ずっとこのまま変わらないでいられればいいのに。そんな風に思ったとしても現実はそんなに甘くはなく、変わらないということはない。時に変化があり、順応し、人は成長していくものだ。
多様性になってきた世の中ではあるが、それでも人は誰かに恋をして愛に変わる。ではその後は?大抵の場合は結婚して同じ姓になって人生を共にする。

私の場合はというと、今までの人生の中で恋愛という要素はほぼ皆無に等しく生きてきた訳で恋するようになったのも最近だ。まだまだ知らないことも多く、恋はただ甘いだけじゃなく時に切なく、苦いなぁと思うのも最近だ。

それでも時に今の恋愛の先について考えることがある。

「変わらず、仲良さそうでいいわね。」

「そうですかね?」

苦笑しながらママさんと弥生さんとの久し振りの飲み会。私がこの中で年齢が一番下ということもあっていつも話を振られることも多く、大抵質問攻めにあうのは真島さんとのこと。
…とはいっても特に新しい内容はなくここ最近の日常の話ばかりだ。

「ほんと、あの子もそろそろ身を固めてほしいもんだよ。」

溜息を尽きながら弥生さんは息子さんの大吾さんの話をしている。東城会のトップである人だから早く身を固めてもらって落ち着いて欲しいといった所なのだろう。

「でも、そんな事言っても変な子が来ても困るんじゃないの?」

「そりゃそうだけど…。」

悩める母の顔というのはこういうものなのだろうか。私の母も元気であったらこんな風に悩んだりしたのかなぁと思っているとママさんが私をじっと見る。

「椿チャンもそろそろ考える時なのかもね。」

「えっ…。」

「結婚よ!結婚!」

そう言われて自分に実感のなかった言葉が急に現実味を帯びてくる。今の状態と何か劇的に変わるのだろうか?答えは分からない。それでも少しだけ想像してみると、不安な事がたくさん。

仕事、子供の有無…。一般的な女子が悩むことは当然。そして真島さんの場合は普通の人ではなく東城会の幹部。もし、結婚したら私は極道の妻ということになる。想像の範疇しかないが、極妻とは常に組の事を切り盛りしているイメージがある。

…うん、私にできるのか。
そもそも色々と知らないことが多すぎる。
そんなもやもやを抱えながら飲み会は終わり、帰宅しながら更に考えてみる。

やっぱりまだまだ真島さんのことを知らないのかもしれない。過去の結婚していたことなどを含めて。いつも冗談なのか本気なのかは分からないが、結婚という言葉を口にする真島さん。

一度、ちゃんと話をした方がいいのかもしれない。
そんな事を考えている内に自宅に着いてドアを開ける。

「楽しかったんか、飲み会?」

「楽しかったですよ…。」

複雑な気持ちをそっと隠して微笑む。いつもそうなのだが、面倒な事を後回しにしてしまうのが私だ。今が丁度いいタイミングで聞けばいいのに、そう思いながらも聞けない自分。やはりまだまだ夢を見ていたいのかもしれない。恋愛というこの甘い汁の中でゆっくりと浸かっていたいのだろう。現実を見てしまうとそれが途端に甘くないのが分かっているからだ。
そう、まだまだ夢見る少女でいたいのだ。

◆◇◆

「で、何が聞きたい訳?」

「結婚ってして良かった?」

そう、やはり困った時は同年代の友人に聞くのが一番。そして私の場合はその数少ない友人が件の友人。私の顔を見るなりやはり長年の付き合いで私が悩んでいることはわかったようだ。そして聞きたかったことを開口一番に。

「まぁ、良かった…かな?」

「えっ…?」

イエスかノー、白か黒といったようにはっきりとした性格の友人にしてはやけに歯切れの悪い答えが返ってきて思わず驚いてしまう。そんな事に構わず友人は話を続ける。

「私の場合はできちゃった婚だから。まだまだ相手の事を深く知る前に一緒になったから参考にはならないかも。」

「そうかぁ…。」

「でも、良かったと思うよ。勿論、あぁ、これ無理とか許せないとかもあるけど。その分、一緒になって良かったなって思うこともあるし。」

彼女の顏を見て分かった。結婚する前は少し毒のある感じや強い感じがしていた。それが彼女の持ち味で私は好きだった。でも今は違った優しい雰囲気を纏っている。暖かくて包み込むような。それは今の生活によってもたらされたものなんだろう。

「色々ありがとう。ちゃんと考えてみる。」

「じゃあ、これあげる。」

そういって渡されたものをみてげんなりする私。お馴染みの結婚雑誌。いや、まだこれはちょっと気が早いと思いながらも友人からは頑張るのよと一言もらい、重くなった鞄を持って家へと戻る。
まだ真島さんは帰ってきていないようで鞄の中からそっと雑誌を取り出す。キラキラとした文字が並び、笑顔の女の人がたくさんうつる写真。まさに幸せの絶頂といった所か。
普通はこんな風に見ていたら実感が湧いて結婚したい!と思うのだが、まだまだ実感が湧かず、他人事のように感じる。そう、まだこれは早い。そしてまずは聞いておかないといけないこともあるし。それが今は先決だ。

「椿、1人で楽しいもん見てるやないか!」

私の雑誌をひょいと取り上げて笑顔を浮かべる真島さん。うん、タイミングが良すぎるのか悪すぎるのか。どうしていつも1人でこっそりしていると真島さんはこんな風にやってくるのだろうか。私の深い溜息が静かに部屋に響いた。


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