ある日の筒寺真里
「筒寺! お前はこのクラス、いや、一年生の期待の星だ!」
「……はい?」
 クラスメイトの唐突な言葉に、筒寺真里はきょとんとして、首を傾げた。言っている意味がよく分からない。なんで、期待の星なんだ。
 そんな真里の心の声が聞こえたのか、別のクラスメイトが「つまりな、」と補足した。
「お前、一年で生徒会に入れただろ? 入学直後に生徒会に入れる奴なんて、そうそうないからな」
「あぁ、なるほど。……って、僕は別にそんな大層なものじゃないよ」
 納得しかけだが、真里は慌てって首を振った。それで期待の星と持ち上げられても、いろいろ困る。
 生徒会に入れたことは、真里自身も驚いていたのだ。入れたら頑張ろうと思ってはいたが、まさか本当に入れるなんて。
 入ったからには頑張らなくてはいけない。たとえ、一年がたった一人でも、生徒会の先輩たちは良い人ばかりだ。……まだ、二回しか会っていないけど。
「正直、どうなんだ?」
「へ?」
「生徒会。筒寺以外、全員上級生だろ? しかも、今年の生徒会長は留年したって噂だし。何か聞いてたりする?」
「ううん、何にも。でも、結城先輩は面白い人だよ。……まだ二回しか会ったことないんだけどね」
 良い意味では面白い。悪い意味では……ちょっと煩い。でも、良い先輩であることは確かだ、と真里は思っていた。これでも、人を見る目はちゃんとある。
「他の先輩はどんな感じ?」
「えーと、木野崎先輩は厳しい人かなぁ。宮瀬先輩はクールな人だなぁ。――それから、高科先輩」
 生徒会の紅一点、高科若奈のことを思い浮かべ、真里はにこにこと笑みを浮かべた。まだ二回しか会っていないが、優しくて明るい先輩だ。それに、可愛い。
「高科先輩は、明るくて、優しい先輩だよ」
 真里のにこにこしたその笑顔に、クラスメイト二人は「おや?」と思った。普段からほわほわした真里だが、こんな表情をするのは初めてだ。
 この笑顔はなんというか、恋しているような、そんな笑顔。
 その瞬間、二人はにやりと笑った。
 その表情の変化を見てしまった真里は、「どうかした?」と問いかける。
「お前、その先輩のこと、」
 にやにやとそこまで問いかけた瞬間、真里は慌てて首を振った。
「うえ!? な、何が? 何でもないよ。僕は別に……っ」
「俺、まだ何にも言ってないんだけど」
「……ッ!?」
 地雷を踏んだ。
 真里は顔を真っ赤にすると「本当に何にもないんだってー!」と叫び、一目散に教室を飛び出して行った。
 出会ってからまだ一カ月足らず。クラスメイトから見た筒寺真里の第一印象は大人しそう・いつも笑顔だ。
 そんな真里がまさか叫んで飛び出すとは考えてもみなかったクラスメイトは、開けっぱなしのドアを驚いた様子で、ぽかんと眺めていた。
 しかし、今は三時間目と四時間目の間の休み時間。その数分後にはむすっとしながらも、半分泣きそうな顔をした真里が帰って来た。
 そんな真里を見て、クラスメイトの大半は吹きだしそうになったのは言うまででもない。


 こうして、真里の恋心を知ったクラスメイトに、筒寺真里を応援する会≠ェ密かに発足されたことを、真里自身は知るよしもなかった。


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