シリーズ in コンビニ:02
[女王様と不良君編] ※ネタバレ満載です。
こんにちは。 ご存じ、コンビニ店員のAです! この間の1件以来、うちの店舗にはWのりしおが必ず置いてあります。
「いらっしゃいま・・・!!!」
今日も元気にがんばろう! ……そう意気込んでいたわたしは、たった今入ってきた人を見て、思わず固まってしまいました。 入ってきたのは、南高最強の不良と呼ばれる、柴崎先輩です! どうしましょう、怖いです!!
「……あ、う・・・」
殴られたら、どうしましょう……。後ろから、店長を呼びましょうか? ……でも、ハゲかかっていてひょろひょろの店長に、柴崎先輩をやっつけられるとは思えません……。
「……あっ!」
わたしは、おそるおそる目を柴崎先輩に向けました。 そして、あることに気がついたのです。 柴崎先輩、どうやら1人ではないようなのですよ! しかも……一緒にいるのは、「氷の女王」こと氷野先輩ではないでしょうかっ!?
……そういえば、この2人はなぜかお付き合いをしていると聞きました。 入学してすぐ、「南高最強の不良が女王様を落とした」なんて噂が流れたのは、記憶に新しいですから……。
にしても、どうしてこの2人はお付き合いをしているのでしょうか? 柴崎先輩は、言うまでもなく怖いですし……女王様(氷野先輩は、女王様の名前が強すぎて、わたしたち1年生もこう呼ぶのです)も、正直冷たい印象があります。まあ、最初の入学式で見た印象ですが……。 似たものカップルってことなのでしょうか……?
「へーえ、ここがコンビニ」
「コンビニ、初めて・・・なのか?」
コンビニに入った女王様は、開口一番こんなことを呟きます。 ……そういえば、女王様はものすごくお金持ちだと聞いたことがあります……。まさか、はじめてコンビニに入ったのでしょうか?
「ええ。まず、自分で買い物をすることもなかったから……」
「そう、か」
「ええ。……でも、これからはゆずとたくさん買い物するものね?」
「……ああ」
あれ? 今、柴崎先輩……笑、った? ……いやいやいや。まさか、ですよね!
「ゆずー、なに買うのー?」
「今日、うち来る・・・だろ? 飲み物、ないから」
「そう。……あ、じゃあグラスも買いましょうよ。マグカップも悪くないけど……」
「コンビニ、グラスある・・・か?」
「あたし、探してきてもいーい?」
「ああ。……気を、つけて」
はじめてのコンビニにテンションでもあがっているのでしょうか……? いつも冷たい印象のある女王様が、なんだかにこにこしています……! それとも、柴崎先輩と一緒にいるときはいつもこんな感じなのでしょうか……?
「美姫さん、緑茶でい?」
「ええ、大丈夫よ」
柴崎先輩は飲料コーナーへ、女王様はコンビニをふらふらと歩き回ります。 ……うーん。うちのコンビニ、グラスはないんですよね。言った方がいいのでしょうか……? でも、とっても声をかけづらいのです……。
そうこうしているうちに、女王様は窓際で足を止めました。そして、一点をじーっと眺めています。 ……うー、ん……。あの辺に、グラスはないと思うのですが……。というか、あそこは確か成人男性向けの……
「ゆずー」
くるりと振り返った女王様は、眺めていた棚から一冊の雑誌を抜き取りました。 ……あ、あれれ? もしかしなくても……あれ、エロ本というやつではないでしょうか……? しかも、表紙がアニメのイラストのものなので、非常に過激です! だって、なにか汁的なものが散ってますもん!!
「グラス、あった?」
「ないみたいなんだけどね、気になるものを見つけたの!」
首を傾げる柴崎先輩に、女王様はにこにこしながら駆け寄ります。……うーん。先ほどから、笑顔のバーゲンセールですね。
「な、・・・に……!!??」
駆け寄ってきた女王様を見て、少し柔らかい雰囲気を出した柴崎先輩ですが、女王様が持っているものを見て動きを止めました。 それから、あんぐりと口を開きます。
「み、美姫さん!? なに、持ってる・・・?」
「これ、エロ本でしょう? あたしもそろそろ勉強しようと思って!!」
悪びれることなく言い切った女王様は、その場でぱらぱらと雑誌をめくり始めます。 ……ちょっと、衝撃的な展開ですね・・・。
「み、美姫さん! 置いてこい!」
「えー? だって、お付き合いをしている男女はセックスするものでしょう?」
「ちょっ・・・!」
「昔はね、男の性器挿れられるなんてありえないと思っていたんだけど、ゆずなら全然大丈夫だもの」
「だ、ダメ!」
「いつそういう風になってもいいように、勉強しなきゃ。……ていうか、すごいわねー、これ。女の人、こんな声出すの? 『ひぎぃっ、らめぇ、あん・・・そこぉっ!』……そこって、どこ?」
「ダメだって!」
あろうことか、雑誌の音読を始めた女王様の手から、柴崎先輩は雑誌を奪い取りました。 それから、顔を真っ赤にして、首を傾げる女王様を抱き込みます。
「ちょ・・・ゆずっ!?」
「……だめだってば・・・!」
心を落ち着けるように、柴崎先輩は2〜3回深呼吸を繰り返しました。それから、ぽんぽんと女王様の後頭部を撫でて、からだを離します。
「…………っ、」
柴崎先輩が離れた瞬間に見えた女王様の顔は、真っ赤に染まっていました。 ……なんなんだろう、今日。わたし、夢でも見ているのでしょうか……?
柴崎先輩は雑誌を元の場所に戻すと、はあっと息を吐いて女王様の手を引っ張ります。 そこでようやく我に返った女王様が、まだ少し頬を染めながら柴崎先輩を見上げました。
「……あ! あの雑誌、勉強のために買おうと思って・・・」
「18歳以下は、見ちゃだめ」
「えー! あと1年以上見ちゃダメなのー?」
「……だめ」
……柴崎先輩、手早そうなのになぁ・・・。なんか、意外にまじめでびっくりしました。 ……そんなこと以上にびっくりの連続でしたが、びっくりしすぎると、どうでもいいことを考えるものなのですね。
――柴崎先輩と女王様のお買い上げ ・2Lの緑茶ボトル×1 ・プラスチックのカップ×1セット
――今日の決意 18禁雑誌は、18歳未満の方は読んじゃだめですよね、やっぱり!
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