靴箱の中のプレゼント


【前半】

それは、2年に学年が上がったくらいからだっただろうか。
自分の靴箱の中に、小さな青い花、オオイヌノフグリを見つけたときから、不思議に思っていた。
始めは、偶然にも靴に引っかかっていたのだろうと思っていた。

仲の良かった友人達とクラスが離れてしまい、落ち込んでいた時に見つけたその花は、ヒナタに元気を与えていた。
オオイヌノフグリは、春になると草原一面に咲き誇る小さな花。
それは付け根がもろくて、摘み取ろうとするとポロリと零れ落ちてしまう。
それでも、可憐に咲くその花は、見るだけで春が来たと思わせてくれて、心まで暖かくなる。

友人と離れ離れになった寂しさを紛らわしてくれるように、オオイヌノフグリはそっとヒナタの手の中で明るく踊った。

それから、不定期ではあるけれど、ヒナタの靴箱の中に可愛らしい草花がこっそり入れられるようになった。

それは、決まってヒナタが落ち込んでいるときで、タイミングが良かった。
誰かが自分の様子を覗き見ているのだろうか。
普通は、誰だろうと怪しむのだろうけれど、ヒナタの心は踊っていた。

(まるであのお話のようだなぁ)

この出来事が、昔読んだ恋愛小説のストーリーと似ているのだ。



長年一人の少年に片思いをしている主人公の元に、ある日、差出人不明のプレゼントが届いた。
最初は小さな花が一輪だけだった。
しかし、それは時を追うごとに、少しずつ増えていった。
それは、彼女が落ち込んでいるときに、「元気を出して」と小さなメモが添えられて、彼女の靴箱に入れられていた。
始めは誰だか分からず怪しんだが、徐々に主人公はそのプレゼントを楽しみに待つようになっていた。
ずっと好きな少年にアタックしても、気持ちに応えてもらえず、落ち込む彼女。
彼のことが好きな気持ちは変わらない。
しかし、いつしかプレゼントを届けてくれる相手のことが気になり始めていた。



(私には主人公の子みたいな、長年片思いの相手はいないけれど…)

懐かしくなって、その小説を図書館で、また読み始めた。
読んで自分の体験と照らし合わして、やはり似ていると思わずにはいられなかった。

(まるで、主人公になったみたい)

嬉しくて、クスリと笑った。

「なぁに、笑っているのかな〜?ヒナタ」

「あ、サクラさん」

彼女も本を借りに来ていたのだろう、手に植物の本を持っていた。

「クラスが離れちゃうと、なかなか会えないわね。でも、元気そうでよかった」

「ふふ、ありがとう」

ヒナタの横の椅子に腰を下ろし、サクラは書物を広げた。
その本には、世界中の植物が掲載されていた。
植物の名前の彼女、しかし、特別好きだと聞いたことがなかった。

「サクラさんって、植物が好きだったっけ?」

「…え!?あ、ううん、ちょっと最近、興味が出てきて…それで、調べているの」

なぜか歯切れ悪く答えるサクラ。
その様子を不思議に思い、どうしたのかと尋ねる前に、サクラは用事を思い出したと言って図書室から出て行った。

(もしかして、あの花は…)

「なぁ、ちょっと」

突然声を掛けられ、小さく悲鳴を上げ、飛び跳ねた。
声を掛けた相手も驚いたようで、一歩下がった。

「び、びっくりたってばよ」

「ご、ごめなさい…。あれ?ナルトくん?」

同じクラスだが、あまり話したことのない少年だった。
確か、サクラとは幼馴染だったはずだ。

「これ、落ちてたぞ」

ほんのり頬を赤く染めて、ナルトはすっとヒナタの貸出カードを差し出した。

「え!あ、ありがとう…落としていたって気が付かなかった…」

「どういたしまして。…じゃ」

片手を上げ、ナルトは早足で図書室を出て行った。

(ナルトくんに話しかけられるの、初めてかも…)

トクン、と胸が高鳴ったことに、ヒナタは気が付かなかった。



長年思いを寄せている少年よりも、謎の人物からのプレゼントを楽しみにしていた主人公。しかし、ある日その贈り物がピタリと止まってしまった。
何故だろう。
靴箱の蓋を開けるたび、今日こそはと思うが、やはり何もなかった。
あの手紙が原因だったのだろか。
彼女は、一度「あなたに会いたいです」と手紙を送った。
送ったといっても、送り主は分からないので、自分の靴箱に入れるだけだったが。
手紙は無くなっていた。
その人物が持って行ったのだろう。
主人公は嬉しくてたまらなかった。
しかし、それからだった。贈り物が途絶えたのは―――。



図書館での出来事から、ヒナタは草花の贈り主はサクラなのではないかと思い始めていた。
それを確かめるべく、ヒナタは思い切って、サクラにプレゼントのことを直接聞いてみた。

しかし、サクラの反応は意外なもので、まったく動揺を示さなかった。

「なに?贈り物って?」

話しているうちに、サクラは嘘を吐いていないということが分かった。
彼女が図書館で植物を調べ始めた理由は、想いを寄せている相手が園芸を好きだと知ったからだという。

「共通の話題があれば、お近づきになれるかな〜って思ったの」

頬をピンク色に染めて、サクラははにかんだ。

彼女ではなかった。
そのことを残念に思うと同時に、彼女ではなくてよかったと安堵した。

―――物語は まだ ここで 終わらない…と。






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