快楽を呼ぶ悪魔 | ナノ

快楽を呼ぶ悪魔

01


――次の日。


あれ以来、シンが部屋に戻ってくることはなかった。あたしは、お兄ちゃんの友だちが帰るまで首にマフラーを巻いてやり過ごした。どうやらあの首輪、家族の理性云々はないみたいだし・・・。
……そうじゃなかったら困るけど。
シンにはいろいろ聞きたいことがあったけど、怖いからあんまり会いたくないしなぁ・・・。

とにかく。
あんな思いは二度としたくない。あたしは、首にマフラーをぐるぐると巻きつけてから家を出た。家族みんなに「暑苦しい」って言われたけど・・・。
わかってるもん、そんなの。


「あっつい……」


マフラーを握りしめて、ため息混じりに呟く。
春も半ば。マフラーなんて季節はずれにも程があるし、学校でもだれもつけてないよ。
ぐちぐち言いながら家を出ると、向かいの家のドアがバタンと開いた。
わぁ・・・。今日、ラッキーかもしれないっ!


「よ、あずみ」

「お、おはよ! ヒロ兄っ」


ヒロ兄・・・真田比呂は、向かいの家に住んでいる幼なじみのお兄ちゃん。
あたしより一つ年上で、有名な進学校に通うエリート(死語?)お兄ちゃんなのです。
昔から家族ぐるみで仲良くしていて、あたしのこと、妹みたいに可愛がってくれるんだ。

……でも、あたしは・・・ですね。もうずーっと前から、ヒロ兄が好きなのです。
長い間幼馴染やってきたから、今さらそんなこと言えないし、ヒロ兄にとってはあたしは妹でしかないんだろうけど……。
朝会えると、その日一日ハッピーに過ごせちゃうくらい好きなんだよう。


「お前、暑苦しーなー。4月にマフラーしてんなよ」


うれしくてヘラヘラしながらヒロ兄に近づく。呆れたように笑うけど・・・やっぱり、暑苦しいかぁ・・・。


「か、風邪・・・ひいてるのっ」


あたしは、うつむきながらそう返した。
ヒロ兄は、どんどんかっこよくなっちゃう。きっと、学校でもモテるんだろうなあ・・・。
うぅ・・・モヤモヤするよう。


「あずみ、彼氏できたか?」


そんなことを考えていると、ヒロ兄のいたずらっぽい声が降ってきた。
か、彼氏・・・とな!?


「で、できないようっ」

「そっか」


ヒロ兄が、にこりと笑いかけてくれる。
あたしは、この笑顔が大好きなんですよう。物心ついたときから、ずっと。


「駅まで一緒に行こーぜ」

「う、うんっ! ありがとう!」


あたしのバッグをさりげなく取り上げながら、ヒロ兄がにこりと笑った。
優しくてかっこいい、憧れの幼馴染み。これって、幼馴染みの特権だよね。
あたしは、朝からその幸せをめいっぱいかみしめていた。








……その様子を、屋根の上から見つめる視線。


「へえ?」


シンが、不機嫌そうにその様子を眺めていた。



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