昔のふたり2-2







そろそろ閉店の時間だろうか。

とは言っても、こんな入り組んだ裏路地にある小さなカフェだ

夕方を過ぎればほとんど客が来ることはない


閉店時間もあってないようなもの

ずぼらな店長の気分次第だ









その店長は今、七海の前の席に座り気だるげに煙草をふかしている



お前、店長だろ、とか

仮にも飲食店の店長が煙草・・・とか

その煙をこっちに吹きかけるのはやめて欲しい、とか


もろもろの文句を飲み込んで、七海は残っていたミルクティーを啜った


「相変わらず甘いもん飲んでんなぁ」


ざりり、と無精髭をなでながら、雪見は七海の手元を覗き込んだ


「・・・・あんたの店のものでしょうが」


「ま、俺が作ったんじゃぁないしな」


・・・・威張ることじゃない





ふい、と視線を奥のキッチンに向ける。

使われなくなった古い空家を改装して利用しているこの店は、客からもキッチンの様子が窺えた


そこで白い制服を着た青年が何やら作業している

長身で線の細い青年だ

この店の仕事はほとんどこの青年が一人でやっている

この青年がバイトとしてやってきてから、元来ずぼらな性格であった雪見は、さらに仕事をしなくなった






店内に客は自分一人しかおらず、その自分はミルクティー以外何も注文した覚えはない

ということは、またこの店長が気を使って何か作らせているのだろうと、七海は目の前の雪見に視線を戻す



ずっとこちらを見ていたのか、少したれ気味の目と視線がぶつかり、思わずたじろいでしまった


普段は眠たそうにしているそれが、真剣な光を宿してこちらを見つめてくる


「ゆ、雪見さ・・・」


「七海・・・・・・・・まぁったく、お前はかわいいなぁ」


うりうりと、雑な手つきで頭を撫でられる


「ちょ、ちょっと、」


「今スープ作らせてるから、それ食べてから帰れよ」


煙をはきだしながら、ふ、と笑って、雪見は席を立った














くしゃりと、雪見に撫でられた髪を掴んで、七海は顔をふかせた


先程の雪見の目が瞼の裏に思い浮かぶ




わかっている


あの真剣な眼差しの意味も、


頭を撫でた不器用な手つきも、





だから、雨は嫌いなんだ






出されたスープの暖かさに、ぎゅっと目を瞑る


涙を堪えるのに必死だった


























何年も前の型をした古いケータイが、


その役目を果たすことはもうないだろう


ならない着信音と、送信されずにたまっていくメールたち


それでもこの古いケータイを、これからも俺は大事に持ち続ける






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