1.死んだ (プロローグ)

俺は美能秀和。

ピチピチの男子高校生だ。

毎日学校に行って、帰宅部だから授業が終われば
友達と遊んだりバイトをしたりする毎日。

漫画やゲームが好きで、
最近はラノベやネット小説なんかもよく読む。


エロいことが大好きで、
女の子よりも男の人が好きなことを除けばごく普通の高校生だと思う。


男が好きといっても
別に女は嫌い、というわけではないし、
可愛い子を見れば「あ、あの子可愛い」となるような感性もある。
情が移れば愛しいと思うことだってある。


ただ男の体にしか欲情しないだけだ。
女の子の柔らかい体より男の筋肉質な体のほうが好きなんだ。

普段強そうで男らしいのに、女みたいに喘ぐのが
ギャップもあってたまらないんだ。


まあそんな姿は映像でしか見たことがないわけだが。
エロいことには興味津々だけど勇気が出なくて童貞処女のままだ。
リアルで行動を起こすのはバレたときのことを考えるとちょっとな・・・



と、横道にそれた。


そんな性癖以外は普通な俺だが、
さっき、大変珍しい体験をした。



なんと、異世界に召喚されたのだ。





▽▽



あれは数時間前。

いつものように学校に行くために駅に向かって歩いていると、
突然足元に光る魔法陣(暫定)が現れたために足を止めた。

なんで「(暫定)」かっていうと本物を見たことがないからな。
ただあれは魔法陣としか表現できないものだった。

幾何学模様と理解不能な文字(と思われるもの)で埋め尽くされた円形の陣だ、
「あっ、魔法陣だ」としか思わなかったな。


そんな魔法陣に気を取られていたから、
背後から聞こえる甲高いブレーキ音も
周囲が「危ない!」と叫んでいるのもすぐに反応できなかった。


音に気が付いて振り向いた時にはトラックが目の前に迫っていた。

次の瞬間には悲鳴を上げる間もなくトラックと壁に挟まれることになった。


光り続ける魔法陣の上で。



▽▽



今俺は真っ白な空間にいる。

そして目の前には全身が光っている人がいる。
確かにトラックにひかれたと思うのだが怪我一つない。


「私は神だ。初めまして美能秀和くん」


全身光っている人が名乗ってきた。


「え、神様ですか?」


まさかの神様だった。
ということはここは死後の世界か?
やっぱり俺は死んだのだろうか。


「そう、残念ながら君は死んでしまった。しかしここは死後の世界ではない」


神様が心を読んだらしく答えてくれた。


「心が読めるんですね、ではここはどこなのでしょうか?状況を説明していただきたいのですが」


「ここは管理者の領域とでも言おうかね。君に起こったことを説明しよう。
この世界に召喚されるところだったんだよ。
ここに来る直前に光る魔法陣が出ただろう?」


神様の説明に確かに心当たりはある。
魔法陣のようなものが俺の足元に出ていた。
そのせいで立ち止まって轢かれたわけだし。
ん?待てよ


「この世界?」


俺が疑問を口にすると


「そう、この世界は君が住んでいた世界とは違う世界だ。
君にとっては異世界といえばいいかな。」

なんてこった。
「異世界召喚」だ。小説でよく読んでいたやつだ。
自分の身に起こるとは夢にも思わなかった。

ちょっと感動したが、自分が死んだ事実を思い出して落ち込んだ。

死んだら何もできないじゃん。

「それが問題なんだよね。
召喚術が原因で君が死んだためにちょっと困ったことになったんだ。」

そういって神様は教えてくれた。





世界というのは俺がいた世界だけでなくいろんな世界があって、
世界が別の世界に干渉することは好ましくないらしい。

自分の管理する世界にちょっかいかけられたら嫌だから。
下手したら神様同士の争いが起きる。

でも俺のいた世界と目の前の神様の世界は、相性がいいのか時々お互いの世界が繋がってしまい、
「渡って」しまう人がいたらしい。

両方の神様が注意していても防げなかったようで、
世界の「渡り」についてのみ、お互いに大目に見ることにしたようだ。
そして約定を結んだ。

「原則互いの世界には不干渉であるが、
世界を渡ってしまう者がいた場合、その件の責任は不問とし
死後にその魂を元の世界に返還する」


そんなに干渉を嫌うなら、
召喚術なんて問題あるんじゃないかと思ったけど大丈夫らしい。

今回俺が見た召喚術は世界の「渡り」を起こしやすくする術だそうだ。
起こしやすくするといっても、大きな影響力があるわけじゃなく、
元々起こるはずの「渡り」が存在しないと成功しないらしい。

「どうせ近いうちに何処かで起きるんだから、今ここで起こしてもいいよね」ってことか。

確かに起きる回数が増えるわけじゃないならいいような気もする。
俺の世界の神様も許していたらしい。

世界間を移動した異世界人は総じて能力が大変高くなるのだが、変なところに「渡って」しまうと危険だ。すぐ死んでしまう可能でもある。
それならその力目当てでも、召喚された方が安全だから。


でも俺の召喚の時のみ大問題となった。

俺はこの世界に渡ったものの、もう死んでいる。
約定に従えばこのまま俺の魂を返還するところだろうが、
そうしたらどうなるか。

「渡り」はあったものの魂が行ってそのまま帰ってきただけ、無いも同然。
「渡り」についてのみ干渉を不問とするという約定は適用されないだろう。
俺が死んだという事実のみが残る。

しかし俺の場合、召喚術の魔法陣に気を取られたことが原因で死んでしまったのだ。

言い換えるなら魔法陣の出現という「この世界の干渉」により、
本来死ぬはずではなかった俺は死んでしまった。

これは俺の世界の神様も許容できないだろう。
原則不干渉を破ったことになる。

だからこの世界の神様は困っている。



「君にはこちらの世界で生まれ変わってもらいたい」


「俺はこの世界の干渉で死んだのではない。魂だけという変則的な形ではあるが、
あくまで「渡り」の一例であった。ということにしたいのですね?」

「そういうことだ。無論、君にも迷惑をかけた分優遇しよう。
口止めも兼ねるが、受けてもらえるかい」

神様のそれは問いかけではあるが、答えは決まっている。

「受けましょう。断ったところでメリットはないから。
俺は死んで、両世界の神様の対立を生むなんて嫌だしね。
それならもう一度生きられる方がいい」

「ありがとう。感謝する。
生まれ変わりについて希望があるなら言ってくれ。
できる限り叶えよう。
この世界に自然に存在しうる範囲でだけれど」


異世界召喚ものじゃなかったよ。
異世界転生者だった。
しかも神様によるチート能力も望めるんじゃないか、この分なら。
まずこの世界を知らねば。

「ちょっと考える時間がほしいですね。
この世界についても教えてください」

神様にこの世界のことを教えてもらった感想は
完全にファンタジー世界だった。

魔法やスキルありで、エルフや獣人なんかの人間以外の種族もいるらしい。

魔物なんかもいて、冒険者という職業もあるそうだ。


どうしようかな、希望が通るなら何がしたいか。

強力な戦闘能力をもらって俺TUEEEするか?

生産系能力をもらって技術革命を起こすか?

召喚やテイミングで仲間を増やすか?

ハーレムとかつくれないかな。

どうせなら全部いけないかな。

「神様」


「なんだい?」


「転生先なのですが、
何でもできるようにはできませんか?
最強で、何でも作れて、仲間も増やせる。
もちろん知能がある種族で俺の自我も引継ぎたいです」

「なんでもか。君もすごいこと言うね。うーん」

神様は考えるようなしぐさを見せる。

「希望に添える転生先があるよ。強い力を持ち、
範囲が限定的ではあるけど、かなり強力で自由度の高いことができる」

「まじですか!それでお願いします!」

自分で言っといてなんだけど、あるとは思わなかった。
そんなチートな転生先。

そこからさらに交渉を重ねる。
もらえるなら便利なスキルとかもほしい。

しかし、どうやらスキルは、修得制じゃなかった。
スキルを覚えて使えるようになるんじゃなく、
自分が使える技術がスキルとして表されるだけみたいだ。

異世界ものと言ったらやっぱり鑑定やアイテムボックスがほしい。
でもこういうスキルは自力修得は無理そうだ。
この世界のシステムなら鑑定なんてただの目利きだろうし。
神様にお願いしてみる。

交渉の結果、
鑑定に近い能力をもらえることになった。管理者の力の貸与という形で。

今回の特別な事情を鑑みてかなり無理をしてくれたらしい。
ちょっと申し訳ない。

でもこれで異世界転生を満喫できそうでわくわくする。

「これくらいでいいかな?」

「はい、希望を聞いてくださりありがとうございます」

「じゃあ転生させるよ」

神様がそう言うと淡い光に包まれる。

「いろいろ無理を言ってすいませんでした」

「確かに、君の転生先の種族に人間並みの知能と自我を与えることとか、
鑑定の能力とか、無理もしたがせめてもの罪滅ぼしだ。
次の生を楽しんでくれ。」




今なんか変なこと言わなかったか。

「えっ?なんですか知能と自我って」

待って、すごい不安になってきた。
俺普通なら自我もないような種族に転生するの?

「君の転生する種族は―ーーー」

神様の言葉の途中で俺を包む光が強くなり、
俺の意識は真っ白く溶けていった。



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