87.戦いの終焉

戦い始めてから何時間たったんだ。
俺は強烈な吐き気と倦怠感を耐えながら飛び続ける。
完全に魔力ポーションの中毒症状が出ている。
傷だって血が止まっているだけで痛みは引かない。

「・・・アイス・・シール、ド・・・」

段々意識が朦朧としてきた。
クソトカゲは後何体残っているんだ。

「あ?」

思考力が低下しているせいで気付かなかった。
残っているワイバーンは両手で数える程度だ。
しかし、どうやらリックも限界のようで膝をついて蹲っている。
これ以上撃ち落とすのは厳しそうだ。
このまま待っていても、討伐は進みそうにない。
こうなったら。

「おおおおお!、アイスコフィン!」

俺は最後の力を振り絞って、残ったワイバーン達を氷漬けにする。
これが終わったら休める。その一心で。

氷に包まれたワイバーンが落下していくのを確認すると、俺は地面に向かって降下していく。

地面に衝突し割れた氷から顔を出したワイバーン達は、地上の騎士隊と冒険者達と戦闘している。
俺はそれを見ながら地面に倒れこんだ。

もう俺の仕事は終わりでいいだろう。

「ミノー殿!」

地面に寝て休んでいる俺にクラウスさんが慌てた様子で走り寄ってきた。

「大丈夫ですか!?お怪我は!」
「あ〜左腕と脇腹に少し」
「これは!?すぐに治療師を連れてまいります!」

クラウスさんが連れてきた治療師に傷を治してもらうと、ようやく止血の魔術を止めることが出来た。
やっと、気を抜くことが出来、ふうと息をつく。

「あ゛〜、しんどい・・・」

大の字になって全力で脱力していると、クラウスさんが近寄ってきた。

「ミノー殿」
「クラウスさん、どうかしましたか?」

俺が尋ねると、クラウスさんは突然俺に向かって跪いた。

「アーネストを救ってくださりありがとうございます。どれだけ感謝してもしきれません」
「俺は別に街を救いたかった訳じゃないんですよね。ただクラウスさんを死なせるのが惜しかっただけで」
「それでも、結果的にすべてを救ってくれた事に変わりありません」
「あまり真っ直ぐに感謝されると擽ったいなぁ」
「約束通り、俺にできることなら何でもします。奴隷だと思って扱き使ってください」
「ん?今何でもするって言った?」
「はい」

真面目に返された。

「じゃあ、クラウスさんの戦いの後処理が終わったらお願いしようかな」
「分かりました。明日までお待ちいただけますか?あと、私のことはクラウスとお呼びください」
「分かったよクラウス。じゃあギルドで待ち合わせしましょうか」
「では、明日の12時に冒険者ギルドでお待ちください」
「はい」


▽▽


スタンピードの過酷な戦いが終わり、私は後処理に当たった。
まず怪我人の治療を最優先とした。
避難していた住民の帰還するように誘導しそのための護衛の手配もする。
被害の少ない隊員を指揮し、平野に散らばった大量の魔石を拾い集めることも忘れない。
今回の戦いに参加した者たちへの報酬の財源としても大切なものだ。

その日のうちに領主とギルドへと報告を行い、そのあとに副隊長に諸々の業務の引継ぎを行った。
朝には家族に事情を説明し、職場で2週間の休暇を取る手続きを済ませる。
そして約束の時間の30分前には冒険者ギルドに着いてミノー殿を待っていた。

「クラウス」
「ミノー殿」

約束の時間前にはミノー殿が冒険者ギルドに入ってきた。
ミノー殿は私を見つけるを笑顔で手を振る。
私は最敬礼で答えた。

「本当にいいのか?」
「準備は済ませてきました。2週間、私をミノー殿の奴隷と思って使ってください」
「覚悟が出来ているならいい。家や職場にはなんて言ってきたんだ?」
「妻と子供には街を救ってくださった方にお仕えしてくるからと説明しています。職場にも同じ理由で休暇を申請しました」
「正直に話したんだな。じゃあ、俺の宿まで行こうか」
「はい」

ミノー殿に連れられてきた先は、中央通りに並ぶ大きな宿だった。
街一番の高級宿だ。
1泊だけでも金貨が何枚も必要だと聞いたことがある。
案内された部屋に入って更に驚く。
広い居間に、幾つもの扉が並んでいる。
部屋に風呂と手洗いが付いている宿など初めてだ。

「それでは、何をすればよろしいでしょうか」
「簡単に言うと、俺に抱かれてほしい」
「っ!それは・・・」
「嫌かな?」
「抵抗がないと言ったら嘘になります。しかし、何でもすると言ったのは本当です。如何様にでもしてください」
「大した覚悟だな」
「失礼ながら、ミノー殿は男色家でいらっしゃるのですか?」
「そうだけど」
「それならば、私のような武骨な男を抱かずとも、プロの男娼も用意できますが?」
「いや、相手には困ってない、クラウスだから抱きたいんだ」
「そうですか・・・」

私には女らしい要素などない。
男性に対し魅力など無いだろうと思うが、この様に求められるとは思わなかった。
なんだか変な気分だ。

「クラウス、風呂入って来いよ」
「はい」
「中の洗い方は分かるか?」
「いえ、やったことがありませんので」
「やってやるよ」
「それは・・・」
「じゃあやり方だけ教えてやるから」
「はい、お願いします」

私は脱衣所に入ると服を脱ぐ。
鏡に映る身体は筋肉に覆われている。
更に無数の傷跡が付いた醜い体だ。
ミノー殿もこの体を見れば気が変わるかもしれない。

魔道具についている水と火の魔石に魔力を注ぐと、温かいお湯が出てきた。
それを使って身を清める。
宿に備え付けの石を使うが、こんなに高級なものを使ったことがない。

次は尻の中を洗わなくては。
お湯を吐き出すシャワーを見ながら深呼吸する。
当然抵抗はある。
しかし、恩人であるミノー殿に報いるためににやらねばならない。


▽▽


ガチャリと音を立てて扉が開く。
風呂からクラウスが戻ってきた。
脱いだ服を手に持ち、腰にはタオルを巻いている。
服の上からでもある程度分かっていたが、均整の取れた体をしている。

「やっぱり奇麗な体だな」
「は?」
「バランスよく筋肉が付いている」
「いえ、こんな傷だらけの体・・・」
「男の勲章だろ?」
「そんな」

クラウスは困惑しているようだが、かなり好みの体だ。
戦う男の体って感じがする。

「俺の寝室はここだ、中で待っててくれ」
「はい」
「俺も風呂に入ってくる」

そう言い残して、風呂に向かう。
手早く体を洗って寝室に戻ると、クラウスはベッドに座って待っていた。

「待たせたな」
「いえ」

立ち上がろうとするクラウスを押し止め、その手を取る。
クラウスの手は、風呂から上がってそれほど経っていないというのに冷たかった。

「緊張しているか?」
「はい・・その、男性とこのようなことをするのは初めてですので」
「あまり固くなるな。そう強引にするつもりは無いし、時間はたっぷりある」

俺はクラウスをベッドに横たわる様に招くと、隣に並んで向かい合った。
そしてクラウスの背中に手を伸ばし抱きしめる。

「ほら、手を回せ」
「は、はい」

クラウスにも俺と抱き合うように手を回させると、背中に冷たい手の温度を感じた。
そしてまだ緊張で強張っている背中を撫で続ける。

「人の体温は落ち着くだろう。しばらくこうしていろ」
「ありがとうございます」
「眠るなよ?」
「善処します」

裸の男二人、そのままクラウスの緊張が解れるまで抱き合った。


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