デート(仮)男の場合

惚れた女には幸せになって欲しい。
それはどんな男にとってもそうだ。
自分も然り。

しかし、どうして人というのはこう強欲なのだろう。

横に座り、いつもの様に少し紅い顔で興奮気味に話している彼女を前にしてそっと邪な部分が垣間見える。

惚れている女には別に好いた男がいる。
それだけで自分の中にはひどく冷たい感情を持ち合わせてしまう。
そして投げやりになってしまう。

「ほんなら、はよせんと他の誰かに取られてまうやろ。」

「それができたら苦労しませんよ。」

そう言いながら項垂れる彼女を見ながら羨ましさ、妬み、嫌な感情が浮き出てくる。
どうして自分ではないのだろうか?
そして自分ではないが、彼女には幸せになってほしい。
相反する感情が浮いては沈み、そんな感情を押し込めるように煙草に火を点ける。

どんな男なんだろうとふと思う。
以前きいた時は優しくて素敵な大人の人だと言っていた。
更に掘り下げて聞いてみると答えに困ったのか苦笑していた。

堂々巡りのような関係。
彼女に幸せになってほしいと思う一方で幸せになるということはもうこの横に座るという関係も終わってしまう。それならばいつまでもこの状態の方がいいのではないか、そうすればこの時間は永遠に奪われることはない。
それでも男は一回賭けてみたいと思った。

「しゃあないのぅ。そしたらゴロちゃんがひと肌脱いだろか!」

一度だけ。
そう彼女の1日を自分のモノにしてみたいと思った。
さて、彼女の反応はというと意外そうな顏をしている。
いつもなら冗談ですよねとか言いそうな所なのに黙ったまま。

そしてその日はそれでお開きに。
後日メールを送るとわかりましたと簡潔にきていた。
さて、そしたら何をしようかとワクワクとしている自分がいた。
そしてすぐに現実に戻り、相手は自分ではないのに、そっとはしゃぐ気持ちを抑える。

それでも当日彼女を目の前にした途端一瞬言葉を失った。
いつもと違い、上品な彼女の一面に抑えていた気持ちはあっという間に零れ落ちる。

「椿チャン、今日はいつもと雰囲気違うから驚いたで。」

高まる気持ちを抑えて可愛いと言って彼女の手を取る。
そして少し頬を紅く染めた彼女を見て、他の誰にも見せたくない。
そんな邪な気持ちが見え隠れする。

そして冷静になれと。自分に言い聞かせる。
自分は彼女にとって何者でもないのだから。
そう、現実は残酷だ。

彼女と話す度、彼女が笑うたび、彼女が少し困った顔をする度になぜ?が自分に返ってくる。次のデートがあるとすればそれは他の誰かに見せるその顏でそれは自分ではない。その分かっている答えに苛立ちが募る。
それでも彼女と繋いだ手を離したくはなかった。
それなのに…。

見知った部下の女に声を掛けられて話している間に彼女は自分の前からいなくなっていた。そして気づく。
はしゃぎ過ぎていた自分の愚かさに。

そして彼女を探す為に街を走る。
なぜならまだ今日は終わっていない。

◆◇◆

おった。

そう思ったが、すぐには彼女の前には歩いていけなかった。
少し項垂れた彼女は足を見ながら暗い表情。
はっきりとは分からないがおそらく靴擦れでも起こしたのかもしれない。
普段、彼女はあんなヒールの高い靴を履いていることはない。
履きなれていない靴で歩き続けてこんなことに。
そしてその原因は自分だ。
どうして気づいてあげられなかったのか、浮かれていた自分を責めた所で事実は変わらない。

「待っときって言うたやろ、なんで先に行くねん。」

「すみません。」

そして彼女を気遣う言葉は出ず、乱雑になる自分。
自分の中にそっと嫌な部分が顏を出す。
そうだ、彼女は自分といるのが嫌だったのではないかということに。
そして言葉は続く。

「なんで言わんかってん。」

「…………。」

黙ったままの彼女。
重い空気が辺りを包む。
何やっとんねんという冷静なもう1人の自分が責め立てる。
そんな事をしている内に彼女の目から涙が零れ落ちている。

泣かせるつもりではなかったのに。
彼女にはいつも笑っていてほしかっただけなのに。
それでも結果はこれだ。
それでも自分の中での衝動の枷がおりてしまう。

「惚れた女に泣かれたら男はほんま無力やなぁ。」

絶対に言わないつもりだった言葉を簡単に口にしてしまう。
そしてそっと抱きしめることしか今の自分にはできなかった。
それしか、彼女を今、笑顔にしてあげる方法が見つからなかった。
初めて触れる彼女は細くて折れてしまいそうで彼女から香る甘い香りに酔いそうになる。

「………私が、好きな人は真島さんなんです。」

そしてその言葉を聞いた瞬間、自分の中に巣くっていた黒いものがおちる。
彼女もまた自分の事を好きだったという事実。
じんわりと暖かいものが自分の胸の中に染み込んでいく。
そして抑えられていた気持ちは行動に変わる。
そう、もう何も遠慮することはないということに。

真っ赤な顏をした彼女を抱えて鼻歌をひとつ。
さぁ、これからどうしようか?
そう、答えはもう決まっている。











「やっぱり、帰ります!」

「デートの仕上げはここやろ。」

少し狼狽している彼女を見ながら笑う。
また、自分の見た事のない彼女の表情。
さて、これからどんな顏を見せてくれるのだろう?

「デートの〆は椿やで。」

そういって口付ける。
唇を離すと名残惜しそうにしている彼女の大人の顏。
これからも彼女には笑顔で自分の横にいてほしい。
そう思いながら再び彼女に深く口づけた。




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