Side 悠斗 | ナノ


(3)


「あ、橘高校のビデオ?」

「うん」


打席に立つのは、4番の柳沢。
さすがにガタイはいいし、なんかオーラを感じる。


相手のピッチャーの球も、そんなに悪くはなかった。
でも、ビデオの中の男は、軽々とそのボールをバックヤードまで運んだ。


「うお、すげーな」

「うん。すごいねえ」


実は、監督には対策を聞いていた。
4番の男は、どうやら変化球に弱いらしい。


が、しかし俺は変化球がそんなに上手く投げられるわけではない。
いくら苦手とは言っても、中途半端な変化球を投げるくらいなら、勝負球であるストレートで攻めたほうが良いのか。
それを見たいがために、俺は他の部員に片づけを任せて、ビデオを見ていたのだ。


いや、でも……。


「ストレートに強いんだね」


由紀が声を漏らす。


確かに……。
ストレートはことごとく打たれている。
やっぱり、カーブやらで攻めたほうがいいのか……?


そんなことを考えていると、由紀がチラッと俺を見た。


「キャプテン?」

「ん?」


これもちょっと悩み事。
由紀は、俺のことをキャプテンと呼ぶ。
他の部員のことは「(苗字)くん」と呼ぶのに…。
キャプテンと由紀が呼ぶたびに、なんだか切ない気分になるんだ。


「キャプテン、大丈夫だよ」

「え?」


ふふっと由紀が笑う。


「明日、キャプテンがどんな作戦で行くのかは分からないけど……」


そこまで言って、由紀はとびっきりの笑顔を見せた。


「キャプテンなら大丈夫!あたしが言うんだから間違いないよ!」





悪く見てしまえば、いい加減にも見える由紀のセリフ。
でも俺は、いつだってそんな由紀の言葉に励まされてきた。





「そっかあ?」

「うんっ。絶対大丈夫!」





そんな笑顔で言うなよ。
なんか勇気出てくんだろ?





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