初登校だよぉー
……うーん、やっちったなぁ。
「11時40分、かぁ……」
――翌日。 目が覚めてすぐに手元のケータイを覗き込むと、ディスプレイのデジタル時計に並んでいた数字は、11:40……11時40分でした。 昨日、寝る前にケータイのアラームセットしたんだけどなぁ・・・。失敗しちゃったのかなん?
「うぅ・・・ごめんよぅ、リッちゃん」
やっぱり、5月なのに寒いよぅ……。 リッちゃんに謝罪の言葉を述べつつ、布団を頭までかける。……ガッコ・・・ガッコは、明日からいけばいいよね? もう、こんな時間だし……ガッコまで電車乗っても30分くらいあるしぃ。
もう一度寝の体勢に入った瞬間、脳裏にリッちゃんの毅然とした顔が浮かぶ。 『寝坊しないでくださいね』って、言ってたなぁ……。リッちゃん、わざわざうちまで来てくれて……そんでもって、オレのためにノートのコピーまでしてくれたんだよねぇ。 これ、約束守らないとか最悪な気がするよぅ。
「……ガッコ行ったら、リッちゃん喜んでくれるかなぁ・・・?」
クラス替えがどうなったかはわからないけど……。 いまのところ、新しいクラスで唯一の知り合いなんだよねぇ、リッちゃんって。だったら、悲しませたらダメだよね?
「……ガッコ、行こっと」
はぁ、とひとつため息ついてから、オレは布団を蹴っ飛ばした。 うー、ぶるってする……。
「制服、どこにしまったっけ……? ネクタイ・・・は、してかなくていいかなぁ? あれつけると苦しいしぃ・・・」
ぶつぶつ独り言を言いながら、ガッコへ行く準備をはじめる。 顔洗って寝癖なおして、歯磨いて。それから、制服着て・・・スクールバッグ、どこだろ? ……ま、いっか。
ケータイと財布、リッちゃんにもらったクリアファイルをその辺にあったトートバッグ的なものに放り込む。……これ、雑誌の付録だっけぇ?
「出発しんこー。リッちゃん、待っててねん」
最低限の用意だけ済ませて……12時15分。オレは、約1か月半ぶりにガッコへの道を歩き出した。
「教室、間違えちった♪」
家を出て30分後、オレはガッコに辿り着いた。えへへ〜、迷わなかったよぅ。 でもでも、うっかり1年のときの教室に行っちゃいました。でも、その教室の女の子にカッコいいって言われたんだぁ。ちょっとテンション上がったぞ♪
1年生のときは3階、2年生は2階になるんだねぇ。オレは、階段をとんとんと下りながら、リッちゃんからもらったプリントを見た。 新しいクラス……2−Aですねぇ。
「あれ? 永瀬くん??」
「そーちゃん、学校来たんだ。相変わらずカッコいいねー」
「そだよぅ。久しぶりー♪」
2階に着くと、見知った顔が声をかけてくれる。 うん。やっぱし、女の子は優しいなぁ♪
女の子は、好きだよぉ。優しいしかわいいし、いい香りがするし……みーんな、オレに甘いから。オレがバカで勉強できなくても、笑ってくれるから。だから、好きなの。
「とーちゃく! ……う、うーん・・・。やっぱり緊張するよぅ」
愛想振りまきつつ歩いていると、目的の教室……2−Aに到着した。 ドアの前で、ふぅっと一呼吸。よ、よーし・・・ドア、開けるぞぅ。
「お、おはよ・・・ございまぁす……」
いまはちょうど、お昼休み。 オレもお腹空いてきたなぁ、なんて思いながらドアを開ける。 かぼそい声で挨拶をした瞬間、クラスメイトの目がこちらに注がれた。みんな、ちょっと驚いたような顔でオレを見ている。
オレは、きょろきょろと教室を見渡した。 り、リッちゃんどこ!? リッちゃん、リッちゃんカムバック!!
「永瀬くん……もう、昼休みですよ?」
「リッちゃんっ!!」
リッちゃんの姿は、教室をいくら見渡しても見つからない。なぜに!?と慌てていると、後ろから声が聞こえる。振り向くと……ハンカチで手を拭いながら、呆れたような目でオレを見上げるリッちゃんが立っていた。 オレは、知っている人に会えた喜びからか昨日のニノマエで、ガバッとリッちゃんに抱きついてしまう。 リッちゃんは、昨日のニノマエか、オレの腕の中でカチコーンと固まってしまった。
「わ、わあぁ・・・。ごめん、ごめんねぇリッちゃん。昨日のニノマエになっちゃったねぇ」
「に、二の舞ですよ永瀬くん。離していただけます、か・・・、わっ!?」
「何してんだよ、律」
「あ、進ちゃん・・・」
そっかぁ、ニノマエじゃなくて二の舞かぁ・・・。 リッちゃんを抱きこんだまま納得していると、ふいにリッちゃんが腕の中から消えた。
「あり? リッちゃんワープ・・・?」
「ちげーよ。……永瀬、久しぶりだな。学校来たのか」
「はりゃ? ……あ、えーと・・・進之介っち?」
「その呼び方やめろっつーの」
リッちゃんは、消えたんじゃなくて進之介っち……遠山進之介(とおやま・しんのすけ)に引っ張られていただけみたい。 進之介っちは、1年のときも同じクラスで……委員長だったから、オレが留年ギリギリになったときにいろいろ助けてもらったんだよねぇー。
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