彼女の想い人:01
空白の時間 〜Let's 採点 LOVE編〜
おっす、おらマユ! 3−Aに並んで有名って言われている3−Dで、冴えないけど優しいクラスメイトの彼氏と、平穏ながら幸せな日々を送っている。 3−Dがなぜ有名なのかって問われれば「五大美女」が3人いるから。 うちの学校には、「五大美女」っていう、学校の美少女を5人選ぶ、A○B48ばりの選抜選挙がある。……まあ、新聞部が行っている非公式の選挙だけどね。 うちのクラスの3人……雪村あずみと笹川千夏、それから大澤奈緒は、そんなわけで南高の有名人だった。
3人の動向……とくに恋愛事情的なものは、かわいそうなことに、とっても注目を集めてしまう。 だけど、あずちゃんには雪平くんっていうスーパーかっこいい彼氏がいるし、おかんはその名の通り「おかん」で、学園内ではあんまり女扱いされていないから、そこまで騒ぎになることはない。……ま、そんなこと言いつつ、おかんもモテてるけどね。 そんなわけで、いま注目を集めているのは、奈緒の恋愛事情。 美人で気立てもいいのに、浮いた話をほとんど聞かない。さりげなーく聞いたりもしてるんだけどね。どうやら「大切な人」がいるらしいってこと以外、なにも聞きだせず仕舞いだ。
……うん。だから、ね。 奈緒の「大切な人」がよりにもよってアイツだって知ったとき……。 クラスは、愕然としましたよ。ええ、もう。
空白の時間「彼女の想い人」
「なおー!」
「んー? どうしたの、マユ?」
5月半ばのある日。あたしは、休み時間に奈緒のもとに駆け寄った。 奈緒は、ちょっと眠そうにしながら振り向く。
「リオのRPGなんだけど、奈緒『新緑の神殿』クリアした?」
「したよー。おとといだったかな」
あたしの問いに、奈緒はぐっと拳をつくって頷いた。 さっすが奈緒!
あたしと奈緒は、ゲーム仲間。イケメン主人公、リオが世界を救うRPGに、ふたりして嵌まってる。奈緒のほうが進みはいいんだけどね。
「ちょっとレベル心配なんだけど、奈緒いくつでクリアした?」
「んー・・・。39レベルとかかなー?」
「そっかー。34レベルじゃ低い?」
「37レベルで、マリンが全体回復覚えるから、それ覚えさせてからのほうがいいかも……。あそこのボス、バーサクかけてくるから、無駄に攻撃力高いし」
「あと3レベルねー。どっかおすすのレベル上げスポットある?」
「マリンの特殊装備、“緑化のハープ”がある祠の敵は、経験値いいよ」
「え!? それ、知らない!」
新情報に、慌ててメモを用意する。 奈緒に相談してよかったー!
「またゲーム?」
「奈緒ちゃん、物知りだねー」
奈緒に教えてもらうまま、“緑化のハープ”の場所をメモしていると、ガシッと肩を組まれた。 横に目をやると、にやにや笑いの美人さん、おかんと、パックジュースのミルクセーキを飲んでいるあずちゃんが立っている。 ミルクセーキって……。甘っ!
「なになに・・・新緑の森から、西にある祠・・・? ……なに、これ」
「マリンの特殊装備、“緑化のハープ”がある祠です」
「味方全体にかかる、状態異常ガード効果があります」
「すごーい!」
おかんの問いに笑顔で答えると、奈緒が追加情報をくれた。 すごいぜ、“緑化のハープ”!!
「まーったく。いい年した女の子がRPGって・・・」
「いいじゃん。楽しいよー。おかんもやってみたら?」
「あいにく、わたしは暇じゃないんでねー」
「……彼氏いなくて暇なくせに」
「なんか言ったかね?」
「ふみっ」
リオをばかにするおかんに反抗したら、ほっぺたをつねられた。 ……痛いです。
「あたし、やってみようかなあ・・・」
「あずみはやめときー。なんか、集中しすぎて雪平くんが拗ねそう」
「たしかに! あずちゃん、入り込んじゃいそうだよね」
おかんの言うとおり、あずちゃんは集中しすぎてまわりが見えなくなるタイプっぽい。 そんでもって、雪平くんが拗ねるのもなんか分かる気がする! あの人、あずちゃんのこと溺愛してるもんね。 納得していると、おかんは、チラッと奈緒を見た。
「でも、奈緒も実は入り込んじゃいそうだよね。しっかりしてそうだけど」
「たしかに! だって、進み具合半端ないもん。ね、奈緒? ……奈緒?」
そういえば、先ほどから奈緒は会話に入ってこない。 なぜに・・・? と思いながら、奈緒に声をかけると……奈緒は、校庭をじっと見つめていた。
|
|