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京さま

01


※本編終了後のお話



「アンタはもう・・・。母親に気を使ってどうするの!」

「で、でも・・・お母さんにって言うより、橋本さんがご迷惑かと・・・」

「つばさちゃんが来てくれたら僕だってうれしいよ? きみのお母さんには、昔からお世話になっていたんだから。そんなに気を使う必要なんてないんだ」


橋本さんが、困ったように笑いかけてくる。うぅ・・・すみません。

――本日は、1月4日。
年が明けてまもなくのある日、わたしは転校以来はじめて母がお世話になっている橋本さんの家に伺っていた。約10か月ぶりに会う母。母は、久しぶりに会ったわたしを見て、一瞬表情に懐かしさを浮かべた後……急に、ぷりぷりと怒り出してしまった。


「しかも、年末年始によそ様の・・・お友達のお宅にご迷惑かけて! 電話も通じないしっ」

「あ、あー・・・ごめん」

「それより、疲れただろう? 新学期がはじまるまではこっちにいられるんだよね? 何か食べるものを……」

「あ、あのっ!」


橋本さんってば本当に優しい。隣で般若顔しているお母さんと比べると、菩薩みたいに見えるよ。
そんなことを思いながら、けれどもっと大事な用件があったことを思い出して、わたしは口を開いた。


「え、えーと・・・実は、お母さんに会わせたい人がいて・・・」

「……会わせたい、人?」

「え、えぇ? つばさちゃん、それってもしかして・・・」

「あ、・・・橋本さんもいまお時間大丈夫ですか? その・・・」


言いながら、携帯をポチポチと押して、葵にワンコール。葵はいま外で待っていて……わたしが場を落ち着かせたら家の中に入ってくるって話をしていたんだよね。


「つ、つばさ? 会わせたい人ってまさか・・・いえ、つばさって女子寮にいるのよね? だったら……」


ピンポーン。
お母さんの発言を遮るようにチャイムが鳴る。そりゃそうだ。葵、橋本さんの家の目の前で待ってたんだもん。

お母さんと橋本さんは一瞬目を合わせて……それから、ふたりして恐る恐る・・・といった様子で玄関に向かって歩き出す。
そして、ドアを開けた瞬間・・・お母さんが、ふらりとふらついた。慌てて橋本さんがそれを支える。


「あ、あ、あ・・・!」

「は、はじめまして。佐伯 葵です。今日はお話があって……」


スーツ・・・とまでは行かずとも、黒いジャケットとシャツで普段よりかしこまった格好をしている葵が、これまたかしこまって挨拶をする。
うーん・・・やっぱりカッコいいわー。

なんて、こんな状況にも関わらず口元を緩ませていると、お母さんが蒼白になりながら振り返った。


「つ、つ、つばさ! どういうことなの、説明なさいっ!」


お母さんがそう言った瞬間、葵がじとっとわたしを見た。目が、「場を落ち着かせるために先に入ったんじゃねーのかよ」と語っている。……いや、どんなに落ち着かせておいても、葵を見た瞬間お母さんってばこうなったと思うよ?








**********


そんなこんなで。
わたしはお母さんと橋本さんに事の経緯をざっくりと説明した。ざっくりと……ちょこちょこ内緒にしつつ、4月以降のあらましを。


「そ、そう・・・。それじゃあ佐伯くんは、同じ学校の男の子というわけ・・・」

「うん、そう」

「『うん、そう』じゃないわよ! アナタ大体、学校の子の家で新年を過ごすって……まさか、佐伯くんのお宅で過ごしたわけじゃないわよね!?」

「そうです、ごめんなさい。でも・・・ほかの友達も一緒に泊まった、し」


ほかの友達・・・悠斗くんもカナも男だってことは伏せておく。それから、ふたりが年末には実家に戻ったことも。……大晦日やお正月は葵とふたりっきりだったなんて知ったら、お母さん発狂しそうだしなぁ・・・。
そもそも、男子寮で生活しているなんてバレたら、お母さんは首根っこ掴んでもわたしを家に連れ戻すだろうし・・・わたしは、その辺りのことを伏せながら説明をしていた。


「そ、そう・・・。まあアンタ、昔から男女問わず仲良くしてたものね・・・。昔、リサちゃんと一緒に英太くんも泊まりに来ていたし……」

「ちょ、ちょっとお母さんっ!」


お母さんがその発言をした瞬間、葵をまとっている空気が急に冷やかになる。恐ろしいほど冷たい視線を感じて、わたしはお母さんの発言を慌てて抑えた。


「……それで? 今日はどうして佐伯くんを連れてきたの?」

「あ、えと・・・その……、葵が、家に帰ったほうがいいって・・・」

「佐伯くん、が?」

「う、うん。その・・・怒られました、葵に」

「……すみませんでした」


目を丸くするお母さんに、葵が頭を下げた。

……そう。今回家に帰ることになったのは、葵に怒られたせいなんだ。
わたしは今まで、葵に自分のこと・・・家に帰らない理由とか、男子寮にい続けたい理由を話したことはなかった。葵の家に比べると全然大きな問題じゃないような気がして、言いにくかったっていうのもある。
でも、葵が・・・やっぱり年末年始に家に帰らないのはまずいだろ、なんて言い出したのをきっかけに、いろいろな事情を話して……そしたら、葵に怒られた。「すぐに母ちゃんのところに顔見せに行け」って。
でもでも、なんて渋るわたしに葵は言った。「お前の気持ちもわかるけど、俺みたいに会いたくても会えない人もいるんだ。大事にしろ」。その言葉を聞いた瞬間、いままで自分がしていた遠慮とか、お母さんへの気遣いとかが、もしかしたら勘違いなのかな、って思いはじめて……。
同時に、葵に対してすごく申し訳ない気持ちになった。

そんなことがあってわたしは今回帰省を決めたんだけど……葵が頭を下げた瞬間、まさか葵がそんなことをするなんて思わなくて、慌ててしまった。
だって葵・・・何も悪いことしてないのに。


「あ、葵? なんで・・・頭上げてよ。今回のことはわたしが100%悪くて・・・」

「違う。……学生の娘さんを家に帰さずに・・・すみません」

「ち、違うのお母さん! わたしが悪くて・・・葵はなにも悪くないのっ。本当にごめんなさい!」


どうしよう・・・!
頭を下げる葵を見て、お母さんはふう、と息を吐く。それから、「佐伯くん、顔を上げて」って笑った。


「心配しました、とても。連絡手段は、ほとんどメール。電話も極まれにしかよこさないで・・・」

「ご、ごめんなさいっ」

「佐伯くんも・・・自覚はあるようだけど、高校生の身分で娘を外泊させて……」

「はい、・・・すみませんでした」

「だから、違うんだってば! 葵じゃなくて、わたしが悪いの! 今回も、葵に言われなかったらわたし、帰ってくる気なんてなくて・・・」

「アンタは黙ってなさい。……佐伯くん?」

「はい」


お母さんに呼びかけられた葵は、真剣な表情で頷いた。


「……猪突猛進でバカな娘ですが、よろしくお願いします」

「え、え?」

「ありがとうございました、うちの娘を怒ってくれて。反省をしなきゃならないのはわたしだわ。娘の遠慮なんて気づきもしないで、忙しくて帰れない、なんて説明を真に受けて……」

「ご、ごめんなさいお母さん・・・」


しゅんとしつつ、頭を下げる。
わたし、本当にバカだったなぁ・・・。遠慮した結果が、逆に心配かけることになるなんて思ってなかった。葵に怒られなかったら、いつまでたっても気がつかなかったかもしれない・・・。

と、そこまでの会話を聞いていた橋本さんが、パチンと手を鳴らした。


「よし、じゃあ・・・夕飯にしようか。つばさちゃんも佐伯くんも、食べていけるんだろう? 佐伯くんも、よかったら今日泊まっていきなよ」

「いえ・・・そんなご迷惑はかけられないんで」

「ひとりくらい迷惑なんてことないよ。ささ、こっちにおいで」


橋本さんが葵を引っ張って出て行った。残ったのは、わたしとお母さんのふたりきり。
お母さんはぺこりと橋本さんに頭を下げた後、わたしに向き直る。



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