Side Kanoko
「やだ・・・だめ……」
「じゃあ、どっちがいいんだよ?」
「ど、どっちって……」
指が、揺れる。
「なあ、言ってみ?どっちだよ?」
「……っ!・・・こっち」
わたしがそういうと、玲央はにやっと笑った。
「じゃあ、こっちだな」
そう言いながら触れたのは、わたしが望んだ方とはちがくて……。
「や、やだっ・・・あ、やぁあっ!」
「言いたいことあるなら言えよ」
「だって、そっちじゃな・・・や、やだぁあっ!」
玲央の指は、容赦なく……。
「はい、そこまで」
パンッと、いう音。そして、玲央のうめき声。
「いってえ・・・っ!なにすんだよ!サコ!」
サコは、玲央の頭を教科書ではたいた。
「たかがババ抜きで、なにテンションあがってんのよ。っていうか玲央。あんたの場合は確信犯でしょ?」
「つーか、今のはかのこもテンションあがりすぎだろ。字だけ見ると、明らかに怪しいし」
ユキが、携帯をいじりながら呟く。
「へ?何の話?」
訳がわからなくて聞き返すと、ユキがにこっと笑った。
「玲央、何の話?」
「うっせーな」
玲央はぶっきらぼうに呟くと、結局ジョーカーじゃないほうのカードをわたしの手から引いた。そして、ハートとクローバーのクイーンを、場に放る。
結局、負けた。
いつも休み時間にやっているババ抜き。 わたしたちは、いつものメンツで休み時間を過ごしていた。
佐古田彩。 わたしにとって、お姉さんみたいな存在の人。いつもいろいろお世話になってる。
溝井玲央。 仲のいい男友達。ちょくちょくわたしのことからかうんだ。
金田由貴。 同上。通称ユキ。なぜか年上女性にめちゃくちゃモテていて、いつも違うOLさんとか女子大生が迎えに来る。
3年間クラス替えのないわたしたちの学校。 高1のときから、ずっと仲のいい友達。
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あのあと、わたしは、笹川さん……遥ちゃんの家で過ごすことになった。 しぶしぶという感じだったけど、なんとかOKしてくれて。 だからわたしは今、ここにいられる。
東京の生活は、自由で、すっごく楽しくて。 わたしは、毎日の幸せをめいっぱい噛みしめていた。
ガラッ
「席つけー。授業はじめるぞー」
と、教室のドアが開く。 チャイム、5分前に鳴ってるっつの。
入ってきたのは、遥ちゃん。 ……通称、笹川先生。
驚くべきことに、わたしは彼のクラスの生徒になった。 “遥ちゃん”の愛称で、生徒に慕われる、大人気の先生。
女子生徒にも大人気の遥ちゃんが、 実は家では半そで短パンで過ごしていることとか、 酒癖が結構悪いこととか、 寝起きが史上最悪なこととかは……きっと、わたししか知らない。
「遥ちゃーん。授業とっくにはじまってるけど」
「悪いな。ちょっとやることいっぱいあってさ。つか遥ちゃんって呼ぶな」
遥ちゃんは、笑顔で返す。 ……寝ぐせ、ついてる。 また寝過ごしたな……。
「とかいってー。本当は、保健の土屋先生と逢引してたんじゃないのー?」
「してねーっつの。いいから席つけ」
そして、なぜか保険の土屋先生とデキてるって噂がある。 一緒に生活してるけど、そんなことない。 ……この噂は、正直なんかむかつく。
この高校に入学して1年半。
わたしは、すごく幸せに――。 学校生活を、送っていた。
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