(2)
マネージャーとエースなんてありきたりだろうか。
寮が男女離れていて、校舎まで別。 異性に会うのは、部活のときだけだ。
しかも俺は、芋くさい野球部なんて部活に入っている。 それはイコール、女子との絡みが皆無なことを意味していて……。 会う女子なんて、マネージャーだけなんだ。
それに、贔屓目に見てもマネージャー、 ……神谷由紀は可愛いと思う。
可愛いし、気が利くし、話し上手で聞き上手。 つまり、ライバルは部員全員なんだ。
『南ちゃん甲子園に連れてってあげなよ?星屑ロンリネスだよ!』
夏休み直前に言われた、つばさの言葉を思い出して、苦笑いする。 星屑ロンリネスってなんだよ。
つばさといえば…。 なんかアイツ最近、葵を意識しているようだ。 葵がつばさにべたぼれで、アイツにしてみればびっくりするくらい優しくしているのを傍で見ているから、この変化は結構うれしい。
カナには悪いけど、夏休み明けにはあの2人くっつくかもな……。 いや、でもそう簡単にはいかないか。
「つばさ、めちゃくちゃ鈍いからなー」
「つばさって、寮にいる女の子?」
「うわっ!」
思わず独り言を言った瞬間、後ろから声をかけられ、俺は思わず声を出してしまった。 振り返ると、由紀が俺に向かってボトルを差し出している。
「はい、アクエリ」
「あ、サンキュ」
ひんやりとしたアクエリアスを受け取る。 クスクスと笑いながら、由紀が俺の隣に腰掛けた。 肩が触れて、思わずビクンとしてしまう。
夏休みとはいっても、実際に家で休むのは3日だけ。 あとは、大会に向けて合宿に入る。
今は、昼練が終わったところだ。 昼とは言っても、もう18時。 今から夕飯を食べて、夜練に入る。
つっても、夜はそんなしっかり練習をするわけじゃない。 個人練習で、自分が苦手なところを各々でやるんだ。 だから、大掛かりな器具なんかはまとめて片付けてしまう。
俺は、ほかの部員に片付けを頼んで、ビデオを見ていた。 ……明日の練習試合の相手のビデオだ。 練習試合とは言っても、全国的に有名なスラッガーがいる学校。 全国を狙っている俺たちは、明日の練習試合を非常に大切な試合だと考えていた。
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