靴箱の中のプレゼント


【後半】


サクラでなければ、誰がプレゼントを贈ってくれるのだろう。

ヒナタは、物語と同じように手紙を送ることにした。
カードには「いつもありがとう」と記した。
物語は「会いたい」と書いたから、交流が途絶えた。
自分はお礼を述べるだけだから、大丈夫だろうと思っていた。
放課後、自分の靴箱にそっとカードを入れた。

次の日、いつもより早く登校した。
カードは無くなっていた。
きっとプレゼントの贈り主が持って行ったのだろう。

(どんな反応が返ってくるのだろう…!)

小説のストーリーをなぞるかのような出来事に、ヒナタはドキドキが止まらなかった。

その日、下校するとき、ローファーの中にクシャクシャに丸められたルーズリーフが入っていることに気が付いた。

(返って来た!)

肩にかけていたカバンを無造作に降ろし、ヒナタは慌てて紙を広げた。

向日葵の花弁が数枚現れた。
紙には、走り書きで「喜んでくれてうれしい」と記されていた。

その下に小さく「図書室の“あの本”の棚の所で待っている」とも書かれていた。

バッと昇降口の時計を見上げた。
時刻は、午後6時、数分前。図書室は、午後6時に閉まる。

(急がなくちゃ!)

カバンを持ち、ヒナタは階段を急いで駆け上がった。



途切れていた贈り物が、再開した。
久しぶりのプレゼントには、いつもとは違う便箋も一緒に添えられていた。
「オレも会いたい」
主人公は、喜んだ。拒絶されたのではなかったのだ。
彼女は指定された場所へ、走った。

そこには、一人の少年が待っていた。
彼を見て、主人公は愕然とした。
彼女が長年想い続けてきた少年、その本人が、目の前に立っていたのだ。
彼は言った。

―――ずっと騙し続けてゴメン。

彼も彼女のことをずっと想い続けていたのだ。
しかし、告白の勇気がなく、こっそりプレゼントをすることにしたのだという。

―――だったら、なんで私の告白を断ったの?

―――だって、告白を受け入れたら、秘密のプレゼントが終わってしまうから。

2人だけの秘め事。
その楽しい時間を終わらせることが、惜しかったのだ。

―――じゃあ、なんで贈り物を突然やめちゃったの?

―――あれは、暫く入院していたからできなかったんだ…。

思い返せば、彼はここしばらく学校に来ていなかった。
彼のことをずっと見続けていたのに、いつしか気にも留めていなかったことに、主人公は驚いた。
そして戸惑った。ずっと好きだった少年と姿を知らぬ贈り主が同一人物であった事実。
彼女は、言葉を発することができず、ただ立ち尽くすだけだった。




「あら、日向さん?どうしたの?」

カウンターで資料を整理していた司書の先生が図書室に駆け込んで来たヒナタに驚いて、声を掛けた。
全速力で階段を駆け上がり、廊下を走って来たので、まっすぐな髪の毛が汗でボサボサになっていた。

「もうすぐ閉めるけれど…」

「す、すぐ済みますので…!」

具体的な用件を告げず、ヒナタは“あの本”の棚へ急いだ。
文芸書の棚は、カウンターから見えない場所にあった。
窓の反対側でもあるので、照明があっても薄暗い場所だった。
もともと図書館は、それほど煌々と電灯は点いていなかった。
夕方ということもあり、その場所はさらに暗くなり、不気味であった。

近づくにつれ、ヒナタの歩みが遅くなった。
心臓がはちきれんばかり、早く鼓動する。

一番奥の棚。
この棚を曲がれば、“あの本”がある場所だ。
もうすぐ、贈り主本人に会うことができる。
一呼吸置いて、ヒナタは意をけっして、奥へ、奥へと進んで行った。

しかし、そこには誰もいなかった。

(現実は物語の通りにいかないよね)

それとも、弄ばれていただけなのか。
急に襲ってきた悲しみに、ヒナタは酷く落ち込んだ。
棚に近寄って、“あの本”を探すと、あるはずの場所にそれがないことに気が付いた。

(どこに…?)

一冊だけ抜けているその隙間には、確かに“あの本”が存在していた。
本までもが失われてしまい、ヒナタはそっと名残惜しそうに棚の板を指でそっとなぞった。

コツ…コツ…

背後から誰かが近づいてくる音がした。
壁には、照明で照らされた影が映った。
ヒナタは振り向こうとしたが、後ろから抱き締められて身動きが取れなくなった。
声を上げそうになったが、口を覆われてしまった。

(…誰!?)

カウンターから司書の先生の声がする。
ヒナタを呼んでいるようだった。
しかし、ヒナタは返事することができない。

必死に抱きしめる人物から逃げようとするが、相手の方が上手だった。
体をくねらせ、唸り声を上げて、助けを求めた。

しかし、その微かな物音は先生の耳に届かなかった。
返ってこない返事に、先生はヒナタが帰ったと思い込み、片づけを始めた。

(先生…!まだ、私、居ます!)

図書館の電気が消され、鍵が閉まる音がした。
暗い部屋の中、窓のカーテンの隙間から射す夕陽の光だけが、唯一の明かりだった。

「怖がらせてすまねぇ。…二人きりで話がしたかったんだ」

この声は最近も聞いたことがある。
いや、毎日同じ教室で聞いている。
ヒナタを拘束していた腕の力が緩み、そっと離れて行った。

くるりと振り返ると、ナルトが立っていた。
暗がりで表情をはっきりと確認することはできないが、不思議と恐怖心は感じなかった。
誰と分からない人物に拘束されていた時に感じた、緊張感と恐怖の感情が、一瞬にして消え去った。

「…あなただったの?」

聞きたいことはたくさんあったが、一番に出て来た言葉はこれだった。
クラスメイトのナルトが、贈り主だった。

彼のことはよく知らない。
彼も、自分のことをよく知らないはずだ。

突然の彼の登場に、ヒナタは戸惑った。

「うん」

ヒナタの問いに、ナルトは短く答えた。
頬を人差し指でポリポリ掻いた。

「その…突然…悪かったってばよ…。知らない奴からのプレゼントとか呼び出しとか、あと抱きしめちまったこととか」

ヒナタは首を横に振った。

「ううん。確かに、抱きしめられたときは怖かったけれど、プレゼントは嬉しかったよ。……聞いてもいい?どうして、私にプレゼントを?」

お互い横に並んで、床に座った。
ナルトがポケットから携帯を取り出して、備え付けのライトを点け、床に置いた。
小さな光だったが、とても明るく感じた。

先程より、表情をよく窺えた。
ナルトの顔を覗くと、ほんのり頬を赤く染めていた。

「ひ、一目惚れだったんだ、ヒナタのこと」

前置きをせず、ナルトは話を切り出した。

「でも、なかなか話しかける機会が無くて、そんしたら、サクラちゃんと仲がいいって分かって…。あー!もー!そうじゃなくて…!」

頭を抱え、首振り人形のように、首をぶんぶんと振った。

「一年の補習の時、図書館でさ、お前を見かけたんだ。楽しそうに本を読んでいて、そん時の顔がすっごく可愛くってさ…。同じ本を読んだら、お近づきになれるかな〜って思って、読書は苦手だけど、頑張ってこの本を読んだんだぜ!」

そう言って、懐から“あの本”を取り出した。

目線がキョロキョロ、口はパクパク。
コロコロと変わる表情に、ヒナタは吹き出してしまった。

「な、なんで笑うんだってばよ!」

「だって、ナルトくんの表情が面白くて…」

フグのように頬を膨らませ、ナルトは両手でヒナタの頬を挟んだ。
ぷくっと唇が突き出す形になり、今度はナルトが笑った。

「はははっ!ヒナタ、フグみてぇ!」

「ひょっと…!にゃるとくんっ!(ちょっと、ナルトくん!)」

お互い笑い合って、そしてまた沈黙が流れた。

「……続き、聞いてもいい?どうして、あの物語と同じことをしたの?」

ヒナタは、恐る恐る尋ねた。

「なんかさ、話の中のプレゼントの贈り主に、共感しちまって。告白に勇気が持てないところとかさ。ヒナタがあの本が好きだって、サクラちゃんから聞いていたから、物語と同じことをすれば、気づいてもらえると思ったんだってばよ」

そう言って、ナルトはヒナタを優しく抱きしめた。

「ヒナタのことが好きだ」

トクン。
ヒナタの心臓が鼓動した。

クラスではムードメーカーな彼。
その明るさから、何事も直球だと思っていた。
そんな彼が見せるシャイなところに、胸が高鳴るのを感じずにはいられなかった。

「私…」

ドキドキが止まらなかった。

「とても楽しかった。大好きな物語が、現実に起こることが、嬉しくて仕方がなかった。ラストシーンみたいな展開になることも、密かに期待していたり……」

ナルトの腕の力が強くなった。
その力加減が、心地よく感じた。

「友達からでも、いい?」

「やだ。彼氏にしてくれ」

「でも、物語は“もう一度友達から付き合おう”って……」

「物語は物語、現実は現実。この先は、オレ達が話を作っていくんだよ」

ヒナタは目を丸くした。

―――オレ達が話を作っていくんだよ。

その言葉が胸に響いた。

「で、でも、突然のことで、すぐに返事が…」

「ん?ラストシーンみたいな展開になることを期待していたって言ったよな?」

小さな光で照らされたナルトの顔が、にやりと笑った。
確かにそう言ったが、と思ったところで、ヒナタはハッとした。
ラスト、主人公とその少年は恋人同士になるのだ。

「ああっ、えっと、そのぉ…」

オロオロするヒナタに、ナルトはクスッと笑った。

「まぁ、話の通り“友達から”でもいいけど……」

―――最終的には恋人同士、だよな?

耳元でそう囁かれ、ヒナタは顔を真っ赤にして、もうどうにでもなれと顔をナルトの胸へ埋めた。


end






キリ番12345番をゲットされた るぅ様のリクエストで
「ナルヒナで、友達以上恋人未満の学パロ」を書かせていただきました!

書いた後に、「これ、友達以上恋人未満だろうか」と思ったのですが…これでよかったのでしょうか(^^;)
物語の話と現実が錯綜しているところは、有川浩著『ストーリーセラー』を参考にさせていただきました(^^)

ちなみに、るぅ様のサイト『free style』では、この後の続きを読むことができます!
さぁ、皆様、るぅ様のサイトへGO!!!!です♪ →リンクページ

るぅ様、改めてキリ番ゲットおめでとうございます!
これからも、どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




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