(16)二人のワケ





その後、5人で昼食をとった。
朝食を抜いてきた3人は、まるで獣のように弁当にかぶりついた。
泣いてさらに腹が減ったのだろう。

がつがつと食い、イガが喉を詰まらせると、ナルトが笑い声を上げた。

そのナルトの頭をペシッと軽く小突き、ヒナタが水筒からお茶を汲んでイガに差し出す。

ヒナタに怯えて、イガがコップを掴むのに戸惑っていると、アズキが代わりにそれを受け取り、イガに差し出す。

躊躇いもなく、受け取りそのまま口へ運び、喉に留まっている食べ物をなんとか流し込む。

咳き込んでいるイガの背中を、ヤイバが軽く…いや…なにやら仕返しのように勢いよく叩いた。

異物が無くなったのはいいが、余程ヤイバの力が強かったのだろう。

背中を押さえ、イガが怒ってヤイバに掴みかかった。

ヤイバも負けじとイガを押さえようとして、取っ組み合いになった。

その二人の頭にそれぞれたんこぶがお見舞いされ、恨めしそうにナルトを見上げる。
ナルトのこめかみには青筋が立っていたが、しかし本気で怒っている様子もない。

その様子を、ヒナタとアズキがクスクスと笑った。

一刻前のギスギスした雰囲気は、そこには感じられない光景だった。



食事の後、ナルトとヒナタが改めて、何故第七班だけが担当教官が2人いるのか、その理由を3人に聞かせた。

ナルトは、現在、五代目火影綱手の補佐も務めている。
補佐といっても、事務的な処理は主にヒナタや他の仲間達に助けられているのが現状で、彼は綱手から火影の心得や外交を学んでいた。

そう、火影になる為の引継ぎが行われているのだ。

まだ新米の忍には詳しいことは話せないので、ヒナタはナルトが火影の仕事のサポートも行っている、とだけ説明した。
それは多忙で、生徒の指導と両立することが不可能になる時期もある、と。

そこで綱手が出したアイデアが、異例の一班に2人教官を就けるということだった。
ナルトが指導できない日は、ヒナタが代わりに3人の面倒をみるという寸法だった。

教育を担当することになり、ナルトが担当する火影の雑務の量は減らされたが、それでも忙しいことには変わりがない。

「そんなに忙しいなら、無理して指導教官にならなくてもよかったんじゃ…?」

イガの言うことは最もであった。
しかし、ナルトは以前から生徒を持ちたいと強く願っていた。

父ミナトと同じ過程を辿りたいとの思いがあった。
火影になってから弟子を持つことは、今のナルトでは難しい。
どうしても、里の為に動かざるを得なくなり、教育の為に時間を割くことが難しいのだ。

今回の指導教官の任は、そう考えた綱手のナルトへの配慮だった。
それは同時に、火影の名を引き継ぐカウントダウンということも表していた。

(まあ、早く引退したいって思っているのが一番の理由かもしれねぇけど)

心の中で溜息を吐いた。
表情だけでは分からない仕草だが、親しいヒナタにはナルトの考えていることが些細な動きで理解できた。



「今日の演習はここまでってばよ」

そう解散を言い渡し、皆で里へ帰った。
あうんの門を潜り、そこで別れた。

三人の影が人混みの中に溶け込んでいくのを確認して、ナルトとヒナタは其のまま火影の執務室へ赴いた。

まだ太陽は高かった。

下忍候補生の合否の結果を報告してからも、任務があるだろうと思うと、とても足取りが重いと感じるナルトだった。
デジャヴを感じたヒナタは、過去の記憶を辿ると、指導教官に任命されたときと似ていることを思い出した。
確かあのとき、承諾してすぐにナルトは綱手の書類整理を任されたのだっけ。



ヒナタは、昨日まで別任務に就いていて、オリエンテーションに間に合わなかった。
初日に生徒に会えなかったことを残念に思いながら、ナルトに抱きつかれながら、これから受け持つ生徒の様子を聞いた。
彼から聞いた3人の様子に不安はあったものの、まだ見ぬ教え子に会えることが楽しみだった。

翌朝。
ナルトと試験の流れの最終確認をして、家を出た。
ヒナタは、始めから演習場の物陰に隠れて、ナルトたちの様子を窺っていた。
点でバラバラなチームワークに、目眩がしたが、自分のときも最初はそうだったと思い出す。

(キバくんが一人で突っ走って行っていたよね)

クスッと微笑み、3人がナルトによって投げ飛ばされたところを微笑ましく眺めた。

(さて、そろそろ、私の出番かな)

一番仲間を裏切らないであろう少女のことは、ナルトから聞いていた。
彼女に接近して、作戦通り、鈴をちらつかせた。
一瞬戸惑いを見せたかと思うと、彼女の目はすぐに力を取り戻していた。

(この瞳の強さ、まるでナルトくんのよう)

何度か掛け合ってみたが、アズキは折れそうにない。

彼女の固い意思を確認して、ヒナタは誘惑作戦から物理戦へと移行した。

「さぁ!10数える間に逃げろっ!捕まったら落第だってばよ」

彼を演じ、アズキを脅かすと、彼女は一目散に逃げ出した。

まず彼女はイガの元へ向かったようだ。
しかし、彼女の見たイガは実はナルトの変化の術で化けた分身だ。
行ったところで、ナルトに捕まる。

別の(本体の)ナルトに驚き、アズキは急ブレーキをかけて、急遽方向を変えて逃げた。

ヤイバとイガの位置は把握している。
彼らと合流されないように、上手く誘導して、追いかけ続けた。

そんな彼女の意外な能力を、ヒナタは発見した。
空腹でふらふらなことは除くと、彼女の足取りはしっかりしていると感じた。
息もそんなに上がっている様子もなかった。

(アズキ、もしかしたら化けるかもな)

昨日ナルトが呟いた言葉に、今、ヒナタも頷いた。
彼女はやはりナルトと似ている。
これだけ追いかけ回しても、走る速度はそれほど変わらない。
スタミナがなければすぐにバテてしまうだろう。

スタミナがあるということは、チャクラ量も相当のはずだ。

(あの子は、その事に気がついていない。どう教えて、能力を伸ばしいこう?)

仲間割れ作戦は、ある意味成功と言えた。

しかし、やはり後味の悪いもので、疑われたアズキが気の毒だった。

だが、ヒナタが一番気の毒だと感じたのはイガだった。

彼が孤独だと感じてしまったのだ。
そして、何かに焦っているということも。
それが自分より下に見ていたアズキに出し抜かれる気持ちからなのか、それとも異なる思いからなのか分からないが、彼が冷静でないのは確かである。

思いきって問い掛けると、泣き出すイガ。

涙声で切れ切れに聞こえた「アニキ」という単語。
ヒナタはそのとき、嗚呼彼も悩みを抱えているのだと悟った。

ナルトの計画を台無しにしてしまったことは、申し訳なかった。
しかし、これから彼らが力を身に付ける上で大切なメンタルケアを施すためには、最初の斬り込みが肝心だと確信したのだ。

そうナルトに胸のうちを打ち明けると、くしゃくしゃに頭を撫でられた。

「やっぱ、ヒナタには敵わねぇてばよ」

ナルトはそう呟いて、ヒナタを後ろからぎゅっと腕の中に包み込んだ。
優しくて、暖かくて、愛しく思える彼の腕。
お茶を淹れていたことも忘れ、ヒナタはそっとナルトに体を預けた。
急須を台所へ置き、そっと彼の腕に触れた。

しかし、その瞬間違和感を覚え、慌ててナルトから離れようとするが、完全に力で押さえつけられてしまい、身動きが取れなくなってしまった。

「ちょっ…まっ…ナルトくんっ!」

「いいじゃん。家の中だし。……それに、これから二人きりでイチャイチャするって決めたよなぁ、さっき」

「…ひゃっ」

耳元で低い甘い声で囁かれヒナタは、顔を真っ赤にして体から力が抜けていくのを感じながら、「嗚呼、軽く了承するんじゃなかった」と後悔した。



報告後、綱手から本日は他の任務はないと通達され、ナルトとヒナタは数日ぶりに2人きりの時間を楽しむことにした。

(へへっ、ばあちゃん、粋なことしてくれるじゃねぇかってばよ)

ヒナタは数日任務で家を空けており、その短い間だったとしてもナルトにとっては長い時間のように思えて、ヒナタが恋しかった。

ちなみに、数日会えない日は度々ある。
いつものことなのに、それでもナルトは慣れなかった。

だから、こうして再び一緒に過ごせる時間があれば、ナルトはイチャイチャしようとする。


家に帰って、ヒナタから語られる、アズキやイガ達のこと、計画を崩してしまったことへの謝罪。

そして、これから、どう彼らをサポートしていこうかとの考え。

それを聞いて、ナルトはふと自分はただ師の真似をしていただけだったのではないかと思った。
自分がしたから、教え子にも同じことをする。
それは間違いではないのだが、もっと自分らしい教え方があったのではないかと思った。

(ヒナタには敵わねぇな)

甘えたい気持ちで頭がいっぱいだったが、自分はもう大人なのだ、先生なのだ。
甘えてばかりはいられない。
気を引き締めるように、ヒナタを抱きしめた。

彼女は教え子たちのことを心配していた。
自分は、まだまだ半人前だと、ナルトは感じた。

そっと身体にヒナタの体重がのし掛かり、柔らかい手がナルトの腕をそっと撫でる。

「……」

ヒナタが慌てて離れようとした。
しかし、逃がすものか。
両腕で彼女の腕を拘束して、動けなくなるようにした。
耳に軽く息を吹きかけると、彼女から甘い声が漏れる。

「ちょっ…まっ…ナルトくんっ!」



そして、今に至る。
力の抜けたヒナタをそのまま床に押し倒して、ナルトはその上へ覆いかぶさった。

(前言撤回。やっぱり我慢できねぇ…!)

最初は優しく触れるだけ。
次第に貪るように彼女の唇に食らいつき、存分に味わった。

口の隙間から漏れる水の音と、ヒナタの甘い声。
それだけで、気持ちが高ぶってくる。しかし、まだ足りない。

「ナ…ル……んっ…や、め」

「やだ」

本当はちょっと教え子に嫉妬していた。
今まで、自分にだけ想いを向けていたというのに、その機会が少なくなる。
寂しいと思いつつも、自分以外にヒナタの優しさが向けられることに腹が立った。

―――大人気ないと感じつつも、止められないこの想い。

「私…はっ…ナルトくんだけの……だよ?」

口にしなくても、伝わってしまう感情。
彼女は、本当に人の感情を敏感に感じとることができる。

ゆっくり体を起こし、ヒナタを見下ろした。
そっと右手で彼女の汗ばんだ頬を撫でながら、ナルトは微笑みながら言った。

「やっぱり、ヒナタには敵わねぇ」

その時、玄関から呼び出し音が鳴った。





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