私の恋人はとても素敵な人だ。本当に素敵な人。今までそれなりにお付き合いはしてきたが、そんな人達とは比べ物にならないくらい素敵だ。

「椿、引っ越し祝いや。」

「こんな高価なものいいんですか?」

気にせんでええと言われてもらったのは高級そうなソファー。ぎりぎり二人が座れるくらいの大きさで一人で座るのには少し大きいサイズ。このソファーを置くだけで殺風景な部屋の印象ががらりと変わる。

「ありがとうございます。」

真島さんはいつもこんな風に私を大切にしてくれる。優しくて素敵な人。嬉しくて思わず胸に飛び込むと優しく抱き留めてくれる。そう、とても素敵な人。

「せや、しばらく忙しくなるからここにも来られへんかもしれへん。」

「えっ…。」

今までも度々そういったことはあった。仕方ないけれど、ここは我慢。だって真島さんは普通の人とは違う。ヤクザだもん。そう自分に言い聞かせるがまだまだ子供な私はつい顔にでてしまう。そんな私を見て真島さんはそないな顔するなやと言って私の頬を優しく撫ででキスをひとつ。それだけで不安だった顔が笑顔に。次に会える時まで自分磨きをしよう。真島さんに綺麗になった、可愛くなったと言ってもらえるように。

そんなやり取りを経て自分磨きの時間が始まる。忙しくなると真島さんからの連絡は一日あって良い方だ。ここ暫くはメールの返信も滞っている。どうしているのか不安になるが、待つしかできない。最後に会った時に持ってきてくれたソファーに寝転びながらただ愛しき人の姿を目に浮かべる。

真島さん…。

微睡む中でつい思い出すのは情事の時のこと。少し意地悪な顔で私に触れていく様。正にそれは無意識だった。気づけば下肢に手が伸びて自分自身を慰めていた。それくらい会えない時間が過ぎていたことになる。限界だったのだろう。

何やってんだろう、私。

事が終わり、一人の部屋で虚しく達した身体を落ち着かせながら思う。一人でしたところでただ虚しさが募るだけなのに。それでも少しだけ欲の気持ちは落ち着いていた。もう、寝よう。今日は。そんな事を思ってお風呂場に向かう。

「真島さん…!!」

シャワーを浴びてタオル一枚の姿で部屋に戻るとそこには愛しき人が。突然の訪問に驚きつつも嬉しさがこみ上げる。私が会いたいという気持ちが伝わったのだろうか。

「連絡するより来た方が早いと思ってな。」

「会いたかった…。」

そのままの姿で真島さんを抱きしめる。変わらないその温もりにさっきまで落ち着いていた欲がまた上がってくるのを感じる。真島さんはそっと首元に顔を落し、肌に赤い印を落していく。

「椿、ええか?」

「はい…。」

なだれ込むように2人してソファーに沈む。いつもと変わらない日常が戻ってきた。久し振りの温もりを噛み締めるようにそっと目を閉じた。

◆◇◆

「椿、引っ越し祝いや。」

「こんな高価なものいいんですか?」

目の前の彼女は嬉しそうに微笑むながらソファーに腰かけている。喜んでもらえてこれ幸い。無邪気に笑う彼女を見て自分はそっと違う笑みを浮かべる。

「せや、しばらく忙しくなるからここにも来られへんかもしれへん。」

「えっ…。」

彼女が悲しそうな顔をしている。そっと抱きしめると彼女は嬉しそうな顔に変わる。自分としても彼女にしばらく触れられないのは辛いものがあるが仕方ない。そう、目的の為。触れられないけれど彼女の傍にはいられるのだから。

それから彼女の日常を垣間見る生活が始まる。彼女は一人でどんな風に過ごすのか単純な興味。相手のことをもっと知りたいという自分の中での独占欲。その結果が今の状態だ。
彼女にプレゼントしたソファーにはちょっとした仕掛けがしてある。中に人一人入れるスペースがあるのだ。そして見えないように穴をあけて彼女の素の姿を見られるように。彼女が仕事に出かければ自分はそっと中から抜け出して外へ出る。彼女が帰ってくるとわかればまたソファーの中へ。彼女に触れられないけれど、彼女の温もりは毎日その布越しから感じていた。
彼女の日常を垣間見て満足できた。そろそろ彼女の許に戻ることにしようか。そんな事を考えていた時にまた新たな彼女の姿を知ることになる。

真島さん…。

彼女が自分の名を呼びながら自分自身を慰めている。自分が見てきた中で一番卑猥な彼女の姿。思わず生唾を飲む音が彼女に聞こえないか心配になる。彼女の痴態を間近で感じたことで自分の中の欲の熱も上がってきた。そろそろ、椿も俺も限界といった所か。また彼女の日常はこっそり見ることにして今は彼女に直接触れる方が先決だ。

「連絡するより来た方が早いと思ってな。」

「会いたかった…。」

自分の胸に飛び込んでくる彼女。久し振りに触れるその直の温もりはやはりいいものだ。そっと彼女の髪を撫でで微笑む。また以前の日常が戻ってきた。

男はただ純粋に女を愛していただけ。
女もただ純粋に男を愛していただけ。
ただ、それだけの話。
その純粋さに天と地ほどの差があったとしても。




蛇足



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