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報告しようとした矢先


翌日――。
朝、オレはケータイの着信音で目を覚ました。
誰だよぅ、こんな朝早くにぃ・・・。
そう思いつつケータイのディスプレイを覗き込むと……はりゃ、進ちゃん?


「もしもし? なんだよぅ、こんな朝早くにぃ」

『別に朝早くねーよ。もう7時半だ』

「7時半・・・? えぇー、でもリッちゃん来てないよぅ?」

『お前、律が来る前に起きとけや! ……ま、いいや。その律から伝言なんだよ』

「ほえ?」


寝起き一発目に聞くのが進ちゃんの声とかテンション下がるなぁー。
この2週間、毎朝一番最初に聞いてたのってリッちゃんの声だったから・・・。なにが悲しくて進ちゃんの声で……。


『おい、おい! 聞いてんのか?』

「聞いてにゃい」

『聞け! とにかく、今朝律はそっちに行けないそうだ。ざまあみろ!』

「えぇー!? なんでぇ!?」


今日、いろいろ報告しようと思ったのに!
そう思いつつ進ちゃんに問いかけると、進ちゃんはなぜか楽しそうにリッちゃんがうちに来られない理由を話し始めた。
リッちゃんってば、クラスの委員をやっていて・・・今日、挨拶当番?なんだってぇ。校門の前に立って、全校生徒に挨拶する役割らしいよぅ。
それで、8時前にはガッコに着いていないといけないらしくて、先に行くんだってさぁ。ぶー、リッちゃんに会いたかったよぅ。
っていうか、進ちゃんホントオレに厳しい! ざまあみろなんて、オレはじめて言われたよ!?


『とにかくだ、これを機にお前も律離れを・・・』

「絶対、やだ! っていうか、なんでリッちゃんの伝言、進ちゃんから来るんだよーぅ。オレ、直接リッちゃんから聞きたかった・・・」

『律は携帯持ってないんだから仕方ねぇだろ』


それは・・・もっともだけどさっ!
でも、この連絡のためにリッちゃんが進ちゃんに会いに行ったかと思うと、なんだか胸んとこモヤッとするなー。
……この感覚も、よくわかんにゃい。これもリッちゃんに聞けばわかるかな?


『律が気にしてたみたいだからよ、絶対遅刻すんなよ』

「うん・・・わかった。進ちゃん、わざわざありがとー」

『いいってことよ。律が迎えにいくより100倍いい。じゃあ、またなー』


そう言って、進ちゃんはプチっと通話を切った。
年度末もそうだったけど……進ちゃんって、普段オレに冷たいけど面倒見はいいんだよねぇ。いまだって、リッちゃんのことでオレに敵対心?を抱きつつも、わざわざ電話くれるし……。


「リッちゃんに心配かけたくないし、急ごーっと」


進ちゃんとの電話のおかげで、なんだか目もすっきりしていることだし・・・。
早くガッコ行って、リッちゃんに挨拶しよーっと。








**********


「おはよー、リッちゃん! オレ、ちゃんと遅刻しないでガッコ来たよぅ! 褒めて褒めて♪」

「おはようございます、永瀬くん。早く起きて、すごいですね」

「えへへー。わーいっ!」


ガッコの校門前に着くと・・・いた、リッちゃん。
「挨拶運動中」なんていうダサめのたすきをかけて、校門をくぐる生徒に挨拶をしている。
スキップしながら校門に近づくと、リッちゃんはほっとしたような顔をして見せた。


「すみません、昨日お伝えするのを忘れていて・・・」

「いいってことよぅ! 進ちゃんから電話きたよぉー」

「はい。昨晩、進ちゃんの家に行ってお願いしておいたんですよ」

「ほ、ほぅ・・・」


あり? なんだか、またモヤッと来たぞぅ。
昨晩、進ちゃんの家・・・とな? なんだか、ちょっと怪しい響き?
オレは、胸の前で手をパタパタさせて、モヤッとした感情を散らした。リッちゃんが、不思議そうな顔でオレを見る。


「どうかされましたか?」

「う、ううん。なんかちょっとモヤッとくんが現れただけ・・・?」

「モヤッとくん?」


モヤッとくんは、なかなかオレの胸のところから消えてくれない。うぅーん・・・なんだろ、これ。
……っていうか! オレ、リッちゃんに報告することがあったんだ!
まぁ、ここで言うのもちょっと変だから……また、後にしよっかにゃ。


「あのね、リッちゃん。オレ、リッちゃんに報告することがありますっ!」

「報告、ですか?」

「うんっ! あのね、昨日お腹熱くなって……それでね、オレ決めたの!」

「お腹・・・熱い?」


リッちゃんは、オレのシリメツメツな言葉に首を傾げる。
オレは、そんなリッちゃんににっこりと笑いかけた。


「それは、後のお楽しみぃ♪ また後で、聞いてねん!」

「あ、はい。それでは、また後で」

「そのときは、ちゃんとシリメツメツにならないようにまとめておくから!」

「支離滅裂です、永瀬くん。では、楽しみにしていますね」


リッちゃんはうっすらと微笑むと、「それから、」と言葉を続けた。


「永瀬くん、昨日提出の宿題、やってきましたか?」

「ほぇ? あ、うんっ! 昨日頑張ったんだよぉー!」

「それなら、朝まだ時間もありますし・・・職員室に届けて来てはいかがでしょう? 始業前なら、たぶん提出遅れにならずに対応してくれますよ」

「ほんとう!? わかった♪」


リッちゃんに言われて、昨日の夜必死こいて解いた数学の宿題の存在を思い出す。
えへへ。リッちゃんって、オレのことみーんなわかってくれてるよねぇ。


「じゃあ、また後でねぇ!」

「はい、また後で」


ぶんぶんと手を振ると、リッちゃんは小さく手を振り替えしてくれた。
うへへ。今日も頑張るぞーっと!








**********


職員室が好きな生徒って、ごくたまぁーにいるよね。
オレ、そういう人って信じらんないんだよねぇ。
職員室なんて妙に威圧感あるし、オレ頭髪服装ボロボロだからセンセーたちから嫌な視線感じるしで・・・極力、行きたくない。

でも、そうも言ってられないし……ってことで、オレはいま宿題を提出するために職員室に来ていた。
数学の鈴木センセ、いるかにゃー?


5月もそろそろ後半。梅雨を目前にしたこの時期は、湿気が多くてじっとりと汗ばむ陽気だったりする。オレ、夏より梅雨のが嫌いなんだよねぇー。
とにかく、そんな気候のせいもあってか、職員室のドアは全開になっていた。
入りたくないな・・・なんて思いつつひょこっと覗き込むと……いた、鈴木センセ。担任の男性教師、佐藤センセとお話してる。
鈴木センセは、机に肘をついたまま口を開いた。


「でも、さすがですねー里中さんは。あの問題児を学校に来させるなんて」

「本当に。貧乏くじを押し付けてしまって申し訳ないことをしてしまいました」


里中・・・って、リッちゃんのこと・・・だよね?
リッちゃん、職員室でも話題にのぼるなんてすごいなぁー。
そんでもって、リッちゃんが「さすが」とか言われてると、オレまで嬉しくなってくるよぅ♪


「まぁ、永瀬くんもきちんと学校に来るようになりましたし……そろそろ子守りを卒業させてあげてもいいんじゃありませんか?」

「そうなんです。成績優秀とはいえ、里中自身大事な時期ですからね。厄介ごとからそろそろ手を引かせてあげないと、かわいそうだとは思っているんですよ」


鈴木センセの口から、ふいにオレの名前が出てドキリとする。
子守り、と……やっかいごと?






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