陰る月に愛を | ナノ


自由な彼女


「かぐや姫様〜っ!!かぐや姫様はどこだああ!」
「ああ…あのお方はまた屋敷の外へ行かれたのか…」
「姫様どうかせめて一言仰ってから行ってくださいいい!!」

あれから五年、相も変わらず自由気ままなかぐや姫に今日も哀れな従者たちの声が屋敷中に響き渡っていた。


そのころ、騒ぎの張本人はというと。

「うん。よかった、綺麗に焼けてる!」
「うわぁ〜っおいしそう!」
「かぐや姫様、これはなんという甘味?」
「ふふ、これはスイートポテトと言うの」
「へー!すいーとぽてと、すごく美味しそうだね」

…農家で菓子作りに勤しんでいた。

キラキラと目を輝かせ、香ばしい匂いを漂わせているスイートポテトを食い入るように見つめる子どもたち。早く食べたくてうずうずとしているのが目に見えて分かり、かぐや姫はクスクスと美しい笑みを浮かべ、彼らにそれを渡してやる。

「おお、かぐや姫様。芋の甘味は出来ましたかいのう?」
「姫様はたいそう料理がお上手であらせられるからのう。わしらも子どもたちもいつも楽しみにしとるんですじゃ」

一つの家に集まった大人子ども、さらに老人たち。皆の目的は同じ、かぐや姫がこの村に時たまやって来ては作る珍しい甘味である。彼女は毎回、何やらだれも見たことがない甘味を作るのだが、それらすべてが絶品でたちまち人気を集めたのだ。

「ほ、本当にかぐや姫様の作る甘味は美味しゅうございます!!こんなにもお美しくてお料理も上手だなんて…!」

一人の若い女がかぐや姫を恍惚とした表情で見つめていた。この芋を提供してくれた農家の娘だ。

「いえ、そんなこと。この村のお野菜や果物が新鮮でとても美味しいからですよ」

穏やかに微笑み、出来立てのスイートポテトを口に運ぶかぐや姫。ただそれだけの動作であるというのに、村人たちは皆一様に見惚れてしまった。

彼女の恐ろしいほどの美しさはこの五年でことさらに磨きがかかっていた。その美貌は日本だけに留まらず、ついには他国からも数えきれないほどの王家や上流貴族から縁談の話が来るほどで、かぐや姫は順調に傾国の美女へと成り変わっていく。
しかしいくら話の良い縁談を持ちかけられようと、かぐや姫は富も地位もまるで無関心だったのだが。(その様子にさらに縁談が増えたことはまた別の話…)

この美しすぎる姫は一体どこまで名を広めるのだろうか。

「かぐや姫様!!今日も新しいお遊戯教えてー!」
「教えてー!」

スイートポテトを堪能したらしい子どもたちがかぐや姫の腕をクイクイと引っ張る。親たちがそれを慌てて止めさせようとするが、彼女は穏やかに笑って子どもたちについていった。

元来、子どもが好きなかぐや姫は前世でもよく子どもたちと遊んでいたのだ。これくらい何てことはない。

「もういいかーい?」
「まーだだよ〜」

きゃっきゃっと楽しそうに走り回る子どもたち。かぐや姫もまた一緒に加わって子どもたちとかくれんぼをしたり、前世にあった童話を話して聞かせたりと、楽しい時間を過ごした。

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