただただ飛び交う質問に圧倒されてしまう。

「うっさいボケ!さっさと仕事にかからんかい!これ以上騒ぐんやったら減給するで!」

ざわついていた場が一気に静かになってそれぞれ作業にうつる。助かったのか…。そもそも社長が悪いのではと思いながらも社長を睨むとにんまりと笑っている。

辞めたい…。でも辞められない。

そう、とりあえず、今月までは。

こうして初日の業務にようやく取り掛かる私であった。

先行きは…黒だ。


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