人魚鉢(三)


「ヒナタさん!ヒナタさん!」

野営地で夕飯の準備をしようとしていたところに、看護師の一人が大慌てでヒナタを呼びにやって来た。

その慌て振りが尋常ではなく、ヒナタ達に緊張が走る。

「ウツボさん、どうされたのですか!?」

咳き込んでいる彼女に水の入ったコップを手渡し、背中を擦りながら、ヒナタは落ち着かせた。

「はぁ…は…サ、サンゴが…!サンゴが可笑しいの!」

「サンゴさんに何かあったのですか!?」

冷や汗が流れる。
背中が汗で濡れて冷たくなった。

「と、突然、歌が聞こえると言って、目を虚ろにしてふらりと立ち上がったかと思ったら、仕事をほっぽり出して出て行っちゃったの!あの子、仕事を投げ出すような子じゃないのに!」

必ず探し出すと言い残して、ヒナタ達は村や周辺一帯に散らばり、捜査に当たった。
白眼を発動させ、近くを、遠くを見渡した。

(どこへ…どこへ行ったの…!)

必死にサンゴの姿を探した。
しかし、焦りで集中することができない。
一旦、白眼の発動を止めて、目を閉じた。

ゆっくり息を吸い、そして少しずつ吐いた。
それを数回繰り返した。
目を再び開き、静かに白眼を発動させた。

(落ち着かなきゃ。きっと、サンゴさんは無事だから…!?)

その時、目に映る情景に違和感を覚えた。
ちょうど湖の畔だった。

空間が歪んだと表現するのが最適だろうか。
いや蜃気楼のようにぼやけてあやふやなものと表現すべきなのか。

兎に角、その湖の周辺の情景が奇妙にねじ曲がって見えた。
チャクラの流れを確認しようとしたが、どうもおかしい。

チャクラを可視化することができなかった。

(これは、自然エネルギーの一種?)

ヒナタが何かに察知したことに気が付いた八班のメンバーが、続々と集まってきた。
キバも湖の畔から、昨日は感じなかった匂いを嗅いだという。

「なんか、海の近くにいるような感じだ」

シノもどうような違和感を覚えていた。
蟲を腕に這わせながら、眉をひそめていた。

「探索に飛ばしていた蟲達に、微量ながら塩が付着していた」

「なるほど、ね」

カカシは斜めにずらしていた額当ての鉢巻を、地面と水平になるように上げた。
額当てで隠れていた左目が露わになった。
写輪眼だ。
彼が写輪眼を見せるという時は、事態が切迫した状況にある証拠だろう。

「皆、警戒を怠らにないように」

カカシを先頭に揃って、怪しいと思われる湖に向かった。

(サンゴさん…無事でいて)

心の中で強く思いながら、ヒナタは列の後ろに付いて周辺の様子を窺った。




しかし、ヒナタの願いも空しく、サンゴは意識不明の状態で見つかった。
発見場所は、八班の皆が違和感を覚えた湖の畔であった。

彼女は、失踪事件で意識を失っている被害者達と同じ症状だった。
頬を叩いても、目を覚ますツボを突いても、ピクリともしない。

彼女の手をそっと手に取り、ヒナタは俯いた。
必ず事件を解決させると啖呵を切った矢先、その言った相手が犠牲になってしまった。
ヒナタは自分の無力さに打ちひしがれる。

ヒナタを気遣うように、カカシがそっと頭に手を置いて撫でた。
泣きそうな顔でカカシを見上げたヒナタ。

「ヒナタの所為じゃないよ。お前は、今できることを精いっぱいやっているもの」

ぽんぽんと軽く頭を撫でられ、ヒナタはやっとくすっと笑った。
その微笑みを見て、カカシも目を細めた。

そして、おどけたようにぱっとヒナタの頭から手をのけた。

「おっと、こうして慰めるのは、俺じゃなくてナルトの方がよかったか」

「カ、カカシ先生、おどけるのはやめてくださいっ!」

ぷくっと頬を膨らませて、ヒナタは抗議した。
完全には立ち直れていないようだが、少しは持ち直したらしい。




外で騒ぎが起こった。
何事かと集会所の外へ出てみると、村人たちが建物を取り囲んでいた。
皆、カカシ達を睨みつけていた。

「忍がいてなぜ被害者が出るのだ!」

サンゴの事を聞きつけて来たらしい。
中には怒りのあまり、石を投げて来る者もいた。

「忍とはいえ、万能ではない。助けられないことだってある」

シノが諭した。
しかし、その言葉は村人の反感を駆った。

「うるせーっ!金を払ってんだ!真面目に捜査しろっ!」

「わしゃあ、今朝見たぞ!そこの白い眼の女が、サンゴと話していたのを」

「お前がサンゴを攫ってああしたのか。この失踪事件は、お前達の自作自演かよ!」

違う、と声を上げたくても、声が出なかった。
現に、犠牲者が出てしまったのだ。
これ以上何を言っても、言い訳としか捉えられないだろう。

皆、肩を落とし集会所の中に一旦非難することにした。

ヒナタ達の様子を見て、介抱に当たっている医者達が、そっと声を掛けて来た。

「私達は、あなた達がどれだけこの事件に尽力してくださっているか、ちゃんと知っていますよ」

「そうです!あの人達も他人任せじゃなくて、自分ができる範囲で協力してくれなきゃいけないのですよ」

「大丈夫。サンゴは、あなたの所為じゃないから」

サンゴの異変を知らせに来た看護師が優しくヒナタを抱きしめた。
その柔らかくて暖かいぬくもりに、心が落ち着いた。

だが…

(私は、本当にこうして守られてばかりいる)

自分を強いと認めてくれた彼のことを思い出し、ヒナタは心の中で首を振った。

(やっぱり、私は弱いよ……ナルトくん)




事態を長引かせては、さらに村人の怒りは募るばかりだ。
第八班達だけでは手に余る任務だと判断し、カカシは木の葉へ応援要請をしようと決断した。
口寄せでパックンを呼び出し、彼に書簡を咥えさせた。

「これを五代目に。頼むよ」

「おう!任せとけ……ところで、応援と言うのはあいつら以外のことを言っておるのか」

一体「あいつら」とは誰のことを言っているのだろうか。
すると、外から村人が騒いでいる声が聞こえた。
始めは、飽きもせずまた自分たちを攻めたてに来たのだろうと思ったが、どうもそうではないらしい。

その騒ぎの中心は、ヒナタ達ではなく、別の一行に在った。

「…何なんだよ!オレら、今この村に来たばっかりで、なんのことかさっぱりだってばよ」

聞き覚えのあるその声に反応して、ヒナタは無意識に立ち上がり走り出した。






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