ハート2







じゅ、と煙草を灰皿に押し付ける音がして、ハッと顔を上げる。


「・・・帰っちゃうの?」


後ろから腰に抱き付いて、上目遣いで尋ねる。


「お前それわかってやってるよね」


「・・・・・ウン」


困った顔。
僕が傷づくの解ってて、それでも僕を選ぶなんてできない。


「帰るよ」


その大きな手で僕を一撫でして、関さんは着替え始める。


「やだ!」


関さんの手からワイシャツを取り上げて、床に投げ捨てる。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


「今日だけ!今日だけでいいから帰らないでよ」


「伊織、」


「今日だけ、今日だけだから・・・」


いくら関さんに帰って欲しくなくても、こんなにみっともなく縋ったことなんて無かった。
ちょっと我侭を言って、聞き入れてもらえなかったら、殴るなり噛み付くなりして、僕といない間、関さんがその傷を見て僕のことを考えてくれればそれで満足だった。(そもそもソレが間違ってるなんて指摘は受け付けない。だって関さんは受け入れてくれるもの)
でも今日だけはだめだった。
どれだけ関さんに抱かれても、どれだけ関さんに傷を残しても。
今日は関さんが一緒にいてくれなきゃだめなんだ。


「今日、帰ってきてるんだ。あの人」


ツキン、
ツキン、
ツキン、

背中が熱い


「だから、今日だけ、一緒にいてよ、帰らないで、関さん。ねぇ、好きだよ関さん。関さんが奥さんを大切に思っていることは知ってるよ。関さんの待ちうけが関さんの息子の写真だって事も知ってるよ」


関さんが初めて僕を抱いた時の事を後悔している事も、
僕の暴力を甘んじて受け入れてくれる理由も、
この背中の傷に同情していることも、
そんな僕を、関さんが選んでくれるはずが無いって事も、


「今日だけ、一緒にいてよ・・・」


「伊織・・・」


目が熱い。瞬きする度に涙が溢れ出す。

一緒にいて欲しい
抱きしめて欲しい










僕を、愛して欲しい




















「・・・だめだ」



ガツン・・・ッ



気づいたら関さんの髪を鷲掴んで床に叩きつけていた
ぬるりと、馴染んだ血の感触がする


「・・・っ、伊織」


「はは。血が出ちゃったね。思ったより力が入っちゃったかな。ね、どうする?こんなに血を流して、家になんか帰れないよね。奥さんも息子さんも心配しちゃうもんね。関さんは優しいから、大切な家族にそんな心配かけられないでしょ。外では、男子高校生とこんなことしてるのに、関さんは家族が1番大事、」


「伊織」


僕の涙が、関さんの頬に落ちる。頬を流れ落ちて、床で血と混ざり合う。

口内で鉄の味が広がる。強く噛み締めたせいで、唇が切れたのかもしれない。





視界の端で、関さんが着替えを再開している。


「関さ、」


ツキン、
ツキン、
ツキン、


「っ、せきさん、」


スーツに腕を通した関さんが振り返る


「帰るの?やだよ、行かないでよ。また殴られたいの?」


関さんが目を細める。
泣いているように見えるのは僕が泣いているからだろうか。


「いいよ。殴るくらい。いくらでも伊織の好きなようにすればいい」


ツキン、 
ツキン、 
ツキン、


先程よりも痛みが増した気がする


「でも、俺はお前を選べない。結局は家族を捨てられねぇんだ」




頭が痺れる 
手が震える
背中が痛い



部屋に、扉の閉じる音が響いた





「・・・・せきさん」



背中の傷が痛いんだ
あなたに会うもうずっと前から
他にもいっぱい痛いんだ

この傷が、僕を縛り付けて離さないから

同じように関さんにもいっぱいいっぱい傷をつけた
その傷たちが関さんを僕に縛り付けて離さないように
でも、
いくら傷つけてもだめだった
傷つける度に関さんは痛そうに顔を歪めて、
それから、決まって僕を見て何か呟いていた
謝っていたのかな?
どれだけ僕の暴力を受け入れても関さんには手放すことのできない家族がいるもんね


背中に手を回して、そこだけ不自然に引きつっている皮膚を撫でた















好きな人を傷つけちゃいけないなんて、僕には誰も教えてくれなかった


あなたを傷つける度に傷ついていたのは
僕の、




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