01




朝の日課のシャワーを浴びて、肩からバスタオルをかけただけの自分の姿が鏡に映る。
水滴をぽたぽたと落とす腰まで伸びた髪も、少しは体温が上がっているはずの肌も雪のように白い。
右肩の赤い刺青や、深い青の瞳が肌の白さをより際立たせていた。

ガシガシと髪を拭き上げて、洗面所に置いていた衣服を身につけていく。
黒のタートルネック、裾口が絞られた黒のパンツに、自分の丈に合わせた黒の着流し、肘までの黒の手甲。
帯も黒にするつもりだったが、あまりにも色気がなさすぎると言われ、唯一帯だけは灰白色をしている。
忍の衣服に色気が必要なのかは果たして謎だが、上司の意向には従うことにした。
地毛よりも少し長い黒のウィッグを被り、チャクラで頭皮と接着する。
白を黒で覆い隠した、闇に溶け込む姿。
本来の自分の姿を知る人の方が少ない今では、今の姿が本当の姿なのではないかとも思う。






「おはようございます」
「おお、名前。おはよう。いつもすまんな」


袋に入ったひじきの煮付けを渡す。
中を覗き、深く刻まれた目尻の皺を更に深くするこの人は、三代目火影。
この木ノ葉隠れの里の長であり、私の師であり、上司だ。
プロフェッサーの異名を持つ彼の実力は、この里の誰もが知っている。
そんな尊敬すべき人の下で働けているのだから、心から誇るべきなのは自負している。しかし。


「いい加減小間使いに使う人選を間違えてませんか」
「お前の家が一番近いんだから、適材じゃ」


私の自宅の近くには、木の葉でもファンの多い惣菜屋がある。
そこのひじきの煮付けがお気に入りの三代目。
毎週同じ曜日に買ってから出勤せよと命じられたのはもう随分前のことだ。
毎回必ず同じものを買っていくから、最近では「いつものね」と注文を言う前に包んでくれる。


「そうですけど、完全に行き過ぎた善意を受けてます」


お店は共に恰幅のいい夫婦で営んでいて、とても人当たりのいい人達だ。
毎週毎週、低カロリーで栄養価が高いと名高いひじきだけを買っていくものだから、ちゃんと食べているのかと心配されるようになってしまった。
そして前日の余り物や余っていないものまでそこそこな量を分けてくれようとする。
そしてひじき以外の貰った物は、お前が食べろと三代目は受け取ってくれない。
なのでこれから仕事だからと断ったところ、ならば帰りに取りにおいでとまで言ってくれる善人ぶりだ。
好意を無下にするのもいかがなものかと思うので、ありがたくいただいているけれども。


「いいことじゃないか。どうせ一人ではロクなものを食べとらんじゃろ」
「それは否定しませんが...そもそも、おつかいは暗部に任せることではないと思います」


暗殺戦術特殊部隊、通称暗部。
木ノ葉隠れの里の長である、火影直轄の部隊。
暗殺や秘匿な任務を受け持つ暗部の素性は一切公表されておらず、構成員は常に面で顔を隠している。
そのため素顔で外を歩いても、その者が暗部であることは周りには分からない。
そして右肩の刺青は、私がそこに属していることを示している。


「そう膨れるな。里の者と繋がりを持つこともまた大切なことじゃ」


間違ったことは言っていないので、もう何も言えない。
そのまま店に入る訳にはいかないので、マントと面は外していく。
暗部だと悟られることはないと分かっていても、顔を晒すことはあまり好ましくはなかった。
これまでにもこうして何度か抗議をしてみたが、成功したことはない。
きっと勝手に買ってくることをやめても、三代目は何も言わないだろう。
だが、ひじきを渡した後の三代目の笑顔が見られなくなるのも嫌なので、自主的にやめることはしない。


「ああ、そういえば」
「ん?」
「今日は随分大がかりなイタズラでしたよ」


そう言い残して天井裏に移動すると同時に、火影室の扉が開かれた。


「火影様!!!」
「なんじゃ。またナルトの奴が何かしでかしでもしたか?」
「はい!ナルトの奴、歴代火影様たちの顔岩に落書きを!!」
「しかも今度はペンキです!!」


子どものイタズラに大騒ぎできるくらいには里内は平和なようだ。
ゆっくり寝たので気分もいい。
おつかいの日は、店が開くまで来なくていいと言われている。
この役不足な任務が、普段睡眠を忘れて任務に没頭しがちな自分への心遣いでもあることを知っている。
どんなに忙しくとも部下への配慮を忘れない上司は、やはり誇りに思う。




back / next

[menu]