俺の声は彼のもの | ナノ

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「…!……!!」

ぼんやりとした意識の中誰かの声が聞こえる。しかも耳元で、だ。

ちょっとうるさい。

俺はその近くにあるだろう顔をどかす様に手で払う。だがその手も掴まれてしまった。

「…〜〜!!ひ…!!」

痛い痛い。思い切り握るなよ。

こちとらこのままずっと眠っていたい位なんだよ。

友人や先輩達をを裏切るようなことをする位ならずっと、このまま。

そう思っていたら、体が暖かい何かに包まれた。誰だろう。紺?…違う。触れても嫌じゃない人。

誰?

「ひよりっ!!!!おい!!目、覚ましたぞ!大丈夫か!?そのまま起きてろよ!!」

ゆう、洛先輩…?

目を開ければ視界いっぱいに遊洛先輩の顔。
整った顔が歪んで台無しだと思った。

確か俺は廊下で…
ん?

その後の記憶がないぞ。もしかして俺廊下で寝た!?
マジかよ。

頭でそんなことを考えつつもぼんやりと遊洛先輩の顔を見つめた。すると後ろから上条委員長も出てきた。こちらもなんだからしくない顔である。

「保健室運ぶか?」

「そうだな」

保健室?

ふるふると首を振る。

「は?」

ただ廊下で寝こけてしまっていただけだし、今は部屋に帰って寝てしまいたい。

大丈夫だと思ってもらうために自力で立ち上がる。わぁ、俺遊洛先輩に膝枕されてたのか。
その事に少し顔が赤くなってしまいバレないように下を向く。

あ…

俺のスウェットの端を掴む遊洛先輩。
思わず顔を上げると心配一色の先輩の顔があった。

ツキリ

胸が痛んだ。

パッと顔をそらし、するりと先輩の手から逃げ出し小走りで俯きながら走り出す。

遊洛先輩と上条委員長の顔を見たら駄目な気がした。

裏切る事が出来ない気がした。

どうかこれから最低な事をする俺を見ないで下さい。かまわないでください。

恐ろしくて体の力が抜けそうになるのを叱咤しながら寮へと走る。途中知らない人が慌てた様子で俺を引きとめようとしてきたけれど無視して振り切った。

沢山の人の視線から逃げるようにして寮の扉を開いた。

「っはぁ、はぁっ…」

「日和ちゃん!?何処にいたの!?先輩達みんな探してたんだよ?」

紺の声が聞こえる。

「こん…」

玄関で靴も脱がずに膝をつく俺に紺が駆け寄ってくる。心配そうにするが俺には決して触れてこない。

あの人が俺に残した大きな傷跡。

他人を拒む体。

「日和ちゃん?大丈夫?顔色悪いよ?」

「大丈夫…ちょっと疲れたから寝るわ…」

そのままふらりと立ち上がり自分向かう。とにかく早く寝たかった。明日は幸い休みだ。

部屋に入ると着ているスウェットのままベッドへダイブ。
溜め息を一つ吐いて眠りに落ちた。





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