変わらず朝の寝起きドッキリや冷蔵庫の中身が無くなっていることもあるが、ようやくこの状況にも少し慣れてきた今日この頃。私が真島建設に入社して3回目のお給料日の今日。もう慣れた朝礼の為の全員集合。しかし、今日はいつもと違ってなんだかそわそわとした空気が。まぁ、今日がお給料日だからかと一人納得していると西田さんがそっと横に。

「今日は皆さん、いつもと雰囲気が違いますね。」

「それが実は…。」

西田さんが何かを言いかけようとしているが、拡声器から聞こえる声で遮断される。社長が私語厳禁やと言いながら壇上に。何やらお知らせがあるのかと思いながら黙って前を。

「今年もこの時期がきたで。」

「「ウォー!!」」

社長の声に反応して雄叫びがこだまする。全く訳の分からない私はただ一人置き去りにされたような心境。ボーナスの時期でもなさそうだし、何かお楽しみ的な何かがあるのだろうかと思っていると社長が静かにせんかいと一喝。辺りがしんと静まる。

「来週の土日は真島建設社員旅行決行するで!!」

「「ウォー!!」」

社員旅行。それで皆さんの勢いがすごかったのか。来週…。勿論自由参加だろう。それなら私は部屋でのんびりできるか。たまには一人でゆっくり過ごすのも悪くないなぁとにんまりとしていたが…。

「勿論全員参加や!参加せん奴はクビや!」

やっぱり、そうなるのか。溜息を尽きながら逆らうことのできない平社員の私。壇上では嬉しそうにしている社長。囃し立てる社員。この会社はほんと、時代がひと昔前のようだ。面倒な事にならないといいなぁ。そんな懸念と共に少しだけ旅行を楽しみにしている自分。段々と私もこの会社に馴染んできている証拠なのかもしれない。

そんなこんなで当日を迎える。

「各自、乗ったか?」

「はい!」

まるで遠足のようだ。マイクロバスを貸し切っての社員旅行。ご丁寧にバスのプレートにも真島建設御一行様と書かれている。こんな風に集団で旅行をするのも学生以来。指示された席に座り、私の隣は開いている。荷物を置こうと思っていると黒い影が。

「ここはゴロちゃんの席や。」

「社長…。」

車酔いしそうだから静かに寝ていようと思っていた目論みは見事に外れて、笑う社長。前途多難な旅が始まろうとしていた。

◆◇◆

「社長、狭くないですか?」

空いている席もあるのにわざわざ私の隣に腰かけている社長。変わらず真意は分からない。

「全然狭ない。それに言うてる間に着くやろ。」

「そうですか…。」

後ろの席の方ではすでに宴会のようなものが始まっていて車内はかなりの盛り上がり。向かう場所は老舗の温泉のようで、車窓が見慣れた景色から山の中に入っていく様を見ているとウキウキとしてきた。

「高城チャン、なんか楽しそうやのぅ…。」

「温泉楽しみなんで。」

「それやったら良かったで。ぎょうさん旅館の中にはあるから入り倒したらええ。」

事前に旅館の情報は教えてもらっていて温泉の種類は豊富。そして貸し切りのこと。まぁ、そうだろう。社長を始めとして背中に彫り物が入っている人達が多い会社なのだから。

「ほな、宴会は18時からや。それまでは各自自由や。」

各々がそれぞれの部屋に散っていく。私の用意された部屋は1人部屋で他の人は何人かで相部屋。至れり尽くせりで申し訳ないなぁと思いながらも一人広い部屋でのんびりと羽を伸ばさせてもらおう。座椅子に座りながら置いてあったお饅頭とお茶に舌鼓を打つ。時間はまだあるし、ご飯の前にお風呂に入ってもいいかも。静かな部屋でそんなことをふと。

ほんとに静か。怖いくらいに。

最近は社長といることが当たり前になっていた。それが急にこの広い空間にぽつんと置かれてふと寂しさを感じた。一緒にいる時はたまには一人になりたいと思っていたのにどうしてこんな感情になるのだろうか。

きっと、これは気のせい。

気を取り直して温泉に行く準備を。疲れているせいで感傷的になっているだけ。下駄を鳴らしながら温泉に向かう。湯船に浸かり、目を細めているとそんな気持ちもそっと消えてお腹が空いてきた。宴会の時間まではあと少し。





01



|

top

×
- ナノ -