ふとした油断がミスになる、ふとした油断が出逢いになる。
ここはそんな不夜城。
ここには色々な人がいる。
お金持ちの社長さんから行き場を無くしたホームレス、そして綺麗な格好で颯爽とお店に向かう女の人、職業や人種が入り乱れて街は正常に機能して活気がある。

そしてここにもいる。
色んな中の人の1人。

「来てたんだ。」

「今日は来る日やろ。」

そう言われて掛けられたカレンダーの曜日を見てあぁ、そうかと思う。
目の前の男は溜息をついて私を見る。
私はそんな事に構わず、コートを掛けて男に何か飲む?と聞く。
私が冷蔵庫から取り出した缶ビールを見て、それがええと一言。
どうぞと言って放り投げる。
思いっ切り投げたのにきっちりと缶ビールは黒い手袋に。
プシュっと勢いのある音と共に顔にかかるビール。

「何やってるんですか!」

「椿が投げるからやろ。」

はぁ…と今度は私が溜息をつく番。
タオルを渡すとふいに腕が掴まれる。

いつもこの男は突然だ。

そして射抜くようにじっと私の眼を見る。
それでも私は心を踊らされることはないだろう。
だって、私には…。

「椿、ええか?」

私は返事のかわりに目を閉じる。
男はうすく笑い、首筋に髪がかかる。

「真島さん、キスは駄目ですからね。」

そう、これもいつもの会話。

「変わらず、強情やのぅ。」

早よ、堕ちてくれんもんかのぅ…と言いながら一枚、一枚剥がされていく自分自身。

どうしてこんな風になってしまったのだろうか?
どうしてこんな風にしか出会えなかったのだろうか?

人との出会いは奇異だ。

そして一つだけ言える事。

"私はこの男のことは好きではないことだ"

「椿…。」

そういって私の上で律動する男、そして今日も綺麗に映える刺青。
見たくない現実はそっと目を閉じて。
触れたくない自分の気持ちにはそっと蓋を。

そう、今はただ、この快楽に身を委ねればいい。
それがこの不夜城での生き方だ。



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