Side 悠斗 | ナノ


(14)


―――。


夏休み最後の日ということもあって、その日は夜練もなく、ちょっとした祝勝会が開催された。
合宿所のおばちゃんたちが腕を奮って作ってくれたごちそうを頬張りながら、今日の試合や夏休みの辛い練習の話題を中心に、ぎゃーぎゃーとはしゃぐ。
鬼と呼ばれるコーチが実はアイドルのファンであることを暴露したり、各々の失敗談を語ったり・・・。バカみたいで、それでもすごく楽しい時間が過ぎていった。

明日は早めに起きて、ここから車で1時間半ほどの場所にある学園に戻る。辛いけれど楽しい合宿が終わるのはちょっとさみしい気もするけど、久々にカナや葵、つばさに会えるのは嬉しかったりするよな。
……葵、今日誕生日だっけ。メール入れておくか・・・。


「悠斗、どこ行くんだ?」

「んー・・・便所?」


葵へのメールもそうだけど……実は、ちょっと前から、由紀の姿が見えないんだよな。
みんなたがが外れたようにはしゃいでるし、男所帯の中に女ひとりでいるのはしんどいのかもしれない。気がつかなかった自分にちょっと憤りを感じつつ、俺は由紀を探すために、賑やかな食堂を後にした。

男同士のメールで長文メールを打つのも気持ち悪いし・・・。ということで、簡潔に「誕生日おめでとう」という文章を打ち込みながら、由紀を探す。
由紀は、そう離れたところにはおらず……送信ボタンを押した瞬間に、その姿を発見することができた。
昨日話をしたベンチに腰掛けて、空を見上げている。


「・・・由紀?」

「わ、わぁっ!? あ、キャプテン・・・?」


後ろから声をかけると、由紀は大げさに驚いた。それから、俺の姿を見ると、なんだか少し緊張したような表情を見せる。


「ど、どうしたの・・・?」

「あー。……昨日、話ししたいって言っただろ? 隣、いい?」

「え? あ、……うん」


由紀はなんだか神妙な表情で頷いた。俺も、ちょっと緊張しながら由紀の隣に腰掛ける。


「あ、あのさ……大事な、話なんだけど・・・」

「……! う、うん。……なんとなくわかる、よ」

「あ、あー・・・。まあ、そうだよな」


話を切り出すと、由紀は沈んだ様子で、そう言った。
……まあ、大事な話って事前に伝えてあるし・・・。普通、この状態で男が言うことなんて、告白に決まってる、よな。
由紀が暗い表情をしていることに、かなりの不安を覚える。
……でも。玉砕、するかもしれないけど・・・今日、言うって決めたんだ。


「……あ、あのさ・・・俺、ずっと言わなきゃって思ってて・・・」

「…………、・・・」

「由紀は、こんなこと言われたら困るかも・・・しれないけど」

「…………!」

「……俺、ずっと前から、」

「や、やっぱり嫌!!」


意を決して言おうとした告白は、由紀の声に遮られた。
由紀は、「嫌だ」と口にしながら、目に涙を溜めて俺を見ている。


「いや・・・嫌だ。言わないで……。このまま、マネージャーでいさせて、っ」

「……っ、ごめん」


由紀の声は、震えていた。……つまり由紀は・・・部員とマネージャーという俺たちの関係を、変える気はないんだ、な。


「・・・ごめんな、由紀。もう、言わないから」

「ごめんなさい、悠斗くん・・・」

「いや・・・本当、ごめん。マネとして支えてくれてんのに、変な感情持っちゃって・・・」

「違う・・・あたしがわがままなだけなの! わがままでも・・・マネージャー、続けたいのっ」

「……そう、だよな。俺がこんなこと言ったら、続けにくいよな・・・」


これから1年近く同じ部活でやっていくんだもんな・・・。一応部長とマネって間柄だから接点も多いし、気まずい、か・・・。


「ごめんなさい、ごめんね・・・。わたし、今まで以上にマネージャー頑張るからっ・・・だから、辞めろなんて言わないで、っ」

「……ん、・・・え? ……いや、言わねーよ?」

「……え?」


振られたことに落ち込みつつ、震える声でマネージャーを続けたい、という由紀をなだめていると、なんだか不思議な言葉が耳に入った。「マネ辞めろ?」。俺、告白断られたらマネージャーを辞めさせるような鬼畜人間に見えてたのか?


「いや・・・別に、告白断ったからって、気まずいからマネージャーやめろなんて言わねーよ?」

「・・・告白? 大西さん、断ったの?」

「え? つばさ?」

「キャプテン、大西さんに告白断られたの!?」

「……俺、つばさに恋愛感情も持ってないし告白した覚えもないけど・・・。俺が断られたのは、由紀に・・・だろ?」

「あ、あたし・・・?」

「俺、由紀に告白して……断られたんだろ?」

「こ、断らないよ!!!」


事実関係が、いまいちよく分からない。
お互いに頭にはてなマークを浮かべながら、おかしくなっている現状をひとつひとつ確認していく。


すり合わせをした結果、こういうことらしい。
俺が由紀に伝えたかったのは、シンプルに、由紀が好きだという事実だ。
でも、由紀は……俺に、マネージャーを辞めるように言われると思っていた、らしい。
えーと、ここからは本当に謎・・・なんだけど……。
由紀の中で、俺とつばさは、両思い・・・というか、お付き合いをしていることになっているらしい。んで、俺は自分の彼女であるつばさともっと長く一緒にいたいがために、新学期になったらつばさをマネージャーとして野球部に入れる計画を立てていた、と。
でも、ベンチに登録できるマネージャーは基本1名。邪魔になった由紀にはマネージャーを辞めてもらいたい。だから、夏休みが終わった今日、マネをつばさに引き継ぐように“大事な”話をしに来た。


……えーと、つばさはどこから出てきたんだ?
つーか、俺どんだけ性格悪いやつだよ!





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