シリーズ in コンビニ:01
[快楽を呼ぶ悪魔編] ※ネタバレ満載です。
はじめまして! わたし、南高の近くのコンビニでバイトをしている、Aと申します。ちなみに、南高の1年生で、ごくごくふつうの生徒です。
とくに特筆すべきことはない平凡なわたしの話、少しだけ聞いてもらえますか? わたし自身にはお話できるようなことはないんですけど、わたしがバイトをしているコンビニでは、いつもちょっとしたできごとが起こります。 すてきなこと、怖いこと、「あらあら…」と思うこと……。
前置きが長くなりましたね。 つまらない話ですが、聞いてやってください!!
「いらっしゃいま・・・」
いつものようにレジの前でぼーっとしていたわたしは、たった今入ってきた人を見て思わず固まってしまいました。 長身、銀髪、美形。……このキーワードを聞いて、南高の生徒が思い浮かべるのは、たった1人しかいません。 ありえないほどかっこいい、3年の雪平先輩ですっ!!
わー、わーっ!!! 近くでみると、本当にかっこいい! サインとか、もらえないでしょうか・・・!?
そんなことを考えていたら、雪平先輩はずんずんとコンビニに入ってきました。 うわー、かっこいいです!
「紳、かごはー?」
ぽーっと雪平先輩を眺めていたら、先輩の影からひょこっと栗色の頭がでてきました。 小さすぎて、この角度からは見えなかったのですね……。 出てきたのは、雪平先輩の彼女の雪村あずみ先輩。この方もものすごく可愛くて、南高の五大美女に入っています!! 可愛いです! もう、この2人に関しては麗しすぎて嫉妬する気も起きません。セットで見られるなんて今日はついています!
「かごは、いらないだろ」
「いるよう。だって、飲み物も買うんでしょ? あたし持つから」
「……持たせるわけないだろ。りんごジュースでいいんだろ?」
「え、あ・・・。うん! ありがとう!!」
「あずみは、いつもの持ってこい」
「りょーかいっ」
お2人の会話に聞き耳を立てるわたしは、いけない子でしょうか……。でも、とても仲良しでうらやましいです!
雪平先輩は、あずみ先輩(混ざってしまうので、恐れおおいですが雪村先輩をあずみ先輩と呼びます)の話を聞いて、かごを手に取ります。 あの美形がスーパーのかごを持っているって、なんだか不思議な光景ですねぇ……。 それから、雪平先輩は飲み物のコーナーへ、あずみ先輩はスナック菓子のコーナーへと足を進めました。あずみ先輩はりんごジュースが好きなんですね。イメージ通りです! それにしても……雪平先輩が言う「いつもの」とは、なんのことでしょう……?
「ねーねー、紳! 今日、コンソメパンチはー?」
「ダメだ」
「……ぶー。あ、ねえ! ゆずこしょうっていうのも、あるよう?」
「いつもの」
「えー・・・」
あずみ先輩はスナック菓子……それも、ポテトチップスのコーナーを覗き込みながら、雪平先輩に声をかけます。 でも、雪平先輩は言葉少なくそれを却下していっているようです。
「……じゃあ、ガーリック!」
「いつものでいい」
「堅あげポテトは!? おいしいよう?」
「ったく。いつものだ」
「ブラックペッパーもありますが!」
「いつもの」
「ピザポテトは!? 厚切りだってよう?」
「いいから、いつもの持ってこいって」
「もー、頑固!!」
自慢じゃないですが、うちのコンビニはポテトチップスの量がものすごくあります。 あずみ先輩は棚を眺めながら、口を膨らませて種類をどんどんあげていっているようでした。 そのたびに、雪平先輩は首を振って、呆れたように笑います。……笑っているの、初めて見ました。明日、雪平先輩ファンの友達に自慢しようっと。
「……うーん、うーん……」
「ほら、あずみ。行くぞ」
「うーん……。……あーっ!!!」
と。 あずみ先輩が、目を輝かせながら棚の一点に目を留めました。 それから、ある袋を手にとって、ぴょんぴょん跳ねながら雪平先輩に声をかけます。
「しーんーっ!!」
「だから、のりしおでいいって、…………!!!」
「ばかなやつ」とでも言いたげな笑顔で視線を上げた雪平先輩は、あずみ先輩が持っている袋を見て、少しだけ目を開きました。 それを見たあずみ先輩は、「えへへ」と笑います。
「のりしお2倍! Wのりしおーっ!!!」
「…………っ、」
「いかがでしょーう?」
「…………」
「これでも普通ののりしおがいいか!」
へへっと笑って仁王立ちするあずみ先輩。 わー、可愛いですーなんて思っていたら、雪平先輩が小さくため息を吐きました。でも、どう見ても嬉しそうな顔をしています。
「……ま、たまには違うのもいいか」
「素直じゃないんだからー」
「うるさい」
「あはは。……って、何個入れてんの!?」
「うちに何個か置いておく」
「ちょっ・・・太るよっ!?」
……確かに、雪平先輩はポテチをかごに入れすぎです。っていうか、雪平先輩ポテチ好きなんですねー。なんだか意外です! 当然のごとく、あずみ先輩が慌ててそれを止めます。けれど、雪平先輩はふとあずみ先輩に目を向けると、にこりと笑いかけました。……かっこよすぎて、笑えません。
「……はひふんほお?」
思う存分Wのりしおをかごに入れて満足したらしい雪平先輩は、ふにっとあずみ先輩のほっぺたをつねりました。 それから、すーっと視線を下に下げて、あずみ先輩の全身を見ます。
「……太る、ね」
「…………!」
「へーえ」
「…………うっ、」
「あずみは、りんごジュースでいいんだっけ?」
なにやら含みのある会話を繰り広げた2人。 楽しそうな雪平先輩と、ちょっと涙目なあずみ先輩。 ちょっと唸ったあずみ先輩は、かごからりんごジュースのボトルを取り出すと、走って飲料コーナーに向かいました。それから、りんごジュースをしまって、黒烏龍茶を取り出します。
……えぇ? あずみ先輩が、黒烏龍茶ですか!? っていうか、全然太ってないですよ!
「…………お茶にする」
「ははっ。冗談だ」
「お茶にするもんーっ!!!」
――雪平先輩とあずみ先輩のお買い上げ ・ポテトチップスWのりしお×8袋 ・ミネラルウォーター×1本 ・黒烏龍茶×1本
――今日の決意 店長にお願いして、Wのりしおは常に店頭に置いておいてもらいましょう!
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