愛すべきさよならをどうか




 海賊王の子供と、悪魔になった子供。
 生まれてきた意味も、愛されるということも分からなかった。
 だからこそ、お互いに想い合い、愛し合えることができたのかな。







 エース。






 そう呟いた筈なのに、零れたのは擦れた息だけだった。





















 悪魔の実の中でも最凶の実と謳われる"悪魔の実"を食べたあの時から、俺は文字通り"悪魔"になった。
 強大すぎるその能力に身体の内から浸食され、湧き上がる騒動のまま人を殺し、自分さえ傷つけた。
 母親も妹も友達も。殺して殺して殺して。
 周りに殺す人間がいなくなれば、自分の肉を切り裂いた。
 人を殺したいという衝動と人間でいたいという願い。2つの狭間で不安定に揺れていた俺を、初めて受け入れてくれた人がエースだった。
 いくらロギアの能力を持っているとはいえ、所詮は人間だ。本物の悪魔である俺に勝てるわけなどない。それでも、何度俺に殺されかけても、その血に濡れた腕で抱きしめてくれたお前を。俺に家族を与えてくれたお前を。俺に、愛を教えてくれたお前を。
 死なせはしないよ。エース。








 寒い。
 赤犬に貫かれた胴体から、とめどなく溢れ出す血が、体温を奪っていく。
 悪魔の証である黒い羽も、片方は奴の片腕を引き千切ってやった際にもがれ、もう片方は有り得ない方向へ曲がっている。
 もはや痛みも感じない。
 まさか、大将とはいえ人間如きにここまでやられるとはね。
 内心そう呟いて、苦笑いした。
 能力で、怪我をした箇所から細胞の再生が始まってはいるが、この怪我では俺がくたばるのが先だろう。いくら傷つけても死ぬことのできなかった身体が、今はすぐそこに死を感じている。
 エースが俺をかき抱き、何やら叫んでいる。彼の弟は、こちらを呆然と見つめている。あぁ、これはマルコだろうか。ひとつの気配がこちらに猛スピードで近づいてくる。親父や、他の隊長たちは無事だろうか。
 たくさんの気掛かりは残るけれど、久しぶりのエースの腕の中は、とても安心した。
 たくさん辛い思いもさせたし、痛い思いもしただろう。もっと早く、助けてやりたかった。


「シャルムッ!」


 父親が海賊王というだけで世界に嫌われたお前は、それでも、最愛の兄弟と家族を手に入れた。そうして幸せの笑顔の裏で、俺達は互いの闇を分け合い、愛される意味を知ったのだ。
 お前を傷付ける奴なんて、俺が皆殺してやるよ。だからもうこれ以上、お前が傷付くことなんてない。


「え…、す」


 泣くなよ。
 悪魔の侵食に耐えられず、身体の至る所に皹が入った俺には、もうエースの顔は見えないけれど。
 俺を抱える腕が震えてる。熱い雫が頬に落ちてくる。

 お前が誰の息子かなんて関係ない。俺が悪魔か人間かなんて関係ない。
 お前を助けるために、これだけの仲間が集まって。
 こんなにも愛されているんだ。


「馬鹿野郎!シャルムッ……」

「エース!撤退するよい。早く手当てを!」


 マルコの声がする。もうほとんど聞こえないけれど、恐らく親父が撤退を命じているのだろう。ならせめて、ほんの少しの時間稼ぎくらい、してやりたいのだが、どうやらそれすら無理な様だ。散々悪魔と罵られ、いざという時には大将1人と相打ちになるので精一杯な、この力が恨めしい。

 閉じようとする瞼に逆らい、必死に目を開く。例え見えなくても、この網膜に焼き付けて。震える手を延ばせば、力強く握られる。

 エース。
 エース。
 エース。

 最期の最期で、こんなにも伝えたい想いが溢れてくる。
 世界に嫌われた俺達が、この広い海で出会って、奇跡みたいに恋をして。
 ほろり、と一粒だけ涙が零れた。


「エース、愛してる」







 だから、どうか生きて。









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