お急ぎモーニング




「っやばい!」

「おはようルリ、今日は早いなぁ…って…髪、ぐしゃぐしゃだぞ?」



ジョルジュ
(お急ぎモーニング)




寝坊した!と急いで服を着替えて扉が開くとすぐにリビングに飛び込む。既に起きていた「兄」ユリウスは、カチャカチャと何かを作業していたが一旦手を休めてルリに笑みを向けた。おはよう兄さんと言われた髪を押さえながら笑みを返すと、椅子に座れとポンとそこを叩き、ルリはそれに従い椅子に腰掛けた。


「ナァー」
「おはよ、ルル」


顎を擽れば目を閉じておとなしくしているルルにくすりと笑う。一度部屋に戻ったユリウスはまた部屋から出てくると細長の箱と櫛を持って近付いた。


「ルリ、復帰祝いだ」
「わ、いいの?」
「可愛い妹が元の勤務先に復帰するんだ、間に合うようにちゃんと買っておいた」

「ありがとう兄さん、大事にするね!」


箱からは赤いネクタイとタイピンが出てきて、兄さんが買ってくれた桃色のシャツに合った、そのタイをしめる。


「曲がってる」
「あはは、慣れてなくて」
「ほら、こっち向け」
「はーい」


こっち(この世界)にきてもう20年経った。私は以前から勤めていた列車内の販売員に復帰することになった。クランスピア社を受けることになったけれど…入社試験は厳しいから、一応在籍させておいてくれたらしく、入社試験に落ちた私は有り難く復帰させてもらうことになったのだ。


「今日はどの列車に?」
「えーと…アスコルドに行くセレモニーの列車だよ。お偉いさんが来るから、私は絶対に乗れって言われてて」


髪をとかしてくれているユリウスに言うと、ユリウスはぴたりと手を止めて「セレモニーの?」といつもよりも低い声をだす。どうか、したのだろうか。


「どうかした?」
「…いや、妹が信頼されてるなんて兄としては鼻高々だよ」

「ふふ、兄さんも有名人じゃない。私も鼻が高いよ」


優しい笑顔を向けるユリウスに、ルリは、この人とは本当に兄弟なんだなぁ、と思ってしまう。20年も一緒だったし、当たり前なんだけど。私はユリウスやルドガーが好きだった兄弟として、家族として。20年という時間は、長いようで、短いものだった。2人との思い出を、昨日のことのように思い出せるくらいだ。

二人は話しやすいし、優しいし、前の世界では兄に憧れていたから、正直嬉しかった。ただ、兄さんのストーカー達はウザいんだけども。


「あっ、やばい遅刻しちゃう…!」
「おっと、急いで行ってこい」

「うん、ルドガーにも初出勤頑張れって言っといて!」


あぁ、わかったよ。とユリウスは笑って手を振る。が、思い出したかのように白いコートのポケットを探ると黒い布袋をルリに投げた。


「、なに?」
「これは、お前が本当に困ったときに開けなさい」

「?わかった
じゃっ、いってきまーす!」

「いってらっしゃい」


ぱし、と受け取るとそれをジャケットのポケットにしまい走り出す。久々の出勤で遅刻なんて笑えない…!(私にとったら初出勤だけど)





















「…ルリ、お前は…」

「兄さん?」
「、ルドガーか、おはよう」
「おはよ、ルリは?」
「今行ったよ。初出勤頑張れ、とさ」
「…一緒に行こうと思ってたんだけどな」

「ルドガー、いい加減ルリ離れしたほうがいいんじゃないか?」
「その言葉、兄さんにもそっくりそのまま返すよ」


こんな会話をしていたなんて、ルリは知らない。


(03 お急ぎモーニング)


20121108

詰め込み過ぎました。
続いてジュードに出会うシーンですね(ルドガーが)

ヒロインはまだジュードには会いません、まだ。