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李衣さま

01


※ふたりの子どもが出てきます
 本編より、3年後の物語



「けい、ダメだってば…。それ飛ばしたら…片付け、慧がするの?」

「相変わらず寝言が多いな」

「…………ふぁっ!?」

夢の中。舞い散るティッシュに呆然としつつ、ひとり息子の慧にお説教をしていたあたしは、紳の声でハッと目を覚ました。
あれ? ティッシュ……なんて思いつつパチパチと瞬きをしていると、うっすら笑みを浮かべながらこちらを見ている紳が目に飛び込む。

「で? 慧が何を飛ばしたって?」

「てぃっしゅ…」

「……微妙にありそうで嫌だな」

ぽんぽん、と頭を撫でられて、ようやく頭が覚醒してくる。
まったく、もう。紳ってば、絶対あたしより先に起きちゃうんだから。あたしは、悔しさを込めて、紳の胸元に頭をぐりぐりと押し付けた。

「朝ごはん…作んなきゃ」

「今日は休みだ。まだ寝ていろ」

「ううん。そういうわけにもいかないよう」

ふあぁ、とあくびをしつつ、もそもそとベッドから這い出る。スリッパを足に引っ掛けて足を踏み出そうとした瞬間、腰に紳の腕が絡みついた。

「わっ? もう、何?」

「もうちょっと寝てろって」

「やーでーすっ。朝ごはん作るから、離してくださいな」

「こっち来いって」

「いーやーだーっ!」

休日の紳は、ちょっと甘えんぼな気がする・・・。
いつも会社では見せないあま〜い顔の紳を見ていると、ちょっとした優越感みたいなものを感じたりもするけれど……。でも、正直寝起きでちゅーするの、やだ。
紳は大丈夫だよ? 元悪魔だからか、朝歯磨かなくてもにおいとかないし。でもあたしは……なんかちょっと、やっぱり歯くらい磨きたいよう。

「歯磨かせてっ」

「大丈夫だ」

「大丈夫じゃないーっ! 紳はいいよ? いつでもいいにおいするしっ。でもあたしはダメなのっ」

「大丈夫だって…」

力で紳に叶うはずもなく、あたしはずるずるとベッドに引きずり込まれていく。
抱き込まれて、ああもうダメだ…なんて思った瞬間だった。

「ふぇ、ふえぇぇっ…」

「あ、慧くんっ!」

「…チッ」

「自分の子どもに舌打ちしないのっ」

近くのベッドで寝ていた慧が、ぐすぐすと泣き声を上げた。さすがの紳も、腰から腕をほどいてくれる。慧は、寝ぐずりしているようで……絶対、あたしたちがうるさかったからだ。ぽんぽん、と肩を叩いていたら、徐々に落ち着きを取り戻した。

「もう。紳がうるさくするからだよう」

「騒いでいたのはあずみだろう?」

「むぅ……」

膨れながら、紳に文句を言ったその瞬間。
バシン、と上のほうから音が鳴った。ため息をつきつつ振り替えると……枕が天井にくっついているのが見える。
かわいそうだけど……と思いつつ、あたしは慧をとんとん、と揺すった。枕が落っこちてきてぶつかったらシャレにならないし。

「あぁ、もう。慧、ごめんね? 起きて?」

「うぅ、ふえぇ…ママ、」

「おはよ、慧。ごめんねー起こしちゃって」

「っと」

途端にヒューと音を立てて落ちてきた枕を、いつの間にか起き上がっていた紳がパシッと掴んだ。
紳は枕を一瞥して、ふん、と鼻を鳴らす。

「だんだん飛ばすものが大きくなってきているな」

「んもう。どうしよう、将来家とか飛ばしたら……」

「大丈夫だ。基本的に、幼子の方が力は強い。感情がコントロールできるようになれば、次第に身を潜めるだろう」

紳の悪魔の力は、完全には消えていなかった。
や、普通の悪魔なら人間になった時点で全部の力が消えるらしいんだけどね? 悪魔の中でも魔力が強かった紳の場合は、気配を読む力とか、ちょっとした予知能力が残っていて……。
それが、あたしたちの子どもにも受け継がれたの。サイコキネシスっていうのかな? 念動力みたいなもので、ものを動かせちゃうんだ。夢で慧がティッシュを飛ばしまくってたのも、あたしがこの力を気にしていたせいだと思う。

「わあ、ごめんごめん慧。ご飯にしましょーね?」

起こされたせいかな? ぐずぐずと泣きそうになっている慧をあやしながら、リビングへ向かう。

「しんー、ちょっとだけ慧のことお願いー」

「ああ」

枕をベッドに戻したらしい紳が、リビングに入ってくるのが見える。声をかけると、紳は無表情のまま慧を抱っこした。
最初はね、紳ってば慧のこと抱っこできなかったんだよう? 魔界の人たちって、子育てしないんだって。魔界の厳しさを学ばせるために、生まれた瞬間その辺に放置しておくとか……、なんて恐ろしい。
でも、徐々に慣れていって、いまでは紳ひとりに慧を任せられるようになった。

「ではでは、ご飯作ってまいりますっ」

「あぁ、よろしくな」

柔らかい笑顔で笑う紳に敬礼して、キッチンに向かう。
この間2歳になった慧は、そろそろあたしたちと同じようなものを食べられるようになってきた。野菜、なるべくちゃんと食べさせないとな。

というわけで、朝食は野菜スープに決定。細かく野菜を刻んで、鍋でことこと。昨日の夕飯で残ったご飯をおにぎりにして・・・あと、ハムエッグもつけちゃおーっと。果物は、さくらんぼとバナナがあるや。これでいいかな?

「はーい、お待たせしました。……ちょっと紳? 何やってるの?」

「ん? あずみの出迎え、かな?」

「だーめっ。もう……慧、もとあったところに戻しなさい」

「あいっ」

膨れながら慧に言うと、宙を飛び回っていたぬいぐるみと機関車のおもちゃが元の玩具箱へとおさまった。
……まったく、紳ってば、慧で遊ぼうとするんだからっ。

「ご飯できたよーう。慧、食器とばさないでね?」

「あいっ」

「はい、じゃあ・・・いただきます」

「いただきます」

「いあーましゅっ!」


両手を合わせて言うと、慧と紳がそろって復唱する。
うーんなんか……幸せだな、とか、思ったりなんかして。

あたしと紳は、高校を卒業してすぐに結婚した。結婚式も挙げて、もちろん千夏や奈緒ちゃん、美姫ちゃんも呼んだよう。
そんでもって、紳が経営している会社のお手伝い(っていっても秘書まがいの、紳のスケジュール管理くらいだけど)をして。1年くらい経った頃に、妊娠した。21歳の年に、無事に長男、慧が産まれんだ。

たまーに、ね。中学のときの友達なんかに言われるの。あと、ヒロ兄のお母さんにも言われたな。
『そんなに早く結婚して、後悔しない?』って。普通なら、まだ遊んでる時期なのに、結婚相手を決めるのは早いんじゃないって。
でもあたし、そんなこと思ったこと、一度もないんだ。紳以上の人なんて、この先絶対現れないし、もう一度人生やり直すことになっても、あたしは紳に出会って紳とずっと一緒にいたいと思う。
紳がいて、慧がいて、大事な友達もたくさんいて。後悔なんか、するわけないんだよう。



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