言葉にしてしまえばひどく単純で簡単なのにできない。
言葉にしてしまえばそれが最後。
分かっているからこそこの気持ちにはそっと蓋をしてじっと耐え忍ぶ。

それが自分の決めた道。
頭ではわかっていても心はそううまくはいかない。
だからこそ持て余された欲を吐き出す為に夜の街に溶け込む。
仕事終わりの公園に。
行きずりで後腐れのない人。
そんな風にぼんやりと歩く人を見ながら適任な人がいないか目で追う。

「ネェちゃん、こんな所で1人か?」

「……………。」

俺らと遊ぼうや。
その声に溜息を尽く。
こういうのは私の好みではない。
そして複数を相手にするほど体力のある方ではない。

今日は帰った方がよさそうだ。
そんな事を思いながら何かいっているチンピラ風の輩を無視して歩く。
この街ではこの方法が一番の得策。
自分から飛んで火に入るほど愚かなものはない。

「無視するとはええ度胸やな。」

「放して!」

持っていたバッグで腕を掴んだ男を殴り、男はいったぁ!身体中の骨が折れてもうたでと言っている。
馬鹿らしい。
そう思いながらも連れの男が私の空いている腕を掴む。
まずい事になったかも…。
どうやってこの場を打開しようか考えている内に私は引きずられる形でどんどんと男達の手の内に。

何とかしないと…。

「嫌がっとるんやないか、放したれや。」

「なんや、オッサンやる気か?」

私が見ている内にまた厄介な事になっている。
そう思っている内に絡んできたチンピラは床で蹲っている。
そして目の前の人物を見る。

パイソン柄のジャケットを素肌に羽織り、レザーのパンツ。
奇抜な格好な人くらいこの街には普通にいる。
それでもこの男は違う。
素肌から見える刺青、そして目には眼帯。
明らかにただ者ではない。

「ありがとうございました…。」

少し引き気味にとりあえずお礼だけ告げる。
そう、関わってはいけない。
それでも男は立ち去ろうとはせず、私のことを舐めるように眺めて笑っている。
そう、絶対関わってはいけない。
自分の中で危険を告げるアラーム。
じゃあ、これでと言って私は背を向けて歩き出す。

「待ちや!」

その声に思わず歩みを止める。

「まだ、お礼してもらってへんで。」

「はぁ?」

これが私と真島吾朗との出会いだった。


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