彼女の想い人:02
空白の時間 〜Let's 採点 LOVE編〜
「奈緒ちゃん・・・?」
あずちゃんが、校庭をじっと見つめる奈緒に声をかける。 ……なに、見てるんだろう? あたしたちの声、全然聞こえてないみたい。
奈緒に倣って、あたしたちも外を見つめる。校庭では、どこかのクラスの男子がサッカーをやっているみたいだ。 ……いや、どこかっていうか3−Aだね。遠目でも、カラフルな頭の人が3人もいるから、非常にわかりやすい。 前述した、3−Aがうちのクラスと並んで有名な理由。有名な男子が揃っているからだ。 遠目でもキラキラ光る銀髪の持ち主、あずちゃんの彼氏の雪平 紳。ある意味、不良の間じゃ南高で一番有名な、グレイと黒のマーブル頭の柴崎 譲。それから、校則のゆるいうちの学校でも珍しい金髪の持ち主、篠崎 壱。彼は、節操なしで有名だ。奇跡的に、うちのクラスの女子とは関係を持ったことがないみたいだけど……。 たしか彼は、奈緒の幼馴染だった・・・ような……。
「あ、紳だー」
あずちゃんは、どうやら自分の彼氏を見つけたらしく、その名前を小さく呼ぶ。 その、瞬間。なぜか、雪平くんがこっちを向いた。 テ、テレパシー!?
「しんー」
ひらひらと、あずちゃんが校庭に向かって手を振る。雪平くんは、それに片手をあげて答えた。 今は3時間目と4時間目の休み時間なんだけど……。どうやら2時間連続体育らしい3−Aは、休み時間を入れずにサッカーをやり続けているらしい。
「以心伝心だねー、あずみ」
「え、えへへっ」
千夏が言うと、あずちゃんは嬉しそうに笑った。 ……それはそうと、奈緒はなにを見ているんだろう?
「奈緒・・・?」
奈緒の視線は、グラウンドから少し離れたところにあった。 ついつい、奈緒の視線を追ってしまう……と、水道・・・? 先ほどまでサッカーをやっていた金髪・・・篠崎が、水道で女子数名と楽しそうに話している。 ……あいつ、顔もカッコいいほうだし、人当たりがいいから、モテるんだよねー。あたしはよくわかんないけど。
そんなことを思いながら、再度奈緒に目を向けると……奈緒が、窓枠にひじをついて、眉間にしわを寄せていた。
「……な、お・・・?」
「……、」
奈緒は、あたしの声が聞こえないのか、じっと水道を見ている。 ……奈緒が見てるのって・・・篠崎?
「……奈緒!」
なんで奈緒、そんな険しい顔で篠崎を見てるの? と思っていると、ふと下から男の声。 聞き覚えのある声に、思わず視線を下に落とすと……はあはあと息を弾ませた篠崎が、此方に向かって手を振っていた。
「い、ち・・・」
「やっほー、奈緒! 奈緒見えたから走ってきちゃったー!」
篠崎は、うれしそうに笑いながら、「サッカーやってたの見た? かっこよかった?」とはしゃいでいる。 奈緒は……にっこり笑いながら、篠崎に手を振った。
「見てないから知らない」
「えー! 見ててよー」
「壱なんか見てらんないよ。暇じゃないからねー」
「ひっどいよ奈緒!」
篠崎は、腰に手を当ててぷーっと膨れた。 奈緒は……手元のバックから、青いタオルを取り出して、篠崎に向かって投げつけた。
「わぶっ!」
「汗拭かないと風邪ひくよ」
「さんきゅー!」
ヘラヘラ笑った篠崎は、奈緒から受け取ったタオルでごしごしと顔を拭く。 奈緒は、その様子をどことなく嬉しそうに眺めていた。
「いちー。今日、おばさんいないんでしょ? うちでご飯食べるよね?」
「あー・・・。そっかぁ。今日の夕飯、なにー?」
「からあげ」
「まっじで!? うーん・・・でも、今日は約束があって……」
「……そ、う・・・」
――一瞬。 奈緒の声音に、影が落ちた。本当に一瞬だったけど、千夏とあずちゃんも、それを察知したらしい。
「でも、夜行くから、とっておいてー」
「……わかった」
「んじゃあ、今度こそちゃんと見ててよー? サッカーやってるオレ、まじカッコいいから!」
「ばーか」
青いタオルをぶんぶんと振り回しながら、篠崎はグラウンドに戻っていった。 奈緒は、その様子を寂しそうに見つめている。
…………信じらんない。 信じらんない!!!
奈緒の大切な人、わかっちゃった。 それはもう、はっきりと。
「……、あ! ごめん! なんの話だっけ!? 全体回復の話だったよね?」
「……奈緒・・・」
篠崎が完全にサッカーに混ざると、奈緒はようやくこちらに向き直った。 そして、慌てたように自分を取り繕おうとする。
「……あんの、節操なしが!」
その様子は、正直とってもいたたまれない。 それはおかんも同じなんだろう。篠崎を連想させる言葉を呟くと、奈緒の頭をぎゅっと抱きしめた。
「ち、千夏!?」
「あーのーやーろーっ!」
「な、奈緒ちゃん! あたし、ずっと奈緒ちゃんの味方だよう!」
あずちゃんも、ミルクセーキを奈緒に差し出しながら言った。 あたしも、ぎゅっと奈緒の手を握り締める。
「……がんばってクリアしようね」
「う、うん?」
「あたし、今日中に新緑の神殿クリアするから!」
「が、がんばって?」
奈緒は、あたしたちの様子についていけないのか、目を白黒とさせている。 くっそー、篠崎め!!!
「あの野郎・・・奈緒に手出したらゆるさねえ・・・」
「うー・・・。あたしも『コラッ』て言うよ!」
「あたしも、奈緒をヤツから隠してやる!」
「……あの・・・みんな、どうしたの?」
――かくして。 その熱意は、瞬時にクラスに広まることとなった。 すなわち、「奈緒を、あんな節操なしの毒牙にかけてたまるか!」っていう、ね。
この日から、数日後。 「なおなおを迎えに来たー!」なんて論外なセリフを吐く篠崎には悲鳴が浴びせられ、奈緒を守るべく女子陣が篠崎と奈緒の間にバリケードをつくり、「帰れチャラ男!」なんていう、一見ひどすぎる暴言を吐くに至ったのでした。
***** 『Let's 採点 LOVE』の「嫌われているようです」とリンクしている文章です。 マユは、『わん☆わんだふる』に名前が登場しましたね。
A子のお話しが固まるまで、空白の時間・・・ということで、本編のちょっと外側の文章を書いていきたいなーと思っています!
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