(6)班分け



下忍に任命される日がやってきた。
皆、いつも以上に落ち着きがなかった。

「英雄うずまきナルトの生徒は、俺が一番ふさわしいだろうな!なんたって、俺、天才だから」

イガが自信満々に言った。
窓枠に腰を掛け、いつものように取り巻き達に囲まれている。

「だよねぇ!秀才のイガくんには、さらに優秀な班員が必要よね。例えば、あたしはどう?」

トリが媚びるように尋ねた。

「そうだなぁ、トリの罠は追跡任務で役立ちそうだな。気に食わないけど、ネイロの耳もあれば探索系の仕事もできるし…」

「あたしは絶対嫌だからね!」

席が離れているのにも関わらず、ネイロの耳に会話が飛び込んできたようだ。
彼女は耳がいいのだ。
チャクラを耳に集中させ、蝙蝠の超音波や、犬笛も聞き分けることができるのだ。

「ちっ…(地獄耳)。…そうだ!オオゼキ!お前と組むのも面白そうだな!」

ぼーと座っているオオゼキに、イガは偉そうに声を掛けた。
のんびり彼の方へ振り向き、オオゼキは思案して、首を横に振った。

「別に、オイラは、誰と組んでもいいよー。でもねー、イガとは合わないんじゃないかなー」

話し方はゆっくりで、穏やかだが、明らかに拒絶の意だった。
思わぬ言葉に、イガは驚いた。
そういえば、こいつは言うときは言う奴だった。

「お前くらい動けるやつがいたら、助かるのに」

「ごめんよー」

オオゼキは、大きくがっしりした体格で、話し方や温厚な人柄から、動きものんびりしていると思われがちだ。
しかし、走る速さは同期の中ではトップクラスで、強力な力を秘めていた。
一度、彼が本気を出した時、イガでさえ体術で敵わなかったことがあった。

「おーい、マキ、お前はどうよ」

今度は、マキに話しかけた。

「嫌。勘だけど、あんたといると、あの人が先生になりそうで、嫌だ」

(ヒナタ様だったらいいのだけれど…)

マキの言っている“あの人”とは、ナルトのことだ。
しかし、彼女の同期はそのことを知らないので、イガは首を傾げた。



イガが大声で話しているのを遠くから聞いていたアズキの傍で、ある少年が背伸びした。

「あーやだやだ、あんな俺様気取りのやつ」

一見女の子と見間違えるほど愛らしい顔つきの少年が、ジト目でイガを見た。
彼は、早乙女メカタという。
先の組手で、マキにコテンパンに叩きのめされた少年だ。

「マキちゃん、断って正解だよ〜」

「あんたは、単にもてるイガに嫉妬しているだけでしょ、メカタ。それと、私を“ちゃん”付けで呼ぶな」

ニコニコと笑顔を向けてくるメカタに、マキは冷めた目線で返した。

「ん、もうっ!可愛いからいいじゃないか♪ねぇ、ネイロちゃん、僕と同じ班になるといいね。同期一美人の君を守る為なら、僕は命を懸けるよ♪」

「他の女子にも同じことを言っているくせに…信用できないわ」

「君にしか言っていないけど、美人って」

首を振って、ネイロはビシッとメカタを指差した。
怒っているようだが、心なしか、悔しさがにじみ出ている。

「お得意の変装をして自分に酔っている人に言われたくないわ!!」

アズキはふと思い出した。
術を使わず、服やかつらで変装する授業があったときだ。
ネイロは同期一美人と周囲から言われていたが、そのとき女装したメカタの方が数倍綺麗だったのだ。
その後、「男に負けるなんて…」とショックを受け、数日寝込んでしまった。

「まぁ、美人は私かもしれないけれど。同期で一番可愛いのは、やっぱりアズキよねぇ」

突然話を振られ、アズキはビクッと驚いた。
自分が可愛いと思ったことはなかった。

メカタは「えー!?」と顔をしかめた。
彼は、可愛いものと美しいものに目がない。
女性には手を上げない、愛でる、真摯に尽くす、これが彼のモットーだった。
しかし、アズキには無関心だった。

「ねぇ、ヤイバ、あんたもそう思っているんじゃないの?」

額当ての件をアズキから聞かされていた(無理やり聞き出していた)ネイロは、興味津々の様子だ。
アズキは妙にドキドキして、恐る恐るヤイバを見た。
目が合った。
逸らされると思ったが、鋭い視線で睨まれてしまった。

慌てて、顔を背けた。
怒られた、ような気がした。
アズキは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
彼はたまたま通りすがりに、助けてくれただけだ。
特に、アズキに気があるという訳ではないのだろう。
それなのに、たった一回の接触でからかわれるのを心外だと思っているのかもしれない。



ガララッ

「おーい、席に座れ」

イルカがファイルを持って教室へ入ってきた。
いつもは、なかなか座ろうとしない生徒達だが、このときばかりは素直に言うことを聞いた。
いいよ、班分けの発表だ。

(一緒の班になるといいわね、アズキ)

ウインクをするネイロに、アズキはこくんと頷いた。

イルカが、ファイルの表紙を開いた。
パラパラとページをめくり、何かを確認しているようだ。
遠くでよく分からないが、一覧表が印字されているらしい。
文字は読めなかった。

皆、静かにイルカが話し出すのを待った。
珍しく、教室は静まり返っていた。
空気が緊張で震えていた。

「おまえら、授業中もこんな風に静かに聴いていてくれたら、嬉しかったな」

イルカは苦笑して、名前を読み上げ始めた。
まず班名、そして3人の名前が読み上げられる順番だ。

歓声が上がったり、微妙な空気になったり、反応は様々だった。

「第三班、幕ノ内オオゼキ、唐栗トリ、日向マキ」

トリからブーイングが上がった。
どうやら、イガと一緒の班になりたかったらしい。
ぎゃあぎゃあ喚く彼女に、オオゼキが一言、

「決まっちゃたんだし、これからよろしくねー」

と言ったため、拍子抜けして大人しくなった。

毎年、班を変えてくれてと文句を言う生徒は必ずいる。
しかし、火影からの命令だと言うと、ブツブツ言いながらも了承してくれる。

イルカは、次の班の名簿を見る。
そこに書いてある名前を見て、イルカは心の中で溜息を吐いた。
なぜ五代目火影は、この組み合わせにしたのだろう。
生徒たち能力や技術は定期的に報告していた。
それと同じくして、人間関係についても報告書を上げていた。

火影も上層部の人間も、その報告書に目を通しているはずだ。
能力の組み合わせだけではなく、人間関係も鑑みて配属先を検討しているのだが、今回はその人間関係は考慮されなかったようだ。

(綱手様のことだ、わざと一緒にしたな…)

「……はぁ、次。第七班……」

チラリと、イルカはアズキを見た。
心の中で「がんばれよ」と呟いた。

「……甘井アズキ、風来ヤイバ、うえのイガ、以上」

アズキは、ガンッと頭を殴られたような衝撃を受けた。
血の気が引いた。
身体がガタガタと震えた。

ネイロと離れてしまったばかりか、あのイガと同じ班になってしまった。
予想通り、イガが大ブーイング。
アズキを指差し、「落ちこぼれと一緒にするな」「実力が落ちる」などと悪態を吐いていた。

イルカに静かにしろと、注意されても、イガの怒りは収まりをみせない。

「班はチームワークが必要だ。知識や力だけで実力が測れるわけではない。これから、3人力を合わせて、任務を全うしてくれ」

アズキは、心の中で「できるわけない」と叫んだ。
散々、苛められてきたのだ。
イガの性格はよく知っている。

ヤイバの様子を恐る恐る覗き見ると、彼はいつものように無表情だった。
誰と班が同じになるかは、関心がないようだ。

空気はどんよりとしたものになった。
喚き続けるイガの声の間を縫うかのように、アズキの耳にひそひそ囁かれる会話が入ってきた。

(よかった、顔ナシと一緒じゃなくて…)

(イガとヤイバには気の毒だけれどね)

肩を落とした。
任務のたび、悪態を吐かれることを想像して、アズキはとても憂鬱な気分になった。



次の班が発表され、一際大きくメカタが叫んだ。

「やった♪ネイロちゃんと一緒だ〜〜!」

口を蛸のように尖らせ、ネイロに跳びかかるメカタ。
彼女は半歩下がり、スワリを引っ張り、盾にした。
メカタの勢いは止まらず、そのままスワリの額にキスをしてしまった。

顔を蒼白にして、ペッペッと唾を吐き、唇を服の袖で拭った。

「うわわわぁ!」

スワリは叫びながら、上着で額をゴシゴシと拭いた。
ついさっきの陰湿な雰囲気から一転、周囲は爆笑の渦に包まれた。
ハプニングを引き起こした、ネイロさえも笑っていた。

スワリは目尻に涙を溜め、メカタの胸倉に掴みかかった。
メカタも男相手では容赦しない。乱闘が始まった。
スワリのパートナーであるシロクロも参戦し、騒ぎは大きくなった。

あちらこちらから、もっとやれ、との声が上がり、中々喧嘩は収まらない。

班分け発表どころではなくなった。
騒ぎを聞きつけた他の教師と共に、イルカはメカタとスワリ、シロクロを3人がかりで抑えた。



騒ぎの渦中から離れた場所に移動したアズキは、身体を震わせて蹲っていた。

(なんて、ついていないんだろう)

込み上がってくる涙を必死でこらえながら、彼女は首から下げている額当てをギュッと握りしめた。







 index 




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -